第21話 馬小屋
壁に背を預けてじっとしていると、なんとか喋るくらいの体力が戻ってきた。
迷宮内のモンスターというのは、あんなに固まってる物なのだろうか。
そうだとしたら範囲攻撃が出来ないと囲まれて押しつぶされてしまいそうだ。
いくら攻撃が効かないといっても、身動き取れなくなったらわからない。
アメリアが初めて見る魔法を使っていたが、あれはどんな効果だろうか。
「アメリアがさっき使ってたのって、どんな魔法なの?」
「大妖精から力を借りて作り出す魔法よ。足元を凍らせて動けなくするの。逃げる時くらいしか使えないわ」
「他にはどんな魔法が使える?」
「あとは、そうね。炎の矢を降らせる魔法があるわ。でも、とても範囲が広いから使うのが難しいの。他には風とか霧かしら」
その魔法でさっきのを全部倒せたら美味しいが、いくらなんでも最初くらいは堅実にいった方がいいだろう。
それに今日は大群からもう一度逃げきるだけの体力がありそうにない。
俺たちは慎重にさっきの大群がいた方から離れるように移動した。
しばらくして魚のような口をした、茶色い鶏のような魔物がいた。
今度は慎重に相手の動きを見極めてから、攻撃してくる隙を縫うように剣を振るう。
ファングスであろう魔物は一刀のもとに両断されて塵に帰った。
落としたアイテムは小さな魔石のみだった。
敵が一体くらいだったら、まるでたいしたことはない。
しかし、さっきの失敗から敵が多そうな方へ行くのもためらわれる。
アメリアは信頼してくれているのか、なにも言わず俺についてきてくれる。
それに応えるためにも的確な判断をしたいところだが、情報もない今は慎重になるべきだ。
俺は念入りに気配を探ってから3体以内までの魔物にターゲットを絞った。
次に見つけた敵はインプ3体だった。
視界に入るなり、いきなり投石してくる。
投石などエリアセンスがある俺にはかすりもしない。
しかし薄暗い中で投げられた黒い色の石がアメリアには見えていなかった。
そのことに気がついた俺は避けようとしないアメリアの前に出る。
剣で防ごうとしたが軌道がわずかにずれただけで、俺の頬をかすめていった。
肌が切れて血が流れた感触が頬を伝う。
これは当たり所が悪ければかなり危ない。
俺は魔力に炎のイメージを乗せて相手まで飛ばし、当たる寸前に炎を弾けさせた。
それで相手がひるんだ隙に飛びかかり、走り抜けざまに2体を斬り倒した。
俺が斬りかかるのと同時に、風をはらんだアメリアのキネスオーブが一体の胴を消し去った。
俺は傷を自分で治して血をぬぐった。
「こいつの投石はちょっと危ないから、アメリアはこいつを優先的に倒してくれないかな。出来れば何か、飛び出した岩の後ろにでも隠れてやってくれると助かる」
「わかったわ。怪我とかしなかった?」
俺は平気だよと返した。
そのあとも敵の数を確認しながら慎重に倒して回った。
走ったせいもあって午後になってしばらくすると疲れが出てきた。
特にアメリアは長旅の疲れがあるのか、顔色があまりよくない。
そこでアメリアと相談して今日は切り上げることにした。
階段まで戻り地上に出て、かなり遅めの昼食を食べた。
「はあ、それにしてもついてないね。いきなりあんなのに出くわすなんてさ。走りすぎたせいで体が痛いよ。明日はノールの大群にだけは気をつけよう。足が速すぎてアメリアの魔法がなかったら逃げ切れなかったよ」
「緊張してたせいもあると思うけど私も疲れたわ。今日はどのくらい稼げたのかしらね。慣れるまではすごく大変そう。それにカエデの魔法がなかったら大変なことになってたわ」
「アメリアが使ってた魔法って俺も使えるのかな。もうちょっと広範囲に攻撃出来る手段が欲しいんだよね」
「う~ん、精霊魔法は祭壇でお祈りをして資格を認められると使えるようになるの。もちろん魔力を差し出して力を借りるわけだから適正も必要ね。この辺りの地理はわからないけど、祭壇があるなら使えるようになると思うわ」
「もしくは古い本に書かれた方法で呼び出して契約することも出来るわね。でも売りに出されることは滅多にないそうよ。しばらくはそれを振り回して我慢しなさい。それにあのくらいの量なら、貴方さえ怖じ気づかなかったら一人で倒せそうだったわよ。もう少し自信を持ちなさいよ」
昼食を食べ終えた俺たちは、近くのギルド支部へと向かった。
そこで今日の収穫である魔石17個とガムのような素材2つをカウンターに載せる。
魔石は最小という評価で5個2シール、ガムの方は2個で4シールという買い取りだった。
宿代が一人20シールだというのに今日の稼ぎは10シールしかない。
アメリアの残金と会わせても25シールだ。
「これじゃ宿には泊まれないわね」
「カエデを野宿させて、私たちだけ部屋を借りましょう」
まあそうするしかないかと考えていたら、アメリアが反対する。
船で特別扱いされた事もあってか、今回は俺と同じでいいと譲らない。
仕方なく俺は、昨日と同じ宿に行って交渉してみた。
すると8シールで借りられる部屋があるという。
早速見せてもらったが、これが酷いなんて物じゃない。
一畳半位の縦長のスペースに、赤黒くテカテカと光った垢まみれのゴザのような物が一枚ひかれて、土嚢のような枕が一つあるだけだ。
アメリアを見るが、恐怖におののいた顔で首を横に振っている。
そこで俺はゲームの知識を頼りに馬小屋を借りられないか聞いてみた。
すると無料でもいいという返事が返ってきたので馬小屋に行ってみる。
馬と言ってもサラブレットのような格好のいいものではなく、ロバを大きくしたような間抜けな顔が並んでいた。
馬糞臭いそこには、えさ用の藁が積まれたスペースがちゃんとあった。
藁自体は綺麗なのでこっちの方が精神的にいくらかマシだろう。
アメリアの了解を取ってから、俺は今日の寝床を馬小屋に決めた。
そのあとは街の中をぶらついて色々なものを見て回った。
部屋や家を貸し出しているところもあり、その金額を見ると宿はかなり割高なようだった。
まとまった金が出来たらそういう所に移ろうとアメリアに言ったら、家を建てた方がもっと安上がりだと教えられた。
どうやら、この世界の土地所有権というのは王都の中心部くらいにしかなく、あとは好き勝手に使ってもいいらしい。
それならば一度建ててしまえば一生住むところに困らない。
お金が出来たらまずそれを建てようとアメリアと約束した。
自分の好きな家を建てられるというのも夢が広がって楽しみだ。
夕方になって宿に帰り、俺はアメリアを誘って食堂に行った。
そこでお茶を注文して、アメリアにここでリリーと時間をつぶしていてくれと頼む。
そして俺は昨日と同じく情報を集めるために話を聞いて回った。
ある程度の知識はあるために質問も出来るので昨日よりも情報を集めやすい。
どうやら本当に初めて迷宮に入るなら地下二階から始めるのがいいということだった。
地下一階は開けすぎているために魔物が集まりやすく、事故が起こりやすい。
だから地下二階ならば敵が不必要に集まったりせず、しかもインプの投石も驚異ではなくなるということだった。
すぐに十分な情報が集まったので、俺たちは馬小屋に戻って横になった。
アメリアが藁の壁を築いてる間、リリーが俺の耳元にやって来て丸くなる。
「カエデはマナを持て余しててもったいないわ。だからあたしが考えた魔法を教えてあげる。剣に物体を侵食する魔法を掛けるの。それを伸ばしたり飛ばしたりすればもっと簡単に敵を倒せるようになるわ。明日から実戦で練習なさい」
「うお。超格好いいな、それ」
「名前は明日までに私が考えておいてあげる」
「いやそれはいいよ。ゲロネズミみたいな名前を付けられても嫌だし」
「まあ、それでもいいわ。貴方の考えた魔法は役に立ったわね。その調子で頑張りなさい」
偉そうなことを言ってリリーは俺の顔を跨いでアメリアの方へ帰って行った。
その時にリリーの肛門が俺の鼻先をかすめていって、これ以上ないくらい不快だった。
だけど物体を侵食する魔法というのはいいな。
マテリアルレイドなんていいんじゃないだろうか。
剣に沿わせた魔力を冷気や炎に変えたら魔法剣だ。
これは極めねばなるまい。
俺は誓いも新たにして眠りについた。
朝起きるとアメリアはまだ眠っていた。
リリーは馬小屋の中を暴れ回っている。
おおかたネズミでも捕っているのだろう。
しばらくして馬を取りに来た人で小屋の中が騒がしくなるとアメリアが起きた。
俺たちは馬糞臭い馬小屋を出て、宿の裏にあった空き地で朝ご飯を済ませる。
リリーは自分で捕まえたネズミを美味しそうに食べている。
食べてるところは初めて見たがかなり気持ち悪い。
見てるだけで食欲がなくなりそうだ。
内蔵だけは避けて食べてるのが唯一の救いだ。
「なによ。羨ましそうにしてもあげないわよ。ちょっと塩味が効いててとっても美味しいの」
「いや、味についてのコメントはやめてくれ」
俺とアメリアはパンと果物だけの朝ご飯を済ませた。
そして今日も真っ直ぐに迷宮の入り口へと向かう。
地下一階に降りてから、昨日聞いていたとおり地下二階への階段を探してすぐに降りた。
地下二階は迷宮のように細い通路が延びている。
ちゃんと整地されたメインの通路が左右に伸びており、そこからいくつもの枝道が伸びている。
壁には案内の表示もあるので迷子になることはないだろう。
俺は先頭に立って脇道をどんどん進んだ。
近くに敵の気配はない。
しばらくしてシルエットが現れた。
地下一階よりは狭いと言っても剣を振る位のスペースは十分にある。
俺は昨日の教訓に従い、相手の動きを見極めてから斬りかかった。
暗い場所で黒い影のような敵は目で見たのでは動きがわかりにくい。
しかし俺の魔法の前では敵ではなかった。
余裕がありそうなので俺はマテリアルレイドの練習のために剣に魔力を沿わせた。
しばらくはこの状態を維持しながら戦ってみよう。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。