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迷宮と精霊の王国 作者:塔ノ沢 渓一

第23話 洗濯と買い物

 俺たちは王都を通る川の上流を目指して歩いていた。
 下流の方は色々と汚いものが流れてくるので臭くて近寄れないほどだそうだ。
 王都から少し離れただけで、入る人も少なそうな森林地帯が広がっている。

 その中に川を見つけることが出来た。
 さらに進むと支流があったのでそちらの方が水が綺麗だからそっちに進む。
 藪の中に入り服を脱いで、それと毛布をアメリアの方に投げて俺は川の中に入った。

 冷たいのですぐに岩の上に出て、石けんで体を洗う。
 そしてもう一度、小さな滝の下の深みに潜って石けんを流した。
 寒いなんてものじゃない。

 俺はタオルで体を拭いてはたと気付く。
 毛布もない服もないで服が乾くまでどうしよう。
 俺は腰にタオルを巻いて、アメリアが洗濯してる方に行ってみる。

「ちょっと寒くて死にそうなんだけど、どうしたらいいかな」

「なあに、水浴びしちゃったの? それなら火を起こすしかないわね」

 アメリアはこちらに顔も向けないでそんなことを言った。
 俺は仕方なくボールの中から革の鎧を出して身につけた。
 それで森の中で木を拾い、集めたのをアメリアの後ろで山にして火を付ける。

「じゃあ、カエデの服と毛布はここに乾かしておくわね。私の服も洗濯したいから、こっちには来ないでよ。わかった?」

「私はここに残るわ。火があった方がいいもの」

 俺が寒さに震えながら頷くとアメリアは森の奥へと入っていった。
 そしてリリーは俺の隣で火に当たる。

「家と装備と精霊は何を優先したらいいのかな」

「まずは装備かしらね。その次に家がいいと思うわ。そのあとで精霊と契約して、魔道士ギルドで魔法を習うのは一番最後ね。魔法は高いもの」

「魔法ってのは自分で考え出すものじゃないのか?」

「馬鹿ね。生活魔法の他に一般魔法というのがあって、移動や基本的な攻撃魔法なんかがあるのよ。そういうものは先人の知恵を学ぶのが一番の近道なの。オリジナルの魔法なんて習得に時間がかかるもの、もしも習得できなかった時にどうするのよ」

「アメリアの光を出す魔法も一般魔法か?」

「そうね。だけどアメリアも一般魔法はそれほど使えないわ。移動の魔法なんかは覚えるのが早い貴方が習えばいいわね。光を出すのも私が教えてあげるわ。それだけのマナを持ってるのに使い道がないんじゃもったいないものね」

 俺がリリーに光源の魔法を教わっているとアメリアが戻ってきた。
 俺は下半身にタオルを巻いて鎧を着ているだけなので見えないように居住まいを正す。
 アメリアは炎の向こう側に座った。

「替えの服がないんじゃ不便よね。午後は買い物でもしましょうか」

「そうだね。それで家って具体的にはどのくらいの値段で建てられるのかな」

「木を切って加工する魔法があればお金なんてかからないわよ。だけどストーブとか布団とか買ったり、木材なんかも買って揃えると500シールは欲しいわね」

「駄目よ。そういう魔法は高いのよ。アメリアは世間知らずね。木材は買って揃えた方がいいわ。それと私は水で木を切るくらいは出来るわよ。だから金槌と釘と木材だけあれば作れるわね」

「ここに来る途中であった掘っ立て小屋の辺りに建てるのはどうかな。ギルドと迷宮まで少し遠いけど、川の上流の方がいいよね」

「そうね。静かで悪くないと思うわ」

「それじゃ、まずは装備を一通り揃えて、そのあとに家を建てて、精霊と魔法を揃える。って事でいいよね。そうなると宿代がかなりもったいないな。まあしばらくは地下三階を回るだけでも良さそうだけど、もうちょっと稼ぎの効率を上げたくなるね。地下五階くらいまで降りてみるってのはどうかな」

 俺の意見に慎重派のアメリアは反対、リリーは賛成だった。
 下に降りれば降りるほど魔物は強くなるが、稼ぎは格段によくなる。
 もしくは誰も手を出していない地下一階でまとめて倒すという方法もある。

 しかし今よりも下に行くというのなら移動魔法くらいは欲しい。
 空間と空間を繋げて召喚が出来るのだから、多分ワープくらいは簡単にできるはずだ。
 それがないと階段を降りるだけでもかなりの重労働になる。

 しばらくして俺たちは乾いた服を取り込んだ。
 そして王都に戻って商店を見て回る。
 まずは服の専門店をまわるが、安物はゴワゴワしてかなり微妙なものばかりだ。

 その中から比較的肌触りのいいものを選んで買った。
 下着などはいくらあっても困らないので5つ買う。
 ゴムがないので腰のところを紐で縛るようなものしかない。

 そのあとに魔道士ギルドによって魔法の値段を聞いた。
 一般魔法であれば一時間の講義で20シールとのことだった。
 なので20シールだけ払って、ワープゲートの魔法を習ってみる。

 するとリリーの力もあってか俺は一度だけ魔法に成功した。
 魔力を消費してしまったのでそれ以上は試していないが、一度成功してしまえば次からは簡単なはずだ。
 教えてくれた魔法使いが、こんな簡単に覚えられてしまっては商売にならないと愚痴っていたが聞こえないふりをした。

 他にも上位治癒や魔法壁など、どうしても覚えておきたい魔法がいくつかある。
 しかしアメリアは一時間ではワープゲートの魔法に成功していないので、覚えようとしたら一般魔法ですら膨大な金が必要になるだろう。
 しかも移動の魔法だけでも長距離向きや一瞬で迷宮から抜けられるものなど種類が多い。

 それらは一般魔法の上位という扱いで講習料金すらとてつもなく跳ね上がる。
 ここは首都だというのに、それ以上の上位魔法になれば、教えられる人がいるかは運次第だというのだから困ったものだ。
 やはり魔法は後回しにして、装備と家の後は精霊を優先した方がいい。

 俺たちは1時間の講習の後、魔法のリストを一通り見てからギルドを後にした。

「どうしてカエデはあんな簡単に魔法が覚えられるのよ。何か隠してることがあるんでしょう。私にくらい教えてくれてもいいと思わない?」

 そんなことをアメリアが言った。
 思うに、それは科学の知識の差なんじゃないかと俺は考えている。
 炎と言われても、この世界の人は酸化反応で発熱と発光が起こっているという認識はない。

 熱が分子の運動エネルギーだなどとは夢にも思っていない。
 それが理由で抽象的なイメージが先行してしまい、魔法を成功させる妨げになっているのではないかと思うのだ。
 だからアメリアの言うように簡単に会得するコツのような物があるのとは違う。

「ちょっと説明は難しいかな。裏技のようなものとはまた違うんだよ。自然現象に対する捉え方の違いというかさ。全部説明するのはとても大変なんだ。魔法はあとで俺がちゃんと教えてあげるからさ」

「ふーん、秘密にするのね。カエデに生活魔法を教えてくれたのは誰なのか忘れちゃったのね。ちょっとしたコツくらい教えてくれてもいいじゃない」

「そうよそうよ。貴方は品性が嫌らしいのよ」

「い、いや、そういうコツのような物とは違うんだよ。体系的な知識が必要なんだ。あとでなるべく教えてあげるからさ。俺がアメリアにそんなケチ臭いことするわけないだろ。簡単に教えられることならとっくに教えてるよ。それと誹謗中傷できるチャンスがあれば、それを絶対に逃さないような猫から、俺の品性についての指摘は受けたくないね」

 アメリアは信じられないわと言って拗ねてしまった。
 逆にリリーの方はエンジンがかかってくる。

「あら、私に何もしてくれないくせに力だけ借りておいて、よくそんな偉そうなことが言えたものだわ。精霊も持たない半人前の魔法使いのくせに。ちょっとは感謝の気持ちを見せたらどうなのかしら」

 短絡思考のくせに妙に筋が通ったことを言うので、俺は言い返せなくなった。
 確かにリリーはしょっちゅう力を貸してくれる。
 口は悪いが基本的には親切なのだ。

「それじゃ、これから串焼きの店にでも入ってリリーの好きなものを頼むってのはどうかな。接待するよ」

「あら、それはカエデだけじゃなくて私も一緒に稼いだお金じゃない」

「アメリアもそのくらいして当然なのよ。貴方も船以来、私にお風呂にも入れない生活を強いてるんだから、そのくらい出して当然でしょ。ちゃんと美味しいお店を見つけなさいよね。私はお肉が食べたいわ」

 俺はこの王都についてから、何度か前を通って焼き鳥のような匂いに興味を持っていた店に2人を連れて行った。
 中心地からは離れたところにあるので、値段の心配はないだろう。
 店に着いた時には正午を少し過ぎたくらいだったので、店内は空いていた。

「あんまり高級店じゃないわね。感謝を表すのに安い店を選ぶというのはどうなのかしら」

「あんまり高級店だと猫なんか摘まみ出されちまうだろ」

「ふふっ。そうそう、私たちがお金を出せるのはこのくらいよ」

「今、2人から馬鹿にされたような気がしたけど、どういうことかしら。あまり感謝の気持ちがないのかしらね。それなら私にも考えがあるわよ」

「いやいや、感謝はしてるんだよ。だけどちょっと懐事情があるからさ。お金が厳しいのはわかってるだろ」

「だったら最初からそう言いなさいよ。失礼しちゃうわ」

 店は女将さんが一人で切り盛りしているらしかった。
 熱いだろうに、串を何遍もひっくり返して丹念に焼かれた串焼きは柔らかくて美味しかった。
 味は焼き鳥にも少し似ているが、酸味が結構あるので別物という感じだ。

 リリーも上機嫌だ。
 接待が上手くいったようでとりあえずよかった。
 それにしてもご飯が食べたい。

 どこに行ってもパンか芋ばかりで、それ以外に炭水化物の主食というのはないのだろうか。
 麺料理は見たことあるが、あれはガルプの粉を練って茹でたものだろう。
 どうもガルプか芋くらいしか主食はないようである。

 こうなると地方の食べ物が気になるが、そういうのを扱っているのは中心部の高級店のみのはずだ。
 どこで出されるパンもアメリアが作ったものには及ばないので、アメリアのパンが食べられるだけでも贅沢だと今は思っておこう。
 そのうち稼ぎがよくなればそういったものを食べる機会も出来てくるはずだ。

 串焼きの店の会計は腹一杯食べたにも関わらず18シールほどだった。
 これならもっと通いたいが、節約家のアメリアは反対するだろうなと思う。
 やはりその点でももうちょっと稼ぎをあげる必要があるようだ。
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