第31話 浴場
食事を終えると、アメリアには休んでいてもらって俺は石を並べ始めた。
この作業はたいしたことないと思っていたが、石の上が平らになるように調整するのは大変だった。
もとの世界ならローラーのようなもので押し固めてから並べるんだろうけど、こっちじゃ石の大きさまで不揃いだから、石を置いてみて踏んづけてそれで高さが合わなかったら調整ということになる。
それで何とか6×6と玄関分の2枚の石を並べ終えた。
次に石材屋の親父から教わった方法で角材を『日』の字になるように釘でうつ。
曲がっているが長さだけは正確に切り出された角材はしっかりと形になった。
石材の上に角材を5本、四隅と中央に立てて水と冷気の魔法で固定した。
そしてその上に、キネスを使って『日』にした角材を乗せる。
そこまでは簡単だが、これをどうやって打ち付けるかが問題だなと考える。
「私がキネスの魔法でカエデを持ち上げるわ。その間に釘を打って」
「人間を持ち上げるなんて大丈夫なの?」
「平気よ。カエデのベルトを持ち上げるからね」
そう言ってアメリアは俺のベルトをキネスで持ち上げた。
いやいやいやキンタマがむちゃくちゃ痛いんだけどこれ。
マジかよと思いながら言い出すことも出来ずに、俺は痛みにせかされるように作業を進めた。
それでどうにか作業を終えると、何とか家になりそうな手応えを感じる。
そのあと2人がかりで、カンカン板を周りに打ち付けていたら日が暮れた。
アメリアは口うるさいリリーの指示を聞きながらやっているので大変そうだった。
俺はひとりで気楽にやれているので、それだけはアメリアよりも気楽だ。
これで今日の所は終了しようということになり、俺たちは宿に帰った。
次の日も朝早くからやって来て、ひたすら板を打ち付ける。
板が節やら何やらで正確な長方形ではないため、至る所に隙間が出来た。
それでも釘を打ち込むたびに頑丈になっていくし、形にだけはなっている。
形のいい板は屋根用に取っておいてあるので、壁の方は本当にいい加減だ。
それでなんとか壁を全部打ち付けると、本当に箱が出来た。
扉になるところに外から板を打ち付けて固定してから、リリーの水魔法で扉の形に切る。
俺はリリーを抱えて、尻尾から出る高圧の水流で慎重にそれをやった。
それで外れた部分をアメリアが異空間から取り出した紐で縛って扉は完成した。
そのあと俺は屋根に上って、枕木にキネスで持ち上げた板を打ち付ける。
隙間はなるべく余った木材で塞いでおいた。
そしてコールタールの様な腐食防止剤をまずは屋根から丁寧に塗った。
昼ご飯を食べて乾かしてから、もう一度屋根に塗った。
枕木を置いて屋根を打ち付けたので屋根の下には隙間が空いている。
石材屋の親父の話では、この三角の隙間が煙突のかわりになるらしい。
でも、せっかく暖めた空気が逃げるのではないかと思うのだがどうだろう。
俺が屋根を作っている間、アメリアは部屋を区切るための壁を打ち付けていた。
俺が屋根を終えて下に戻ると、アメリアも作業を終えたところだった。
「あとは部屋と共有スペースを区切る板を打ち付けたら終りね」
熱かったのか顔を真っ赤にして汗だくになったアメリアが言った。
今日は指示しか出していないくせに、人一倍疲れた顔をしてリリーもへばっていた。
「それじゃ最後までやっちゃおうか」
俺たちは最後の気力を振り絞って、それぞれの部屋と共有スペースとの間の壁を作る。
横木を渡してそれに板を打ち付けるだけだ。
それが終わったら扉にするところだけ補強用の板を打ち付けてリリーに切ってもらう。
それを紐で壁に縛り付けて家は完成した。
俺は外に出て出来上がった家を眺めてみる。
ゆがんで穴だらけでひどい出来上がりだ。
しかし蹴飛ばしたくらいじゃびくともしないくらい頑丈なものになった。
ベッドも何もないので今日は宿に泊まることにしよう。
たぶん明日には完成すると思う。
俺たちは一度も泊まったことのない宿を見つけて、そこに二部屋借りた。
お湯も頼むが、今日はタオルで拭くだけで済ませたくない。
宿の親父に入浴できるような設備が街にないか聞いてみる。
「湯が浴びたいなら浴場屋があるぜ。大通りを西の方に1ブロック行ってみろ」
俺は客だというのに何ともざっくばらんな話し方をする。
こっちの商売人はだいたいこんな感じだ。
俺はアメリアも汗をかいたからお湯を浴びに行こうと誘ったら怒られた。
思った以上の拒否反応に俺は訳がわからない。
まあいいかと思って、俺は宿屋の親父に教わった方へ歩いた。
ちょうど薄暗くなっているので、顔を見られずに済む。
しばらく歩くと煉瓦造りのそれっぽい建物を見つけた。
そこで店先の親父に2シール払った。
ずいぶんと安い。
中は壁に照明が掛けられていて明るくなっていた。
カウンターの先は一本の通路の両脇に裸の背中が並んでいる。
この時間だというのにえらく混んでいる。
俺は開いているスペースを見つけて中に入った。
隣から水しぶきが飛んできて困る。
仕切りはかろうじて陰部が隠せるかどうかという程度のものしかない。
俺はそこで服を脱いでボールの中に脱いだものを仕舞った。
目の前には胸の高さくらいにお湯の溜まった風呂のようなものがある。
しかしこれに入るのではなく、こっから桶で水をくんで浴びるだけだ。
ここで俺ははじめて気がついたが、男湯がここなら女湯はどこだろう。
この建物の中全体が一つの浴場になっていて、もう一つ部屋がある訳ではない。
キョロキョロ見回していたら男に紛れてお婆さんが湯浴びをしているのを見つけた。
なるほど、いつもの男も女も一緒くたという奴だ。
こんな所に誘われたらアメリアも怒るはずだなと納得した。
あとで誤解を解いておこう。
俺はお湯を頭から浴びて体を濡らしてから石けんで体を洗った。
全身を洗い終わったところで目の前からお湯を汲んで頭からかぶった。
少し熱いくらいの気持ちのいいお湯だった。
それで泡を洗い流してから体を拭いて、一歩下がったところで服に着替える。
服の方は周りの人がかぶっているお湯のしぶきが飛んで結構濡れてしまった。
俺はいい気分で浴場から出て、ワープゲートを開いて宿に帰った。
結局、仲間を探す方は家を作ることで手一杯で、まったく手を付けていない。
明日こそ探そうと思いながら、俺はアメリアの部屋のドアをノックした。
最近では日課のようになった科学の時間である。
「帰ってきたのね」
「うん、あんなとこだと思わなくて誘ってごめんね」
「いいわ、早く入って。それで浴場はどうだったの」
「お湯を浴びるだけでも気持ちよかったよ。ああいうの家に欲しいよね。アメリアも気に入ると思うよ。家の脇に小さな小屋を建てて、その中に大きな鍋と竈を作るっていうのはどうかな」
「それよりも料理をするための竈を作るのが先でしょ。パンが焼けるようになったら便利じゃない」
「そうかなー。それはどこかで借りればいいんじゃないの」
「駄目よ。竈がないと料理が出来ないもの。絶対に料理用の方が先」
なかなか強情な態度でアメリアは譲る気がない。
しかしアメリアの言う料理用の竈はオーブンのようなものなので、そう簡単に作れるのだろうか。
きっと何日もかかるだろう。
「アメリアも強情だね。それじゃ料理用の竈を作るのでいいよ。俺はしばらくあの店に通うから」
「いやらしいわ。いい女の人でも見つけたの」
リリーがアメリアの太ももの上でそんなことを言った。
アメリアもちょっと探るような目つきになっている。
俺にはまったく意味がわからなかった。
「なんだよ。浴場のどこが嫌らしいんだ」
「知らないのね。時間も時間だから女の人は居なかったのかしら。浴場なんて男が女を見つけに行く場所でしょう。それ目当てで行ってきたんじゃないの」
「なんだ? 俺はそんなこと知らなかったぞ。リリーはどうして俺をそういう目で見るんだよ。ってアメリアまでそんな目で俺のことを見てさ、酷いよ」
「なあに。私にあれだけ恥ずかしい事しておいて、そういうことに興味がないなんて言わないでしょ。そういうのが目当てだったんじゃないの」
あれ、アメリアもけっこう批判的な態度だ。
浴場というのはあまり評判のよくない場所なのだろうか。
俺としてはお湯を浴びるだけでもかなり気持ちがいいから通いたいのだが……。
「別にそんなとこで女なんか探さないよ。興味もないし。あれ、もしかしてヤキモチ焼いてる?」
「どうして私がカエデにヤキモチを焼くの。変なこと言わないで」
「変な女に引っかかってお金を巻き上げられたりしたら大変だから言ってあげてるのよ。浴場なんていい噂を聞いたことがないわ。村のお婆さんだって、あんなとこに行く男はろくなもんじゃないって言ってたもの。若いくせにそんなところに出入りして、貴方って下心の塊みたいな男ね」
「違うってば。今日なんかおっさんしか居なかったぜ。タオルで体を拭くよりもさっぱりして気持ちいいんだよ。もといた世界じゃ、毎日お湯に浸かるのが当たり前だったの。どうしてもタオルで拭くだけじゃ嫌なんだ。それだけだって」
「なら好きにすればいいけど、気をつけてね」
「そうよ、好きにすればいいのよ。このろくでなし」
まったく、こんな言いがかりみたいなことで責められては俺も面白くない。
ヤキモチなら嬉しいが、そんな感じはみじんもなくただ嫌悪している感じだ。
確かに男と女が一緒に湯を浴びるなんて健全とは言いがたいが、それがこっちの世界のルールなんだから仕方がない。
そう思って俺は科学の授業を始めた。
今日は体の仕組みと細胞分裂についてだ。
この授業をしていた気がついたことがあるのだが、逆に科学では説明できないものを作り出したりする魔法では俺の知識も役に立たない。
逆に科学の知識が足を引っ張ることもあるようだ。
ファンタジー世界では科学ですら万能ではないらしい。
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