第24話 一人迷宮
串焼きの店を出て、俺たちは装備品を売っている店を見て回った。
次に買いそろえるのは装備品と決まっているので、当たりを付けておく必要がある。
一通り流し見た感じだが、欲しいなと思うものはどれも値段が高い。
鉄で補強された革のブーツなど良さそうだが、520シールの値段に目眩がした。
鉄以外にもミスリルやオリハルコンといったファンタジーな素材もある。
これらはミスリルの装備は2000シールからで、オリハルコンに至っては何千、何万という桁だった。
どちらも鉄より固く、そして軽いので希少性も手伝って値段がすごい。
しかも魔法に耐性があるので、この装備を揃えることは冒険者にとって目標のようなものだ。
そんな話を店主から聞かされながら、俺はとりあえず革で揃えるかと考えた。
今のところ必要性を感じていないのだから、その辺りが無難だろうと思う。
アメリア向けの魔道士装備もピンキリで、魔法の補助をしてくれるような装備は高い。
術式が編まれたローブなどは特定の魔法の効果を強めるが、どれも数千と言う値段だ。
しかも魔道士向けは前衛向けよりも格段に値段が高かった。
大気中からマナを集めて回復を早めるという杖に至っては数万という値段である。
それでも迷宮の攻略が進めば、これほどの装備すら買えるほど儲かるようになるというのは悪くない情報だ。
アメリアには革の胸当てと厚手のコート、それに厚手のケープ辺りがあればいいだろう。
俺には革のブーツと手甲に盾が必要だろうか。
とりあえず800シールもあればいいものが買える。
二人で頑張れば一週間くらいでなんとか貯められそうだ。
白いPコートのようなものはアメリアによく似合いそうだったので、着たところを早く見たい。
店を見て回って疲れたので、まだ夕暮れにもなっていなかったが宿を取って入った。
俺は素泊まりにして、アメリアの方はお湯のサービスも追加する。
これでリリーも体を洗ってもらえて喜ぶだろう。
俺は冷たい水を浴びたせいで体がだるい。
こんな事なら水浴びではなく俺も宿でお湯をもらえばよかった。
無茶をして風邪を引けば簡単に生活が破綻するのだから、これからは気をつけよう。
そんなことを考えながら、その日は早めに寝てしまった。
次の日は早く起きたので、パンをかじって暗いうちを過ごした。
明るくなってきたらアメリアの部屋に行ってドアをノックした。
すぐにアメリアが出てくる。
「今日は早めに行かない?」
「今日は行けなくなっちゃったの。休みにしましょう」
「だけど昨日買い物でお金を使ったから、今日は稼がないと宿代もないよ」
「今日はどうしても無理なの。だから馬小屋でもいいわ。嫌ならカエデだけ部屋を取ってもいいわよ」
「察しが悪いわね。女の子には事情があるのよ」
なるほど。
リリーの一言で赤面したアメリアの様子に、俺は事情を察した。
しかしそんなアメリアを馬小屋に寝かせるわけにはいかない。
俺は宿にいるように言ってから、リリーを借りて部屋を出た。
そして宿の主人にアメリアの部屋をそのままもう一日貸してくれるように頼んだ。
それをアメリアに伝えて、俺はリリーと宿を出る。
「どうするのよ。私たちだけで迷宮にいくの?」
「そうしよう。宿代も無くなったら、また馬小屋になる。馬小屋だとアメリアの体力的に次の日がきつくなるから宿代だけでも稼がないと」
「いい心がけだわ。それならワープゲートを開きなさい」
俺は昨日習ったばかりのワープの魔法を地下三階の入り口に開いた。
異空間に開けるゲートを大きくしたようなものが目の前に現れる。
俺はそれをくぐって昨日覚えたばかりの光源の魔法を使った。
剣を抜いてエリアセンスの魔法を展開させる。
地下二階というのも考えたが、攻撃を受けても痛い程度だから一人でも問題はないだろう。
いざとなったらノールからでも、俺一人なら逃げ切れる自信がある。
俺はいつものように手頃な敵を倒して回った。
とくに手こずるということはない。
ただいつもより倒すのに時間がかかってしまう。
リリーはいつもより動きが激しくて飛び出しそうなのかやたらと爪を立てている。
しかし革の鎧があるので痛くない。
俺はせっかくだからと、振動で切れ味をよくする魔法を展開させつつ戦った。
振動で切れ味がよくなる原理はわからないが、確かにいつもより切れ味がいい。
これなら剣の負担も減るので文句なしの性能だ。
アルスタジア以外ならほぼ一発で灰に返すことが出来る。
しかし何度か攻撃を食らってしまいリリーに回復してもらったので、午後になる前にリリーのマナがなくなってしまった。
そこでワープゲートを開いてアメリアの部屋に繋げた。
「一人で迷宮に行ってたの?」
部屋に出るなり、アメリアがそんなことを言った。
危険だと怒られると思ったが、嘘をつくのも嫌なので正直に言う。
「そう。けっこう何とかなるよ。ちょっとリリーのマナの補給に帰ってきたんだ」
「そうなの。お茶があるわよ。ついでにご飯も食べていったら」
俺はそうすると言って、自分の分のパンを出した。
アメリアから例のハーブティーを貰って椅子に腰掛ける。
アメリアはそれほど心配していないようで安心した。
一昨日も余裕はあったのだから、そんなに心配することでもないと思ったのだろう。
昼間からベッドの上でだるそうにしているアメリアを見るのは新鮮だ。
「ねえ、カエデは異空間の中にパンをどういう風にしまってるの? どんなものでも同じように取り出すわよね」
俺は特に考えもせずボールのゲートをアメリアに向かって開いて見せた。
それをアメリアが手を入れて引っかき回す。
ちょっとボールの中を他人に見られるのは恥ずかしいな、などとぼんやり考える。
「信じられない。どうして石けんをそのまま入れてるのよ。毛布とか色々なものに付いちゃってるじゃない。それにパンもそのまま入れるなんてどうかしてるわ。毛布も畳まないで丸めて入ってるし。もう、ちゃんと整理しないとだめじゃないの」
そう言ってアメリアは俺のボールの中に入ってるものを次々と取りだして畳んだり拭いたりしている。
そして自分の異空間から色々と取り出して、着替えや食べ物を別々の布袋に入れてからボールの中に戻した。
その様子がまるで母親みたいでなんだか懐かしくなった。
「それじゃもう一稼ぎしてくるよ」
そう言って俺はアメリアの膝で休んでいたリリーを自分のフードに入れた。
リリーは少し疲れた顔をしているように見える。
「気をつけてね。地下二階でやるのよ。無理はしちゃだめだからね」
わかってるよと言いながら、俺は地下三階に続くワープゲートを開く。
そしてそのゲートをくぐって、俺は迷宮の中に戻った。
そして振動魔法の練習をまた開始する。
こうやって何かに集中していると、疲れも感じなくて非常に楽しい。
剣を叩きつけるのではなく、斬るということを意識するといつもより体が楽だった。
そのうちにアルスタジアでさえ一撃で両断できるようになった。
途中で、前にもあった三人組とすれ違う。
これから地下四階に行くからどうかと誘われたので、俺はその誘いに乗ってついていくことにした。
稼ぎは減るだろうが下見ついでにちょうどいい。
地下4階にはイールと言う大蛇が出るという。
イールは下に降りてすぐに出てきた。
かなり素早い動きで飛びついてきて、先頭を歩いていた竜人に噛みついた。
しかし竜人は鱗に覆われているのでそのくらいの攻撃ではひるみもせずに、持っていた斧で真っ二つにイールの首を叩き切った。
斬られてもまだ残った首だけで噛みつこうと暴れているのをエルフの男が魔法で焼いた。
俺は竜人の周りで現れる敵を慎重に攻撃していくことにする。
ここまで来るとノールですら体が一回り大きい。
特にファングスはここくらいの大きさになると噛みつかれた時にやばそうだ。
イールの牙なら2本だが、ファングスは牙の数が多くて脅威に感じる。
三人の中でもエルフの男がかなり戦い慣れていた。
炎ではなく溶岩のようなものを呼び出してそれを敵に向かって飛ばしている。
それがかかると、そこから炎が出て燃え広がるのだ。
この魔法の使い方は参考になる。
他にも地面から火炎を巻き起こす魔法など、その使い方が実践的だった。
前衛はそこそこ器用なのとやたらと頑丈なのの二人だ。
特に弱いということはないが、鎧を着ていてもオーラを使った俺の方が頑丈だし攻撃力もある。
俺はこの時はじめてオーラという魔法の効果を知った。
これだけでも戦えるというのは本当だ。
二人よりも敵を多く捌いても疲れることもない。
要は魔力を防御力や体力に変換しているだけだが、それが最も重要なのだ。
それにエリアセンスのおかげで俺には不意を突かれるということがないし、周りの動きに合わせられる。
前衛の二人は次第に俺に対する態度が変わってくる。
ただ魔力の使い方に慣れているだけではなく、かなりの達人に見えているだろう。
先輩冒険者に一目置かれるというのは悪い気分ではなかった。
そのあともひたすら敵を倒し続けた。
俺としては彼らに素材などを多少安くとも買い取って貰えば宿代くらいは出ると、時間の方は気にしていなかった。
しかし程なくしてエルフの男のマナが切れて帰ることになった。
俺がギルドにワープゲートを開くと、3人から驚きの声が漏れる。
俺は分け前を貰って、それを換金して三人と別れた。
どうやら前衛の二人は冒険者になりたてで、今は慣らし期間中だから低層を回っているらしい。
エルフの男がかなり迷宮になれているようなので、すぐにもっと下に行くようになるだろう。
換金を済ませた俺はワープゲートを使って宿屋の前に出た。
かなり便利な魔法だが、そういえば使っている人をあまり見ないのはどうしてだろうか。
「なあ、リリー。ワープを使ってる人をあまり見ないのはなんでかな。けっこう便利だと思うんだけど」
「なによ。褒めて欲しいのかしら。普通は覚えるのにもっと時間がかかるのよ。こんな駆け出し冒険者ばかりの区画で使ってる人がいるわけないじゃない。一般魔法の中では一番難しい部類よ。さっきのエルフくらいでやっと使えるようになる魔法なの。それに普通は攻撃魔法から揃えるわね」
「なんか俺って魔法の才能があるような気がしない?」
「するわ」
もとの世界の知識のおかげとはいえ、この調子でいけば案外リッチな生活が出来そうだ。
危険があるだけにかなり儲かる部類の仕事で才能があるなら悪くないはずだ。
「なんかリッチな生活が見えてきたな」
「そうね。期待してるから頑張りなさい」
どうもこいつは未だに俺のことを弟子の感覚でしか見ていない。
でもまあ助けてくれるからありがたい存在ではある。
もうけたら美味いものでも沢山食わせてやろう。
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