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迷宮と精霊の王国 作者:塔ノ沢 渓一

第19話 冒険者

 王国に着いてからのアメリアは周りの注目を良く集めた。
 それはこれまでの悪い注目のされ方ではなく、かわいいからだ。
 道行く男たちがほとんど振り返るほどの美少女っぷりを発揮している。

 差別がなくなれば、そうなってしまうのだろうなと俺は思っていた。
 最初は物珍しそうに辺りを見回していたアメリアも、次第に自分に注がれる視線に気が付いたようだった。
 そわそわと落ち着きがなくなってくる。

「なんだか今までとは違った視線を感じるわ。やっぱり都会だから、みんな垢抜けてて、私の格好がおかしいのね。服を新しくした方がいいみたい」

 秋晴れくらいの気候なのに、ロングスカートなどを履いているのはアメリアくらいだ。
 みんな色鮮やかで露出の多い服や鎧を身につけている。
 女の人は足を出す格好がこの街の流行のようだ。

「アメリアがかわいいから注目されてるだけだよ。それよりも露出が多い服なんて感心しないね。それに服は一番後回しにしよう。防具を一番に優先して、そのあとに武器と寝るところの確保だね」

「わ、私ってかわいいの……」

「ふっくらした顔の感じとか神がかってるよ。俺は生まれてこの方、アメリアよりもかわいい女の子なんて見たことがないね。だから気をつけなきゃ駄目だよ。隙を見せたら色欲に溺れたろくでもない男たちが群がってくるからね。男には下心があるって事を忘れちゃ駄目だよ」

「貴方もアメリアの顔につられて、つけ回してくる男の一人じゃない。アメリアはカエデにも気をつけなきゃ駄目よ。こいつこそ下心で付いてきたに違いないんだから」

「ち、違うって。俺は内面に惚れたの」

 リリーの奴は一度思い込んだらなかなか自分の考えを曲げない。
 第一印象が悪かった俺への評価はいまだ低いままだ。
 アメリアは今の今まで自分の容姿に自覚がなかったようで、赤くなってうつむいている。

「特にアメリアは田舎者丸出しだから、そこから改善しないとね。さっきまでみたいに珍しがってキョロキョロ周りを見てたら、ろくでもないのが集まって来ちゃうよ」

「もう、田舎者なんて言ってくれるじゃない。じゃあどうしたらいいのよ。カエデだってぼんやりしてるようにしか見えないわ。落ち着いてはいるけど、全然まわりに溶け込めてないんだから」

「こういうのが都会風なんだよ。こういう風に、ちょっとだるそうにして歩くのが最新流行なの。この街はだいぶ遅れてるから俺が浮いて見えるんだろうね。ああ、違う違う、それじゃただの病人だよ。もっとこう、肩の力を抜いた感じでね」

 アメリアは健気にも俺の真似をしたが、どう頑張っても背伸びしている感が拭えない。
 アメリアではその身に漂わせる清潔感からして都会の空気にそぐわない。
 リリーの方も、心が汚れている割には都会の空気にまったく馴染めていなかった。

 俺の方はなんだかゲームの中に入ったみたいだなという感想しかない。
 街の中心部は白を基調とした壁が多く、かなり清潔感がある。
 この辺りはかなりの金持ち専用区画なのだろう。

 俺たちはとにかく人通りが多い大通りを歩いた。
 次第に壁も白から黄土色のものが混じるようになり、少しずつ大衆向けの区画に移り変わってくる。
 王都の中心地から500メートルほど離れると、冒険者向けだと思われる区画へと入った。

 装備や素材だと思われるものが店先に吊るし売りにされている。
 その中に周りよりも一回り大きな建物が目に入った。
 看板にはドラゴンの絵が描かれており、これが冒険者ギルドの本部だとアメリアが教えてくれた。

 探索者ギルド、冒険者組合などとも呼ばれる組織で、戦利品の買い取りから仕事の依頼まで何でもやってくれる。
 支部も沢山あり同じ看板が出ているところなら、どこでも同じような事が出来る。
 俺たちはその建物の中に入った。

「2人、新規で登録したいんですが、出来ますか」

 俺の言葉にカウンターの中にいたお姉さんは愛想良くええと応えた。
 特に引っかかることもなく、俺たちは登録料だという50シールをそれぞれ払わされた。
 これでもう俺には10シールしか残らない。

 まさか登録に金がかかるとは思っていなかったから、これは大きな誤算だ。
 名前と年齢と種族を、渡された茶色い紙に書いてしばらく待たされる。
 程なくして、さっきのお姉さんが戻ってきた。

 これで登録は終わりですというようなことを言われ、最初のうちは仕事の依頼は受けられない旨を伝えられる。
 それから名前と番号と星が一つプレスされたドッグタグのような物を受け取った。
 首から吊すための鎖のような物が付いていたので、その場で首に掛けた。

「全くの初めてなんですが、何か案内のような物はありませんかね。まだこの国に来たばかりで右も左もわからないんですよ」

「そのような物はちょっとありませんね。もし聞きたいことがあれば同じ冒険者に聞いてみるといいでしょう。王都の中心部から離れると、それだけ初心者の方が多くなります。売られている物も手頃な値段になりますので、装備や道具などは自分の実力にあったところで揃えるといいと思います。酒場か宿に行けば仲間を見つけることも出来ます」

 登録料を50シールも取っておいて、なんとも突き放した話だ。
 それとも、そんなに難しくなく始められるのだろうか。
 俺たちはギルドの建物から外に出た。

「とりあえず、もうちょっと中心地から離れてみようか。そこで装備とか道具とか必要な物を揃えよう」

「そうね。それでいいわ」

 俺たちは中心地から反対に向かって歩いた。
 500メートルほど進むと冒険者向けの店はなくなり、雑貨や食べ物を路上で売っている人しかいなくなった。
 なので、その手前にあった装備品などを扱う店に入る。

 店に入ると店主はなにやら作業をしており、話が出来る感じではなかった。

「カエデの持っている剣は使えないの?」

「これは爺ちゃんの形見のような物だし、かなり錆びやすいから使えないかな。どうしようもなければ使うけどね。ちょっとさびが浮いて来ちゃって困ってるんだ」

「そんなに大切な物ならさび止め加工をしておいた方がいいわ。ちょっと貸してもらってもいい?」

 俺は腰に下げていた刀をアメリアに渡した。
 それをアメリアは店主の所に持っていき、なにやら交渉を始める。

「いくらだって?」

「80シールよ。カエデはお金がないみたいだから私が出してあげる。持ち主の魔力から自動で修復出来る加工もあるの。それには沢山お金がかかるから今は無理だけど、それが出来たら使えるようにもなると思うわ」

 俺はちょっとアメリアのお金の方が心配になったが、この世界にはない武器として刀を大事にしておきたい気持ちもある。
 なのでここはアメリアに出して貰って、さび止め加工をしてもらうことにした。
 それ以外に携帯用の生活用品や俺用の安物の剣をアメリアは買ってくれた。

 お金がないからと木製の鎧などを買われそうになったが、さすがにその装備は恥ずかしいのでやめて貰った。
 刀の加工はその場ですぐに終わり、店主から渡されたそれを俺は腰のベルトに戻した。
 アメリアに買って貰った剣は鞘もないので、そのまま抜き身で持ち歩くわけにもいかずに、生活用品と一緒にボールの中に入れる。

「アメリアも動きやすい格好にした方がいいんじゃないかな。さすがにロングスカートは汚れたり大変じゃない?」

「そうね。でもブーツが膝上まであるからズボンじゃ駄目なのよね。短いスカートだと余計に動けなくなっちゃうでしょ」

 俺がアメリアにプレゼントしたのは膝まで隠す革のブーツだ。
 藪の中を歩くことも多かったので、怪我しないように俺が選んだものだ。

「この皮のショートパンツはどうかな。これなら少しくらい転んでも怪我もしないと思うよ。あとこのニーソックスみたいなのもアメリアに似合いそうだよ。上からローブを着れば寒くもなさそうだし」

 アメリアはそうねえ、としばらく思案した後、その二つを買った。
 最後に、木の鎧を嫌がった俺のためにアメリアが革の鎧を買ってくれた。
 細長い皮で編まれ、腰垂れまで付いたかなり立派な鎧である。

 わがままを言って無理をさせてしまったようで申し訳ない。
 アメリアは後ろから魔法を撃つから平気と言って鎧は買わなかった。
 もし儲けが出たら真っ先に買おう。

 それまでは俺が体を張って守れば良いのだ。
 俺は早速その場で革の鎧を身につけてみる。
 思った以上に窮屈でパーカーは脱がなければならなかった。

 しかも鎧の上からは着れそうにないので、マントを羽織るだけになった。
 日に焼けてない生っ白い腕が少し恥ずかしいので、マントだけでも羽織れて良かった。
 それにしてもゲームのコスプレをしてるみたいで恥ずかしいのはなんでだろうか。

「けっこう様になってるじゃない。せっかくアメリアが買ってくれたんだから、それ相応の働きはしなさいね。もし役に立てなくても盾くらいにはなるのよ。それじゃあ、あとは食料が大事ね」

「もう、そんなこと言ったら駄目よ。絶対に無理をしちゃ駄目だからね」

 俺たちは店を出て、果物などを路上で売ってる人たちの所で買い物をした。
 パンもなくなっていたのでガルプの実と蜜も買った。
 そして近くの安宿に二人分の部屋を取る。

 部屋代は一人20シールだったので足りない分はアメリアに出して貰った。
 そのあと宿の台所を貸してもらってパンを焼いて、その日は夕方になる。
 パンを焼いてるときに、アメリアの所持金はあと15シールという衝撃の事実を聞かされた。

「じゃあ、もし明日まったく稼ぎがなかったら野宿になるわけ?」

「そうよ。だから頑張りましょうね」

 マジで崖っぷちのぎりぎりだ。
 駆け出しの冒険者が、そう上手く金を稼げるのだろうか。
 全ては明日次第である。

 アメリアが部屋に戻ったあとで、俺は一階の酒場に降りて色々と話を聞いて回った。
 自慢話がほとんどだが、その中から使えそうな情報だけを拾う。
 色々な話を聞いていくつかわかったことがある。

 東の方にいるファングスという魔物は大きな魔石を落とすことがあり、西の方に多いシルエットという魔物は回復薬の素材を体内にため込んでいて安定した収入になる。
 地下1階では投石してくるインプというモンスターにだけ気をつければいい。
 あとはノールという魔物は足が速く、逃げようとしてはいけない。

 このくらいのことが二時間ほどの聞き込みでわかった。
 一番恐ろしげなのは投石をしてくるというインプだろう。
 これだけは本当に気をつけないと、アメリアが怪我でもしたら大変だ。

 出来れば盾のような物が欲しいが、ない以上は避けてもらうしかない。
 それだけの情報を集めて満足した俺は自分の部屋に戻った。

「夜遊びね。どこに行ってたの?」

 俺は話を聞いた冒険者たちから酒をおごられて何杯か飲んでいる。
 酔った勢いでムラムラしてくるが必死に押しとどめた。

「ちょっと情報収集をね」

「そう、明日は早いからちゃんと休まなきゃ駄目よ」

 俺がわかってると返したら、アメリアは自分の部屋に戻っていった。
 俺は酔いに任せてそのまま眠りについた。
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