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迷宮と精霊の王国 作者:塔ノ沢 渓一

第27話 ブランドン

 二日ほど地下5階層に通い、順調に金を貯めているとギルドでのランクが一つ上がった。
 俺とアメリアのタグには星が一つ追加されて、現在3つの星がある。
 これで護衛や人捜しなどの制限が付いた依頼も受けることも出来るようになる。

 今のところは地下5階での稼ぎがいいのでそこで粘ることになっている。
 新しい装備の効果はまだ実感していないが、アメリアはやたらとかわいくなった。
 田舎っぽい服に替わって非常に暖かそうな格好をしている。

 俺の方はTシャツの上に革の装備を付けた、いかにもな駆け出し冒険者か山賊のような格好だ。
 暖かさは全くないがオーラと運動のせいで、このくらいがちょうどいい。
 剣に振動を付与する魔法の方も完成して、凍らせたゴーストが簡単に砕けるようになった。

 そのおかげで昨日の稼ぎは500シールに届いた。
 だから今日は半日で切り上げて家造りをしようという話になった。
 午前中だけ地下5階を回り、食事もとらずにギルドへと向かう。

 そこでクリスタルと魔石を売って、いつもの串焼き屋に入った。
 三度目の訪問になるその店はいつもより混み合っていた。

「私は鳥とイベリアの串焼きね。飲み物は果物のジュースならなんでもいいわ」

「私は鳥の串焼きを串なしね」

 俺は1人と1匹から注文を預かって店の奥に注文を言いに行った。
 1人でやっている店なので、人が多い今はこうしないと注文が通らない。
 そのあと出てきた串焼きを食べて、俺たちは店を出た。

 店を出たところで恰幅のいい男に話しかけられる。
 後ろに身なりのいい付き人を2人連れていた。

「こんにちわ。たしかカエデさんとアメリアさんですよね。ギルドで見かけたという話を聞いてやって参りました。ちょっとお話があるんですがよろしいですか」

「えーと。どうして俺たちの名前を知っているんです?」

「いやね、最近ずいぶんと出世が早い冒険者がいると聞きましてね。そういった詳しい話はあとでゆっくりと話しましょう。取りあえず付いてきてください」

 そう言って男は裏通りの方へと歩いて行く。
 俺とアメリアは顔を見合わせた。
 とりあえず今のままでは話もよくわからないので付いていくしかなかった。

 裏通りを一つ入り込むと、明らかに金持ちの物とわかる天井まで鉄で覆われた大きな馬車が止められていた。
 先頭を歩いていた恰幅のいい男はその中に入ってこちらを手招きする。
 逆らうことも出来ずに俺とアメリアはその馬車の中に入った。

 付き人もかなり体格のいい男2人なのに馬車の中は狭いという感じがしない。
 俺とアメリアは3人と対面になる形で馬車の椅子に腰掛けた。
 いかにも金がありそうな感じからあまりいい予感はしない。

「申し遅れましたが、私はこの国で文官を務めているブランドンと申します。ご存じかもしれませんが、この国では軍部にコネを持つ者ばかり意見の通りがいいんです。そこで、将来性のありそうな冒険者を見つけて支援を申し出ている次第なのです。どうか私の支援をお受けくださいませんか」

「支援とは具体的にどういうものです。それに俺たちのことをどうやって知りましたか」

「それはギルドに勤めている知り合いからですね。詳しいことは言えませんが、その者から優秀な冒険者を早めに教えてくれるように頼んであるのです。支援の内容についてですが、私の屋敷の一部屋を貸し出しています。装備などを買うための支度金も用意させていただきます」

「その代わり王国で軍人になって、あなたの派閥の一員になれということですか」

「ええ、もちろん兵士になるのですら時間はかかるでしょうし、武官になれなかったとしても与えた物を返せともいいません。悪い話でもないと思いますが、いかがですかな」

 話自体は確かに悪い話ではない。
 ギルドでの星の評価が上がるのも早かったから、それに目を付けたというのもわかる話だ。
 この上手くいっている流れに浮かれていれば、この話は飛び乗ったに違いない。

 しかし俺は口で言うほど今の流れに浮かれてはいなかった。
 人生も二度目ともなれば、こういう時が一番危ないのを知っている。
 俺はちょっとうますぎる話に警戒心しか持てずにいた。

「話を聞いていると、冒険者から登用されるという話は珍しいことではないようですね」

「ええ、兵士の選出は優秀な冒険者の中から、というのがこの国での習わしです。ですから勢いのある冒険者に、早めに声を掛けておくというのも珍しいことではありません。もちろん私の推薦がありますから城勤めの兵士にも登用されやすくなります」

 冒険者から兵士を選び、そこで出世した者が武官になれる。
 ということはこの国の軍隊に入らなければならないのか。
 隣国で戦争しているような時に兵士になるというのはちょっと考えものだ。

「兵士というのは、やはり戦争が仕事ということですよね」

 俺は人殺しなどまっぴらだ。
 戦争に人を駆り立てるのは同胞という言葉らしいが、俺にはこの世界に同胞と呼べるような存在はない。
 この同胞という言葉が一番人を殺してきたのだと大学の授業で聞いたことがある。

「兵士になれば給料も出ますし、魔物が現れて困っている人などを助ける名誉ある職として尊敬もされます。もちろん身分も保障されます。この国では主流派が戦争に反対しているため、戦争に駆り出される心配も今のところはないでしょう。迷宮からあがる豊潤な物資を安く売ることで隣国とのバランスをとっています。戦争はまずないと考えていいでしょう。国民のために魔物と戦うことが一番の仕事だと考えてください。最近もドラゴンの動きが活発で人手が足りていません」

 どうもこの男は俺たちの反応を見ながら話しているような気がする。
 戦争という言葉を聞いてアメリアは嫌そうな顔をした。
 そしたら戦争の心配はないというし、人助けと聞いてアメリアの表情が緩むとその話を押してくる。

 ちょっと考えすぎかもしれないが、俺はあんまり興味がそそられなかった。
 そんな俺にブランドンが身を乗り出してきて、耳元でささやきかける。

「兵士になれば身分的にも保証されます。下世話な話ですが金と女には困りません」

 ブランドンは俺から身を離して続けた。

「武官になれば貴族としての身分も保障されます。そうなれば地方の統治を任される一国一城の主ですよ。その地方の統治者として、自分の好きなように政治が行えます。面白そうな話だとは思いませんか」

 その話に俺は少しだけ興味を引かれた。
 地方の統治というのは面白そうだ。
 しかし金は買いたいものすら思い浮かばないし、女はアメリア以外に興味が無い。

 それにしても王城内で派閥争いなどに精を出しているだけあって話がうまい。
 こういう話がうまい奴は、相手に与える情報の選び方が上手いのだ。
 きっとメリットの裏にはデメリットも隠されているだろう。

 裏もとらずに信用していいたぐいの話ではない。
 確かに星の評価、ギルドではランクと呼ばれる評価の上がりが早くて噂になっているのは事実だ。
 初心者の冒険者が数日ごとにランクが上がるという例はあまりないそうだ。

 しかしその冒険者の片方がえらくかわいいという話の方が通りがいい位の噂の広まり方でしかない。
 俺は慎重に様子を見るべきだと考えた。

「そうですか。それでは1週間ほど返事を待ってください。連絡はどこにすればいいですか」

「それがですね。どうしても早めに返事が欲しい事情があるんですよ。他の冒険者の方にも打診をしますので早いほうに決めるということになります。もちろん貴方がたの方に期待しているから先に話をもってきている訳なんですがね。どうにか今日中に返事をもらえませんか」

 返事が早めに欲しいと言う事情はあるかもしれない。
 しかし結論を急ぐのはまずいと俺の経験が警告している。
 ここは毅然とした態度で要求を突っぱねるというのが俺の出した結論だ。

「それは無理ですね。返事にはどうしても数日必要になります」

「そうですか。それは困りましたね。それだと、この話も流れてしまう可能性が高くなりますが……」

 さてどうしたものかと、ブランドンは困ったような表情で思案を始める。
 うーん、残念ですねえなどと言っていた。

「ねえ、カエデ。けっこういいお話だと思うけど、考える時間は必要かしら」

 アメリアが不安げな様子で俺の顔を見上げていた。
 ここでアメリアだけでもという話になるのが一番怖いな。

「ここは俺に任せてよ。こういうのはしっかりと考えた方がいいんだ。この国のことも、王城内のことも俺たちは知らないんだからね」

「ここでアメリアさんだけ返事をしていただいても構いませんよ。そうすれば今日から私の邸宅の一部屋を自由に使っていただけます」

「いえ、私はカエデと一緒でお願いします」

「それでは一日だけ待ちましょう。明日の昼にまたこの場所でお会いするということではどうですか。それがこちらに出来る最大の譲歩になります」

「では、それでお願いします」

 俺たちは馬車から降りた。
 そのまま馬車は中心地に向かって走り去った。
 アメリアが何か言いたそうにしていたが、俺は宿に行ってから話そうと告げてワープゲートを開いた。

 アメリアは黙ってそのゲートをくぐる。
 ゲートの先はいつもの宿屋ではない煉瓦造りの一回り値段の高い宿だ。
 その宿に入って、俺は部屋を二つ取った。

 そのまま部屋の一つに入って鍵を掛ける。
 いくらなんでも俺たちが串焼き屋に入っていたことまで知っているのは怪しい。
 宿を変えたのは監視の目があるのではないかと考えたからだ。

「どうして高い宿に泊まるの? 明日からは宿の心配がなくなるから?」

「いや、ちょっと用心のためにね」

「どうしてそんなに警戒するのよ。とってもいい話だったじゃない」

 それまで大人しくしていたリリーが言った。

「いい話なのは俺もそう思うよ。でも出来すぎてるような気がするんだよね。あのブランドンってのがどんな奴なのか調べてからじゃないと、あの話には乗れないと思ってさ。それに王城内の勢力派閥に参加するって話を、派閥の力関係もわからずに乗るのも危ない話だよ」

「でもせっかくの申し出なのに断ったら悪くないかしら。私もカエデもこの国に来たばかりでわからないことだらけだわ。この国のことに詳しい人に助けてもらえるだけでもありがたいと思うの。それにお金まで出してくれるって話だったし」

「まず俺たちは地下5階に行けばお金には困らないよね。装備も買えるし魔法も揃えられるようになる。王城内の派閥争いに巻き込まれれば命の危険だってあるかもしれないのに、それほど支援を必要としているわけでも無いだろ。それに答えを引き延ばしたお陰で相手の出方を見れたじゃないか。ああいうふうに結論を急がせるのは詐欺師がよく使う手なんだ。たぶん俺たちにとって都合の悪い情報は伏せられてる。だから明日の昼までにそれを探ろうってわけ」

「カエデはこの話に反対なのね。でも兵士になったら人助けにもなるって話よ」

「困ってる人ならギルドに依頼を出してる人も一緒だよ。まあギルドにあるのは金儲けが出来なくて困ってる人の依頼が多いけどね。兵士が助けてるってのも、そのたぐいの人じゃないって保証はないんだ。きっと兵士だってお偉方の既得権維持のためにあるようなものだと思うんだよね。兵士になれば命令は選べないだろうから、今のうちに調べておいて損はないだろ」

 俺の話に1人と1匹は釈然としていない様子だった。
 しかし冒険者から兵士を選ぶという話だから、兵士になるだけならブランドンの話に乗る必要もない。
 2人の反応とは逆に、俺はやっぱり時間をとってよかったという考えを強めていた。
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