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迷宮と精霊の王国 作者:塔ノ沢 渓一

第25話 科学と魔法

 俺は宿に戻って部屋を借りて、お湯を追加で二人分頼んだ。
 それが終わったら料理を二皿頼んで受け取った。
 それを持ってアメリアの部屋に行き、簡単な今日の報告を済ませる。

「ちょっと未来が明るくなってきたからお祝いしよう」

 俺は下で買ってきた魚料理をアメリアに渡した。

「なんのお祝い?」

「輝かしい未来って奴かな」

 やっぱりパンの他に食べ物があると食事も美味しい。
 相変わらずアメリアのハーブティーは癖が強くて変な味がする。
 パンしかないと、お茶の方の味が勝って辛いのだ。

 アメリアは良くわかっていないが、とりあえず無事でよかったなどと言って料理を食べている。
 ひとり、リリーだけは疲れたようでぐったりしていた。
 俺の動きが激しかったからフードの中にいるだけでも大変だっただろう。

 それでも頑張っていたのはアメリアのために違いない。
 明日は地下4階に行ってみようとだけ言って俺はアメリアの部屋をあとにした。
 その足で二枚の皿を一階の酒場に返却して、部屋に帰って寝た。


 翌朝アメリアに今日は大丈夫なのか尋ねると、大丈夫そうだという答えが返ってきた。
 俺は部屋に戻って適当に朝の支度を済ませて宿を出る。
 程なくしてアメリアも出てきたので、俺は地下4階へのワープゲートを開いた。

「昨日はひとりでこんな所まで来たの?」

「いや、途中で会った人に誘われて付いてきたんだよ。ここだとシルエットもインプも出ないから警戒しやすくていいんだ。こっちの方がアメリアも危なくないよ」

 俺はイールの飛びつきにだけに気を付けて進んだ。
 攻撃力はファングスの方が怖いが、動き自体は大したことないのでイールを警戒する。
 イールは大きめの魔石が出やすいので、イールとアルスタジアを中心的に探った。

 オーラにも慣れてきたのが昼まで動き続けても疲れは出てこなかった。
 昼はまたパンとお茶で済ませる。
 今日でこっちに来てから焼いたパンも終わりなので夜には焼かなくてはならない。

「リリーが使ってる治療よりも高度な魔法があるよね。あれ俺にも教えてくれないかな」

「いいわよ」

「だめよ。リリーは私の精霊なのよ。カエデはひとりだけ魔法を覚えてずるいわ」

 まだワープゲートの時のことを根に持っていたようで、アメリアが意地悪なことを言う。
 魔法を覚えるコツのようなものを俺が知っていると思い込んでいるらしい。
 それはまるきり誤解なので、何とかしておかなければならない。

「それじゃ、これから夜はアメリアに魔法のための知識を教えるよ。基本的なことだけど知っていたら魔法の助けになることだけ選んでね。ワープゲートみたいな俺が覚えた魔法もちゃんとアメリアに教えるから」

「カエデってすごく意地悪ね。私だって治癒の魔法は最近になって覚えたのよ。すっごく苦労したんだから。それを簡単に教えてだなんて」

「そんなつもりじゃないって、ちょっとした知識の差なんだよ。細胞とか血液とか、体を構成しているものの役割に対する知識があれば、そういう魔法も簡単に覚えられるんだよね」

 俺は拗ねてしまったアメリアを必死に取りなして、悪意はないことを伝える。
 説得を重ねてなんとかアメリアは機嫌を直してくれて、治癒の魔法をリリーから教えて貰う許可を得た。
 アメリアに何かあった時のために、俺は治癒の魔法をどうしても覚えておく必要がある。

 ワープゲートも、現実より距離を凝縮した異空間を挟むイメージで成功した。
 ワープと聞いて俺が最初に思い浮かべたイメージは消滅と再構成だ。
 A地点での俺を消滅させ、B地点で再構成するというのが一つ目の推論。

 しかしゲートを開けというのだからそれは否定される。
 それに、たとえやれと言われても、そんなことやってみようという気にもならない。
 次に思いついたのは間にある空間を消滅させることだった。

 しかしそれも発動しなかったし、発動してたらどうなっていたかわからない。
 その次が空間の圧縮、これも発動しなかったし、しなくてよかっただろう。
 それで最後に思いついたのが、空間と距離の圧縮された異空間を作り出すというものだ。

 結局はそれを利用する形でワープゲートの魔法は成功した。
 このように科学知識からいくつかのイメージを推論すると成功する割合が高くなる。
 それを思い切り抽象的に説明しているのが魔道士ギルドの講習だ。

 生活魔法までは先人の知恵なのか、非常にイメージが具体的だった。
 しかし一般魔法になった途端にかなり抽象的な説明になる。
 そのせいでいきなり難しくなったように感じるのだろう。

 その抽象的なものから科学的に推論すると具体的なイメージが生まれるのだ。
 この仕組みを知らないアメリアには俺が何かコツのようなものを掴んだように見えているに違いない。
 それで色々と思うところがあるのだろう。

 アメリアは負けず嫌いで、頑張ろうと一生懸命だから差を付けられるのが嫌なのだ。
 これからはなるべくアメリアの魔法習得を手伝うことにする。
 機嫌を直して貰うためにも俺は新しく考えた魔法をアメリアに提案してみた。

 まず燃焼速度の速いものを魔力で創り出して空気と混合し、それを物体で囲って圧力を上げてから燃焼させる。
 そうすれば炎だけでなく爆発の衝撃波による攻撃が出来るはずだ。
 その科学的なイメージを何通りかアメリアに教えてみる。

 使い勝手がよくなるように、爆発の方向を限定するように頼んだ。
 これで上手くいけばアメリアも科学の知識で魔法の習得が早くなるはずだ。
 しかしそこからはオレンジ色のソフトボールくらいの玉に夢中になったアメリアの戦力が半減してしまう。

 それでもこのくらいの階層で手こずることはなかった。
 俺たちは夕方ぐらいまで地下4階層を探索し、ギルドで素材を売ってからもう一度迷宮に戻った。
 そしてしばらくしてアメリアの新しい魔法が完成する。

 イールが3体、ファングスが5体現れた。
 それまで浮遊していたアメリアのキネスオーブが小さくなったかと思うと、それが敵に向かって飛んでいき爆発した。
 使うと言われていたので俺は離れていた。

 敵は一瞬にして弾けて塵へと帰った。
 爆発の方向指定もよく出来ていて、俺たちに衝撃波はなかった。

「成功したわ! 本当にカエデが言ったとおりにしたら出来たの。すごいわ」

「だろ。コツとはちょっと違うけどこれでワープゲートもすぐに覚えられるよ。それよりもそろそろガルプの粉を買いに行かないと、売ってるところがなくなっちゃうよ」

「そうね。すぐ行きましょう」

 俺たちはアメリアがもう少しで完成しそうと言ったから粘っていた。
 俺は市場の辺りにワープゲートを開いた。
 そこで店じまいをしていた店主に無理矢理ガルプの実と蜜、ココナッツミルクのようなもの、それに干した果物を買った。

 それを宿に持って行って、ガルプの実をすり下ろすところから始める。
 俺は干した果物を洗って細かく切り分けるのを手伝う。
 蜜入りだけではなく、俺の提案でレーズンパンのようなものも作ってみるのだ。

 夜も更けた頃になってパンは焼き上がった。
 食べてみるとどれも成功と言えるくらい美味しく出来ていた。
 それだけ済ませて、部屋に戻ってお湯で体を洗ってベッドに横になった。

 今日だけで300シール以上も稼ぐことが出来た。
 これなら目標とした800シールも明日か明後日には貯まるだろう。
 これも食費をぎりぎりまで切り詰めているおかげだ。

 俺は今日も科学の講義をした方がよかっただろうかなどと考えているうちに眠りに落ちていた。


 次の日も同じように迷宮の地下4階に向かった。
 朝食の時にリリーから治癒の魔法を習って形だけは成功している。
 アメリアにワープゲートの魔法イメージを教えたが成功はしなかった。

 この日は特に何もなく一日を無事に過ごした。
 出た戦利品は352シールで、目標金額には一歩届かない。
 そのあとは寝るまでの時間をアメリアにワープゲートの魔法を教えて過ごした。


 次の日は地下5階に挑戦することにした。
 アメリアの爆発は連発できないので、地下4階では過剰ダメージになってしまい効率が悪い。
 前もって地下5階の情報は十分に得てある。

 地下5階にはゴーストという人型の霧みたいに見えるゼリー状の魔物しか出ない。
 こいつは剣よりも魔法の方がダメージを与えられる。
 さっそく5体ほどの気配があったので敵に気付かれる前にアメリアの魔法で吹き飛ばしてもらった。

 あっさりと一発の魔法で全てのゴーストが塵へと帰る。
 柔らかい体をしているので爆風のような攻撃に弱いのだろう。
 かわりに剣のようなものでは手応えも弱くダメージにならない。

 これならば、まとめてアメリアに吹き飛ばしてしまった方が楽に倒せるのではないだろうか。
 アメリアに魔法を撃ってもらって逃した奴を俺が剣で倒せばいい。
 そこからは俺がある程度まとめてから、アメリアに魔法で吹き飛ばしてもらう方法をとった。

 まるでネットゲームの範囲狩りだなと思う。
 俺も魔法剣・冷気を使って、普通の剣では与えられないダメージが出せる。
 出たクリスタルの内、いくつかはアメリアの魔法に吹き飛ばされてひびが入ってしまったが、ひび割れたものでも売ることが出来た。

 クリスタルが炎に弱いので魔法剣・冷気は本当に使い勝手がいい。
 俺としてはこの魔法にも使いどころがあってよかった。
 面倒な敵だけあって、この階を飛ばす人も多いのかライバルもまったくいない。

 俺たちはしばらくここでお金を稼ぐことに決めた。
 少しアメリアの負担が大きく、夕方前にはアメリアが音を上げて切り上げることになった。
 70個ほどのクリスタルが430シールにもなった。

 430シールといえば2人が一日に稼ぐ額としてはかなり大きい。
 店番などの簡単な仕事の倍近い稼ぎになる。

「これでもうお金には困らないね。ずっと地下5階に通うだけでも生活できるよ」

「そうね。びっくりするくらい順調だわ。カエデの考えた魔法のおかげね」

 アメリアも上機嫌で、この日は串焼き屋に行くことになった。
 そこでのんびりと過ごして、明日は買い物に当てることにする。
 これで装備が揃うから、次は家を建てる算段を付けなければならない。

 これから冬がやってくるので、なんとかその寒さをしのげるだけの家が必要だ。
 アメリアも家を建てたことはないそうなので、ちょっと心配が残る。
 夕食を済ませてからは早めに宿を取って科学の勉強の時間にした。

「つまりカエデの言う、分子と原子は何が違うのよ。そんな説明じゃ全然わからない。それに目に見えないものがどうしてわかるの。リリーもこんな話信じられないわよね」

「そうね。馬鹿げた法螺話に聞こえるわ」

 それにしても生徒2人は手強くてかなわない。
 こんな2人に教えることなど可能なのだろうか。
 むしろ少しだけ抽象化して教えた方が飲み込みやすいのかもしれない。

 俺はなるべく丁寧に2人の疑問に答えていった。
 それでも俺にだって答えられないこともあるので、2人はなおのこと納得しない。
 このままだと多少の時間はかかるだろうが、俺にはこの時間も楽しいのでそれでも全然構わなかった。

 軽い世間話のつもりで俺はこの授業を進めていくことにした。
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