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迷宮と精霊の王国 作者:塔ノ沢 渓一

第30話 整地

 宿を取ってアメリアをベッドに寝かせ、俺は彼女が眠るまでそばに付いていた。
 そして自分の部屋に入ってもう一度今後のことを考える。
 やはりどう考えても新しい協力者が必要だ。

 それにしても、あれほど周到な男がもう一度仕掛けてくるだろうか。
 相手もバレたくないから、ここまで時間を掛けて攫おうとしたのだ。
 治安を守る警察のようなものに知られたくなかったというよりは、たぶん敵対派閥に知られるとまずいというような理由だろう。

 そもそも治安を守るような組織があるかどうかもわからない。
 たぶん兵士がそれに当たるんじゃないかと思うがどうだろう。
 しかし俺たちが敵対派閥に何か連絡を取ろうとすれば、あいつは間違いなく仕掛けてくるだろう。

 一体どうしたらいいのか、判断するための情報がまったく足りない。
 やはりあそこで殺してくれば全てが簡単に済んだのだ。
 俺の判断でそれをしなかった以上、それでアメリアに危害がないようにする責任が俺にはある。

 とりあえずは、迷宮内にいる時だけ注意すれば、まず大丈夫だろうと考える。
 そしてブランドンに俺たちを探るような動きがあるようなら、枢密院派にコネを作ってでも奴を追い込むしかない。
 とりあえず軍は枢密院派なのだから、兵士あたりに保護を求めることにする。

 どちらにしてもブランドンの出方を見てからだ。
 こちらから枢密院派の組織に近寄るのはひとまず危険が大きい。
 とりあえずは生活を維持するために協力者が必要だと結論して、俺は眠りについた。


 夜中に誰かが俺の肩を揺すった気がして、俺は死ぬほど驚いて飛び上がった。
 剣を探そうとボールに手を入れたところで、アメリアの匂いがしていることに気がついた。

「もしかして夜這いかな? ちょっと待ってて今服を脱ぐから」

 この冗談を言ったのは二度目のような気がする。
 確かリリーが船で俺の毛布に潜り込んだ時が一回目だ。

「脱いだらぶつわよ。ちょっと眠れなくて。邪魔はしないから、この部屋にいてもいいかしら」

 俺はいいよと言って、明かりを絞った光源の魔法を浮かべた。
 かなり絞ったので豆電球くらいの明るさだ。
 それでベッドの上をアメリアに渡して、俺は椅子に座った。

「夜中に男の部屋に来るなんてはしたないわ」

 リリーがアメリアのフードの中から顔も出さないで呟く。
 狭い部屋だから俺とアメリアは息が届くくらいの距離だった。

「やっぱり昼間のことを思い出してだよね。これからどうしようか。他の国に逃げ出すというのもありだと思うんだよね。こう見えても計算とか得意だし、接客も出来るし、肉体労働だって平気だし、迷宮以外でも俺は頑張って働くからアメリア1人くらいなら、きっとなんとかなるよ?」

「地方に逃げるんじゃ駄目なのかな」

「うーん、この国は中央以外を貴族が統治してるんだよね。だから地方に行くと余計に危ないと思う。ブランドンと同じ派閥だからね。それならここに居る方がまだ安全なんじゃないかな。王都なら枢密院っていう王様の直属組織が統治しているから、地方貴族は派手なことが出来ないんだ。それに兵士も枢密院派でブランドンの対立組織だからね」

「でも他の国は移民を受け入れてくれないと思う。私が住んでいた国になら帰れるかもしれないけど戦争中でしょ。カエデもきっと戦争に巻き込まれちゃうわ」

「それじゃ、こういうのはどうかな。冒険者の仲間をひとり増やすんだ。そいつに迷宮で出た戦利品をひとりで換金してもらって、俺たちはギルドに近寄らない。そうすればブランドンにも俺たちの居場所は知れないよね。俺の魔法があれば迷宮内でも人に会わずに済むからさ。それと宿は毎日変えて、早く家を建てよう。それで家と迷宮だけを往復する生活をほとぼりが冷めるまで続けるんだ」

「そんなに上手く行くかしら。その協力してもらう人が、私たちのこと話すかもしれないわよ」

「それも考えてあるんだよね。俺たちって竜人族の顔は見分けが付かないよね。たぶん向こうもそうなんだと思うんだ。だからとびきり頭の悪い竜人族を仲間にすれば、きっと人から聞かれても俺たちのことだってわからないと思うよ」

「ふふ、面白そうね。これからはそういうの、全部カエデに任せるわ。これまでもそれで上手くいってきたものね。きっとその方がいいと思うの」

「わかった。とりあえず家を作りながら物覚えが悪そうな竜人族を探そう。奴らが最初に探すとしたら宿だろうから、転々としてても、そのうち見つかっちゃうと思うんだよね。今はまだそんなことも出来ないだろうけどさ。それと家を建てる予定地にはワープゲートからでしか近寄らないようにしよう。そしたら探せっこないって。安心してよ」

「わかった。それでいいわ」

 そのあと俺は朝まで色んな話をして過ごした。
 爺ちゃんの話もしたし、面白かった映画の話もした。
 アメリアの昔話も聞くことができた。


 そのまま朝になって、俺たちは家の建設予定地へと移動した。
 朝霧に包まれて薄暗い中で見る建設予定地は本当に家など建つのかというくらい荒れ果てている。
 凸凹してるし、切り株を引き抜いた穴まである。

「途方に暮れそうなんだけど、まずは整地だよね」

「そうね。それは私がやるから、カエデは石の買い出しに行ってくれないかしら。でもまだお店も開いてないかな」

「店主を叩き起こして売ってもらうよ。それじゃ行ってくる」

 俺は街の中にワープする。
 とりあえず街の一番離れたところを回っていると、広い敷地に石の束が積まれているのを見つけた。
 その隣にある家の扉を叩くと、親方という感じの男が出てきた。

 こっちの人はマジで早起きな人ばっかだなと感心する。

「家を建てる石を売ってくれませんか」

「砂利かい、平らなやつかい」

「家を建てる時に下に敷く石なんですけどね。どんなのがいいですかね」

「ああ素人か。それなら平らの石だろうな。だけどまだ人足の連中がこねえんだ。お前さんがひとりで運ぶかい。それなら値引きしてもいいぞ」

 俺はそれでお願いしますと言った。
 そして石の積まれた場所に案内される。
 薄く切り出された石が積まれていた。

「かなり大きいですね。何枚くらい必要なもんですか」

「一番小さい箱を作るなら38枚だ」

「一番小さい箱というと?」

「材木屋で売ってる一番長い角材のことだよ。それを四角にしたらちゃんと箱が出来るように売ってんだ」

 こういう風にするもんだんべと、親方は地面に絵を描いて教えてくれる。
 それで天井と壁と柱の仕組みがわかった。
 適当な説明で終わろうとする親方に、俺は詳しい説明を求めた。

 それで中を3つに区切る方法も聞いておいた。
 そんなの難しいことじゃねえと、親切にそのやり方を説明してくれる。
 それで俺はトイレと合わせて40枚分の金を払った。

 適当に持って行きなという親方の言葉通り、俺はワープゲートを開いてそれを運ぶ。
 3時間ほどかかって全てを運び終えた。
 もうそれだけで一日分の体力を使い果たしたような気になる。

 それでもアメリアの方の仕事はまだ終わっていない。
 俺だけ休んでるわけにも行かないので、俺はもう一度ワープゲートを開いて石材屋に行った。
 そこで材木屋の場所を聞いて向かう。

 この時点でもうすでに日は高くなって、秋だというのにかなりの暑さを感じる。
 俺は材木屋で角材と板を必要なだけ買った。
 今度は材木屋の人足を使えたのだが、場所を知られたくなかった俺は金だけ払って人手は頼まなかった。

 そして材木屋の隅に積まれた自分の買った木材をワープゲートを使って運ぶ。
 こっちの方が一つ一つが軽いので、さっきよりはまだマシだった。
 昼になって全ての木材を運び終えて、金槌と釘を材木屋で買って戻った。

 ついでにタールのような腐食防止剤とハケも雑貨屋で買ってきた。
 その頃にはアメリアの仕事ももうそろそろ終わりというとこまで来ている。

「ちょっと休もうよ」

「あとちょっとだから待ってて。あ、これにお湯を沸かして待っててくれる」

 俺は石で竈を作って、引き抜いた切り株を細かく切ってから火を付ける。
 その上にアメリアから渡されたポットに水を入れて火の上に置いた。
 そのまま疲れと睡眠不足でウトウトしていたら、仕事を終えたアメリアに起こされた。

 アメリアの肩からリリーが俺の上に飛び降りる。

「まったくだらしないわね。アメリアに働かせておいて、貴方は昼寝なんて恥ずかしくないの?」

「リリーだって働いてないだろ。それに俺はさっきまで働いてたぞ」

「私はアメリアを手伝っていたわ。お湯だって全てなくなってるじゃない。ポットも焦がしちゃってひどいわ」

 見れば焚き火の脇に焦げたポットが置かれていた。
 そんなに寝ていたかとアメリアが働いていたところを見ると、整地が完成していた。
 茶色い土が四角く綺麗にえぐれて、完璧な整地がなされている。

 アメリアの几帳面な性格がよく現れている。
 飛び散った泥で顔を汚したアメリアが誇らしそうな顔をしていた。

「すごいね。明日からブルトーザーのアメリを名乗れるぐらい完璧な整地だよ」

「意味がわからないわよ。どうせ馬鹿にしているんでしょう?」

「感心してるんだよ。それじゃ、ご飯にしよう。運んでばっかで疲れちゃったよ」

 日の出からやっているので、まだ昼頃だというのに体は疲れ切っていた。
 すでに6時間は働いている。
 のども渇いていたのでアメリアのまずいお茶でさえ体に染み渡るようだ。

 この日ははじめてアメリアの入れたお茶を俺はおかわりした。
 それに気をよくして、やっと味がわかるようになってきたわね、みたいな顔をしているアメリアの態度が少しひっかかる。
 出来ればお茶は普通の奴がいいんだけど、まだこれが続くのだろうか。
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