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迷宮と精霊の王国 作者:塔ノ沢 渓一

第28話 詭計

不穏な感じで終わってますが、あくまでほのぼのです。
「だけど本当ならまたとない、いい話なのよ。返す必要もないなら、お金だけもらえばいいじゃない。この辺りよりずっと治安もいい部屋も無料で借りられるのよ。味方になるふりだけしてたらいいのよ」

「リリーは相手の考えがわかることがあるんだろ。何かわからなかったのか」

「わからなかったわ。そんないつでも誰でもわかるような便利なものではないの。どうしてカエデはそんなに慎重なのよ。お金だけもらって知らん顔の何が不満なの」

 そんな無茶なことをさも名案のようにリリーは言っている。
 そんな支援を受ければ動きが縛られるのはわかりきっている。
 だからこそブランドンについて調べておく必要があるのだ。

「俺がちょっと調べてみるからアメリアたちはここで待っててよ。まずは変な話が出てこないか調べて、それで大丈夫そうなら、その時に受けるか受けないか考えよう。ブランドンの言う人助けなんて建前で、本当はどこかの利益に荷担するってことでしかないんだからね。あまりブランドンの話に捕らわれないようにしてね」

 俺はワープゲートを開いて魔術師協会へ行ってみた。
 冒険者ギルドには内通者がいるようなことを言っていたので、まずはこちらからだ。
 そこで話が出来そうな魔術師を探す。

 隅の方でお茶を飲みながら話をしている年寄り達を見つけた。
 黒いローブを着ているから、この協会の関係者で間違いないだろう。
 俺は近寄って話を聞いた。

 二時間ほど話してみて、この老人達が引退した魔術師であることを知った。
 その上で、最近の事情には疎いらしいが興味深い話も聞くことが出来た。
 ランク3くらいの冒険者が引き抜かれることは希であること、しかしランクが上がる冒険者と上がらない冒険者というのはあって、上がり方が早ければそういう話しがあるのもおかしくはないということだった。

 王城内の勢力争いは武官などを多く抱える枢密院派と、地方諸侯や文官を抱える貴族院派、この2派閥があるということだった。
 ブランドンは地方を治める貴族で貴族院派らしいということしかわからない。
 個人的な情報は地方貴族と言うこともあって、ほとんど得られなかった。

 貴族院派の方が数は多いのだが、枢密院派の方が実権を握っている主流派である。
 どちらに参加するにしても、恩恵の大きさは変わらないだろうと言われた。
 魔術師協会にも兵士や官僚に取り立てられた者は多く、どちらについても多大な恩恵を受けているそうだ。

 ただし冒険者は兵士になるのだから、貴族院派となるということはスパイとしてではないかと忠告が入る。
 なるほど、そういう事情なら貴族が冒険者に援助というのもありそうな話だ。
 しかし地方貴族がそこまで派閥争いに積極的になるものだろうか。

 地方貴族など、自分の土地で好き勝手してるようなイメージしかない。
 最初に話しかけたのが魔術士協会のご隠居たちだったお陰で政治事情は概ねわかった。
 俺はそのあと冒険者ギルドに出入りする人にも話を聞いてみたが、ほとんど情報は得られなかった。

 冒険者ギルドは仕事としてやっている者が多く、あまり政治に関心を持っていないようだ。
 受付の人にもそれとなく聞いてみるが、よくわからないという回答しか得られない。
 他のギルド支部や本部に行けば情報を得られるかもしれないが、出来ることなら目立ちたくはなかった。

 俺は宿に戻って聞いてきたことのおおよそを話した。
 それでもリリーとアメリアは乗り気なようだった。
 俺としてはパスしておきたい話だと考えているが、アメリアの考えはなるべく尊重したい。

 俺はお供として付いてきてるだけなので、それが全力で主張をするというのもな。
 危険を感じたなら反対するのもありだが、その根拠を俺は見つけられなかった。

「貴方は臆病者ね。何をそんなに慎重になっているのよ。ただ支援をしてくれるって話でしょ。黙って受ければいいだけだわ。貴族に目を掛けてもらえるなんていい話じゃないの。ここ最近うまくランクを上げたお陰なのよ。これからも同じように行くとは限らないじゃない」

「せっかく好意で申し出てくれたことだから、受けないと悪い気がするわ。それなのにカエデは困らせるような質問ばかりして、感じ悪かったわよ」

 いやいや、それは相手の話術だよと言いかけてやめた。
 ブランドンの話を言葉通りに受け取って、アメリアは支援を受けようと言っている。
 それがちょっと引っかかるが、アメリアのその真面目さと素直さのお陰で俺たちは今一緒にいることが出来ているのだ。

 いざとなればワープゲートの魔法もあるし、たとえ貴族を敵に回しても何とかなる。
 ……と思う。
 けっきょく俺はアメリアたちの意見に折れた。

「じゃあ話を受ける方向で進めようか。その代わりに俺から離れないようにね。絶対に手の届く範囲から離れないようにしてよ」

 アメリアは笑顔でわかったわと言った。
 リリーも満足そうにしている。
 それじゃあ今日はもう遅いから寝ようと言って2人を部屋に帰した。


 次の日は朝起きて時間まで何をしようかと考える。
 ブランドンと会うのは正午過ぎだから、それまでは時間がある。
 昨日の夜は色々と寝る前に考えたが、やはり乗り気にはなれなかった。

 俺には駆け出しの冒険者は騙されるという先入観でもあるのかもしれない。
 時間を潰すなら迷宮に行くのが一番いいなと考えて、俺たちは地下5階へと潜った。
 そこで余裕を見て昼ご飯を食べる。

 そういえば一昨日は珍しくこの階層で人とすれ違ったのを思い出す。
 確か竜人と獣人の2人組だったはずだ。
 エルフや人間などの魔法を使うイメージのメンバーがいなくて不思議に思ったのだ。

 まさかブランドンがと思うが、駆け出しの冒険者にそこまでする価値はないだろう。
 俺も少しずつ疑いすぎだったと思い始めている。
 だいたい俺たちを騙してどうするという動機に思い当たらない。

 たぶん俺は上手く行きすぎていたせいで過敏になっていたのだ。
 昼食が済むと、すぐにブランドンとの待ち合わせの場所に向かった。
 串焼き屋の裏手の方にある裏路地である。

 ブランドンは予定よりちょっと遅れたくらいでやって来た。
 馬車の扉が開いたので、俺たちは昨日と同じように向かい合う席に座った。

「一晩じっくりと考えていただけましたかな。悪い話ではなかったでしょう」

「そうですね。俺たちもよく相談できました。それで昨日の話の方は受けさせてもらおうと思います」

「そうですか。それはよかった。それでは我々の別邸にまずはご案内しましょう。そこで支度金をお渡ししますよ。そのあとに私の邸宅にご案内します」

 ブランドンは後ろの壁を二回ノックして御者に出発の合図を送った。
 すぐに馬車から石を引き詰めた道を進む振動が伝わってくる。
 馬車が目的地に着くまでの間、ブランドンが話しを始めた。

「この私の隣にいるのも実は元冒険者なんですよ。どちらも冒険者から兵士になって、今では私が個人的に雇っています。領地には魔物の出没も多いので大変ですよ」

 俺は自慢話かなと思って適当な相づちを打った。

「そうですか。雰囲気がそんな感じですよね。さぞ腕も立つんでしょう」

「ええ。こっちは魔術師のゲイツ、こっちは剣士のローです。どちらもランク8の冒険者でした。魔法と剣の腕でこの2人にかなうものは王城内にも一握りというものです。王城勤めの道もあるのですが私のもとで働いてもらっています」

 ランクというのは8なんてものもあるのかと驚いた。
 いったいどれほどの腕なのか想像も付かない。
 しかもそれほどの腕があっても貴族になれていないのなら、武官というのは相当なものだ。

 確かに2人からは油断のようなものが感じられない。
 周囲の状況によく目を光らせている。
 それにしても貴族の付き人なんかをやっている割には粗野な感じがする。

 しばらくして馬車の揺れが止まり、目的地に着いたらしかった。
 ブランドンがちょっと揺れますよと言ってきた。
 その通り確かに馬車は揺れて、なにやら坂道を下り始める。

 この都市の中に坂道などあっただろうかという考えがよぎった。
 すぐに馬車の後ろがコンテナ付きのトラックみたいに開いて、ここが地下であることを知った。
 そういえばここで支度金をくれるとか言っていたな。

 そこで俺はある考えに至った。
 お金を扱う場所だから地下という警備のしやすい場所なんだろうとぼんやり考えていたのだがそれはおかしい。
 この世界の人がお金をこんな場所に保管しておく必要はないのだ。

 普通は異空間の中に入れておくはずなのだ。
 それが一番盗まれにくく、そして一番安全なはずだ。
 馬車の方を見ると、通路一杯に馬車が止められていて、そちらからは逃げられないようになっていた。

 馬車との反対側は行き止まりに扉が一つあるだけだ。
 俺は嫌な予感に汗が噴き出すのを感じた。
 ブランドンは俺たちを先導して扉を開ける。

 俺たちが通されたのは椅子とテーブルすらない地下室だった。
 扉が閉められて、正面にブランドンと魔道士の男が立った。

「それでは本題に入ろうか。支援というのは真っ赤な嘘だ。驚いたかな」

 俺は部屋の中を見回して、何かないかと考えを巡らせる。
 こいつらはたぶん俺がワープゲートを使えることは知らないだろう。
 でなければ俺だけでも先に動けなくしておくはずだ。

 逃げ道を塞いだのだって、ワープが使えるとは思っていないからだろう。
 俺たちを襲ってメリットがあるのかなんて考えていたが、襲うならワープを使えない冒険者に限るわけだ。
 駆け出しなら逃がしてしまうリスクもない。

「あ、あの、それはどういうことでしょうか……」

 アメリアが震えた声で言った。
 こいつらは明らかにアメリア目当てだろう。
 それならば俺も腹をくくって事に挑むしかない。

「どういうも何も、今の説明でわからなかったのか。最初からここに連れ込むことだけが目当てだったんだよ。確かに綺麗な顔をしている。噂通りだ」

 ブランドンの言葉に魔道士男が嫌な笑みを浮かべる。
 俺はどうやってワープゲートを開くだけの時間を稼ぐか頭を巡らせる。
 魔力を集めてイメージを重ねるまでに数十秒はかかる。

「いらないなら、男の方はさっさと殺しますか」

 ブランドンの横でゲイツがそんなことを言っていいるのを、俺は目眩がするような思いで聞いていた。
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