第22話 地下三階
しばらく進むとノール3匹とファングス2匹の気配があった。
俺は迷わずに気配がある方へと向かう。
そこにはシルエット5体も加えて、10体の魔物がいた。
俺は剣に沿わせた魔力に冷気のイメージを重ねた。
早くも魔法剣のデビュー戦にするつもりである。
一直線に敵へと向かう。
そして魔法剣・冷気を発動させて斬りかかった。
最初のシルエットは俺の剣と冷気の攻撃によって砕け散り、順調な滑り出しを見せる。
しかしこの魔法剣・冷気には致命的な弱点があった。
冷気で冷えた剣に敵がひっついてどうにもならない。
ノールの毛が剣に張り付いて離れなくて、俺はノールごと振り回しながら戦うことになった。
ノールの長く白い毛がガッチリと引っ付いていて振り回しても取れない。
それごと力任せに振り回して敵に叩きつける。
大振りになってしまって、またシルエットのアッパーを食らいそうになったので蹴飛ばして距離を取った。
アメリアのキネスオーブが俺を守るように動いてくれて、ハンデがありながらもなんとか倒しきる。
「冷気なんか出して馬鹿ね。そんな発想しか出てこないのかしら。物体を侵食するような物質を創り出すのよ」
「こ、これはまだ練習の段階だから。もう冷気はやめるよ」
物体を侵食すると言われても、そんなイメージがたやすく湧いてきたら世話はない。
まずは剣に沿わせた魔力にイメージを重ねられるようにするのが先だ。
とりあえず冷気はやめておいて、次は魔法剣・炎を目指すことにした。
次に現れたシルエットを、俺は松明のように燃えさかる剣で切り裂いた。
攻撃力が上がっているのかわからないのが辛い。
それにしても長引くと、剣が持っていられないほど熱くなりそうで怖い。
敵がよく現れるようになり、快調に進んでいると同業者とすれ違った。
エルフの男と獣人の女、それに男か女かわからない竜人のパーティーだった。
竜人を前衛にして獣人がそれに続き、エルフが魔法で敵を倒すのだろう。
探索の終わった範囲を教えてもらったので、こっちも探索してきた範囲を教えた。
そしてまだ今日は誰も歩いていないであろう方へと進むことにした。
去り際にエルフの男がアメリアになにか話している。
俺は現れたノールを相手にしていたのでなにを話しているのかわからない。
しばらくしてアメリアが剣を熱するとなまくらになると教えられたと言った。
まったく格好悪い所ばかり見せてしまう日だ。
俺は魔法剣を諦めてマテリアルレイドと名付けた魔法の完成を目指すことにした。
分子間などの結合力を直接的に断つような物は想像できないので、とりあえず超振動の路線で行ってみることにする。
熱自体でも切断力は上がるはずだが、剣が駄目になっては元も子もない。
そのあとも地下二階層を順調に進み、お腹がすいたところで食事休憩にする。
迷宮内にはネズミがいないのでリリーも俺たちと同じものを食べるようだ。
「パンはあと何日分くらいあるのかな」
「3日分くらいはあるわ。でもあんまり日が経つと美味しくなくなっちゃうのよね。香りも飛んじゃうわ」
俺はお茶が沸くまでの間に今までの収穫を数えた。
魔石が大小合わせて36とガムのような物が12、ノールの落とした毛が3つ。
もうすでに宿代くらいは何とかなっている。
しかしこれでは金が貯まらなくて、装備や俺の精霊など今後のための投資がまったく出来ない。
そこでもう一つ階層を降りるという手を考えた。
しかし地下3階には岩石の腕を持つアルスタジアという魔物がいる。
こいつは体内に鉄分を溜め込むそうで本当に金になるという噂だ。
何かしら切り札となる攻撃でもあればいいのだが、それがまるでない。
それに岩石の腕に剣をぶつければ折れる可能性もあるので気が進まない。
それでも収益の改善は第一課題なので、俺は思い切って降りてみることにした。
食事を終えてから、俺たちは平らにならされた通路まで出て、標識に従って地下三階への階段を目指した。
下に降りるなり、いきなりアルスタジアが現れる。
丸い胴体に尖った鼻、全体的に赤黒い色をしている。
腕の先だけが黒く、足が短いので腕を引きずりながらこちらに向かってくる。
俺はファイアーボールを目くらましに放ち、相手の背後に回り込もうとした。
それをアルスタジアは腕を振り回す力でくるりと振り返り、俺に殴りかかってきた。
アルスタジアの背中にキネスオーブから雷が放たれる。
そこで俺の振り下ろした剣が、魔物の頭を二つに割った。
戦ってみればたいしたことはない。
腕の動きは大振りなので動きが読みやすく、これなら当たることもない。
俺はエリアセンスでアルスタジアだけを探しては倒して回った。
鉄塊がそれなりの確率で落ちるし、魔石もこれまでに出たのよりも大きい。
大きい鉄塊も偶に出るので、これは儲かりそうだ。
シルエットやファングスなどは避けられないようなら倒すが、なるべくアルスタジアだけを狙った。
夢中になって倒していたら、アメリアが疲れたと言ったので上に戻ることにした。
やはりちゃんとしたところで寝ないとアメリアは前日の疲れが出てしまう。
敵を倒しつつ来た道を戻るが、かなり夢中になってアルスタジアを追いかけてしまったようで帰り道はなかなか見つからなかった。
華奢な体のアメリアが疲れた顔をしてるのが痛々しくてたまらない。
ちょっと夢中になりすぎてアメリアに気を配るのが疎かになっていた。
俺はアメリアを負ぶって上に戻るくらいの体力があるのだが、下心を見抜かれそうで申し出られない。
だから俺は出来るだけのマナをアメリアに渡して、ゆっくりと地下二階への階段を探した。
エリアセンスのおかげでなんとか上に戻る階段を見つける。
地下二階まで上がるとそこから地上まではすんなり出られた。
地上に出て驚いたのはすでに日没の時間を過ぎていたことだ。
これではアメリアも疲れるわけだ。
12時間以上も地下に潜っていたことになる。
俺はアメリアをその場に残して冒険者ギルドの支部に走ったが、すでに扉は閉まっていた。
これではせっかくの収穫も売ることが出来ない。
俺は肩を落としてアメリアの元に戻り、そのことを伝えた。
「それじゃ今日も馬小屋ね」
とアメリアが疲れた顔で笑う。
俺は宿の食堂でココナッツミルクのようなものが入ったお茶を頼み、なるべく砂糖を沢山入れて飲むようにアメリアに勧める。
それで馬小屋を貸してくれるように頼んでから、食堂で暖かい食べ物を注文した。
体を温めるためにワインも注文したが、それはよくないものだと言ってアメリアは飲みたがらない。
俺はなんとか言いくるめてワインを飲ませて、注文した鶏肉と芋の煮込みを一緒に食べた。
食べ終わってから昨日の稼ぎでお金を払って外に出た。
それで飲み慣れないワインを飲んでふらふらするアメリアをつれて馬小屋に入る。
アメリアはニヤニヤしながらふらついて頼りないので、俺はアメリアの寝る場所の藁を整えた。
そこに俺の毛布を敷いてアメリアに横になるように促す。
「お父さんがね。私にお酒を飲ませようとする男の人がいたら、絶対にその人を信用しちゃいけないって言ってたわ。カエデはもう絶対に信用できない人になったわよ」
「言いつけを破ってお酒を飲むなんて悪い子だね。それじゃ毛布を出してここに横になってよ。早くしないと体が冷えちゃうよ」
ワインで赤く染まったアメリアはやたらと陽気で色っぽい。
アメリアが俺に向けて異空間を開いたので、そこから毛布を取った。
俺のとは違いパンを入れたバスケットや、小物が入った箱などが綺麗に並んでいた。
「その毛布を私が使っちゃったらカエデはどうするのよ」
「俺は藁に潜って寝るからいいよ」
俺はなるべくアメリアの方を見ないようにしながら、横になるように促す。
彼女が横になると、リリーが悲鳴を上げてフードの中から飛び出してきた。
俺は潰されそうになって驚いているリリーをつまんでアメリアの脇に置いた。
酒で赤く染まった太ももがやたらと色っぽくて目のやり場に困る。
俺は横になったアメリアの上に、彼女の毛布を掛けた。
そして藁を乗せて体の周りに隙間が出来ないようにする。
ここまですれば寒さで体力を奪われることもないのではないだろうか。
そしていつも彼女がしているように、俺が寝るスペースとの間に壁を作った。
それを終えてから、俺は隣の藁の中に潜る。
藁の中は毛布がないせいか少しちくちくした。
疲れていたのか、それとも酔いのせいか、俺は鎧を脱ぐことも忘れて寝てしまった。
翌朝はアメリアに起こされた。
宿の裏で適当に朝食を済ませて、今日は洗濯をすることになった。
洗濯ですら一日仕事で、こっちでの生活は本当に大変だ。
その前にギルドに寄って出たものを全部売り払う。
それで180シールくらいの稼ぎにはなった。
これならば地下3階で狩りをしているだけで生活が出来る。
半日ほど地下三階でアルスタジアを倒しただけで鉄塊が20ほど出た。
それが100シールにもなるので一日やれば一般人1人分くらいの収入にはなる。
ギルドの受付の人にも、これならばもう1つ星を増やしましょうと言われ、現在、俺たちの冒険者タグには2つ目の星がプレスされている。
これで傭兵として戦場に行ったり、護衛などの依頼を受けることが出来るようになると説明された。
掲示された依頼をアメリアに読んでもらうと、人捜しや護衛などが多い。
特に戦争中の国へ物資を届けるので、そのための護衛というのが沢山ある。
人捜しは依頼人と一緒に探さなくてはならず、拘束期間もかなり長そうだ。
前金が出るので良さそうだが、見つからなかった場合は前金の半分を返却する必要があると書いてあった。
それならばまだ護衛の方が数日間の拘束で金の入りも大きい。
しかし護衛の場合は星3つからという条件がほとんどだった。。
どうやら星1つというのは見習いで、星2つで初心者くらいの感覚なのだろう。
そうでないと、まだまともな攻撃手段すらなくて素人が剣を振り回してるだけの俺がいきなりランクアップするのがおかしい。
一応、剣道の経験はあるが、片手剣では勝手が違いすぎてほとんどその経験を活かすことが出来ないでいる。
せめて両手剣が欲しいが、そっちはかなり値が張るので今の懐事情では無理だ。
それに、こっちの剣は型に流し込んで作る鋳造剣なので折れやすく、剣で攻撃を防ぐようには出来てない。
こっちで片手剣というと盾を持って戦うのが普通なのだ。
街ですれ違う剣士もたいていは盾もセットで持っている。
だから両手剣となると簡単には折れない大物しかなく、俺が持ってきた刀のような武器は存在すらしないのだ。
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