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迷宮と精霊の王国 作者:塔ノ沢 渓一

第16話 昼下がりの決闘

「今何時くらい?」

「もう夜中よ。あんな無茶をするから」

「アメリアが運んでくれたの?」

「そう。すっごく大変だったんだから。でも、周りの人も驚いてたわ。いつの間にあんな事が出来るようになったの?」

「別に。風を起こす魔法を使っただけだよ。それより、だいぶ時間を使っちゃったな」

 俺はベッドから起き上がって、畳んであった上着に袖を通した。
 こうなることは想定済みである。
 始めからこのくらいのアクシデントがあっても目標は達成できる見込みだ。

「あきれた。まだやるのね。その前に言っておかないといけないことがあるの。あの話だけどね、カエデが3日以内に船を着かせたとしても、その、見せてあげられないと思う。だって、考えただけで顔から火を噴きそうなんだもの。宣言するわ。絶対に下着なんか見せてあげない。お願いだからもうあきらめて」

「さすがアメリアだ。良くわかってるね。やっぱ、そのくらい恥ずかしがってくれないと有り難みもないよ。よーし、やる気が出てきた。絶対に見せてもらうからね」

「見せないって言ってるでしょ! 頑張っても後悔することになるの。それにどうしてそんなもの見たがるのよ。カエデって絶対におかしいわ。あと、確かに早くなってたけど、あのくらいで2日も短縮できるとは思えない」

「2日じゃなくて、本当は1日短縮できればいいんだよ。今まで順調に追い風が吹いていたからね。船員にも確認したから確かだよ。だから最初から3日で1日分短縮すれば良かったんだ」

「騙したのね。ずるいわ」

「これも作戦のうちってね。もともと航海日数は多めに見積もられたんだ」

 ぷりぷり怒り出して口も聞いてくれなくなったアメリアを残し、俺は甲板に戻った。
 一度成功してしまうと魔法は次から格段に成功しやすくなる。
 なので俺はもう一度同じように詠唱しながら風を起こした。

 最初の失敗を踏まえて、今度はある程度リラックスして続ける。
 風を起こした範囲も無駄に広かったので、それもしっかりと範囲を限定した。
 これでしばらくは魔法を使い続けられるだろう。

 夜の星空を眺めながら、俺は魔法を使い続けた。
 明け方頃になると、甲板の上にも人の姿が見え始める。
 なぜか昨日からの順調すぎる船の走りに、みな感心しているようだった。

 気絶したことで体が休まったのか、夜が明けても疲れは出なかった。
 非常に順調だと思っていたら、昼頃になってリリーがやって来た。
 俺の足下に口から内臓の飛び出した気持ち悪いネズミを置いた。

「ねえ、カエデ。ちょっとネズミを焼いてくれない?」

 俺はシッシッという動作で邪魔をしないでくれと伝える。
 魔法は集中力が全てなのだ。
 そしたらリリーはネズミを咥えて俺の体を上り始めた。

 俺はいったん魔法を止めてリリーのネズミを焼いてやった。
 このくらい自分で焼けるだろうに横着な猫だ。
 そしてもう一度、魔法の詠唱に入ろうとしたところでリリー話しかけてくる。

「とっても沢山のネズミがいるの。どうにかして保存しておく方法はないものかしらね。貴方、そういうことに心当たりはない?」

「今忙しいから後にしてくれよ。ネズミなんてどこにでもいるだろ」

 それでもしつこく聞いてくるので、俺はリリーの首根っこを掴んだ。
 そして船の上を物色して回る。
 ちょうど手頃な樽があったので、その中にリリーを放り込んでふたを閉めた。

 息が出来るか心配になったが、もともと猫の死体が歩いているだけなのだからたぶん平気だろう。
 そんなことを考えていたら、リリーを入れた樽が悪魔が取り憑いたみたいに暴れ始めた。
 中からふたを蹴っているような音がする。

 あんな小さい体で樽の上に良く届くなと感心していたら樽のふたが吹き飛ばされた。
 一体なにが起きたのかと樽の中をのぞいてみる。

「キシャーーーーーーーーッ!!!」

「うわっ」



 なんとも不毛な戦いだった。
 30分後、俺は戦う意思をなくして動かなくなったリリーを手に提げていた。
 自分のマナもない癖にアメリアから離れて戦うとは愚かな奴だ。

 それでも勝てると思われていたのなら心外である。
 しかし俺の方もかなりの深手を負っていた。
 いくら攻撃手段がないとは言え、魔法にも慣れ始めたというのに猫一匹とほぼ互角というのが嫌になる。

 引っかかれて体中がヒリヒリと痛い。
 髪の毛もかなり燃やされてちりちりになっている。
 しかし最後には、俺の捨て身で放った手刀がリリーの脇腹に刺さったのだ。

 そんな戦いの後のむなしい気持ちを抱えて、俺はアメリアの部屋のドアを開けた。
 椅子に座っていたアメリアが驚いたような顔でこちらを見る。
 俺は手に持っていたリリーの体をベッドの上に放り投げた。

「どうしたの。ひどい怪我じゃない。誰がこんな事したの? もしかしてリリーとケンカでもしたの?」

「反則負けだよ」

「え……?」

「俺の邪魔をしようとリリーをけしかけたんだろ。だから賭はアメリアの反則負け」

「な、なんのことかしら。それよりも早く手当てをしないと。ベットの上に座って傷を見せて。早く治さないと跡が残っちゃうわよ」

 俺は言われたとおりベッドの上に座って、傷を一つ一つ出して見せた。
 アメリアは明らかに俺と目を合わそうとしていない。
 リリーをけしかけたのは疑いようもなかった。

 俺の手当が終わると、リリーの様子をちょっと見てからアメリアは椅子の上に戻った。

「さあ、約束だからパンツを見せて」

「な、なによ。見せないって言ってるでしょ。しつこいわよ」

 アメリアは顔を真っ赤にして、たどたどしい態度でそんなことを言った。
 なんかそんな感じがかわいくて、それを見てるだけで嬉しくなる。

「だけど約束だよ」

「そうね。じゃあ、リリーちょっときて」

 そう言ってアメリアは椅子の上にリリーを移して、俺に背を向ける。
 そしてリリーに向けてスカートをまくり上げた。
 その動作を見ただけで俺はドキドキするのを押さえられない。

「はい、見せたわよ」

「いや、アメリアはリリーにじゃなくて俺に見せるってちゃんと言ってたよ」

「う……」

「カエデは凄く頑張ったのよ。そんなインチキじゃなく見せてあげればいいじゃない。私もひどいと思うわ」

 アメリアはかなり恥ずかしそうにしている。
 その様子にちょっと気の毒になった俺は、仕方なく最初から用意してあった提案をする。
 アメリアの気を紛らわせるためにやったのであって、何も嫌がることを無理強いするつもりはなかった。

「それじゃあさ、パンツの端っこをちょっとだけ見せてくれるだけでいいよ。腰の所から見せるくらいなら簡単でしょ」

「絶対にイヤ」

 いやいや、それはどうだろう。
 この提案を拒否するというのは、いくら何でもひどすぎる。

「ちょ、ちょっと待ってよ。ちゃんと誓いの言葉を交わしたじゃないか。どうしてそんなことが言えるんだ。なにか強制力のようなものが働くんじゃないのかよ」

「あれはね。ただ手を光らせる魔法を使っただけなの。私はカエデに魔法の力を使って誓いをさせたことなんか一度もないわ。むしろそのことに感謝しなきゃ駄目よ。それに昨日だって倒れたカエデにマナをわけてあげたんだからね。さあ、感謝して」

 なんということだろう。
 俺の最大限の譲歩に対して、アメリアは開き直ったではないか。
 いくら何でもひどすぎる。

「こ、こうなったら……」

「こうなったら?」

「力ずくで……」

 それを言った途端、俺の目の前にキネスオーブが現れる。
 それが諦めなさいとでも言うように、ふわふわと俺の前で回る。

「こんなのひどいよ……約束したじゃん……」

「ど、どうしても無理なものは無理なの! 泣き落としなんて意味ないからね。あきらめが悪いわ。ごめんなさいって言ってるでしょ」

「はあ……」

「これ見よがしなため息もやめて。あ、あとで埋め合わせはするから」

 もう一度深いため息をついてから俺はアメリアの部屋をあとにした。
 本気でがっかりしていた。
 田舎娘にしてもほどがある垢抜けなさだ。

 俺が船室まで戻ってくると、どこか遠くでリリーに呼ばれたような気がした。
 なんだろう。
 アメリアに何かあったのだろうか。

 俺は今来た道を引き返して、船内を走った。
 さっき出てきたアメリアの部屋のドアの前までやって来る。
 特に何か変化があるというわけでもない。

 しかし確かにリリーから呼ばれたような感じがあったのだ。
 あれほどはっきりと聞こえたのだからテレパシーの様なものだったはずだ。
 俺は乱暴にそのドアをノックしてから開けた。

 窓に掛かったカーテンがクリーム色に輝いている。
 その光の中で、アメリアがこちらに背中を向けて立っていた。
 着替えの最中だったらしく、新しい服で胸元を隠すような仕草をしている。

 しかし、こちらに向けられた背中を遮るものはなかった。
 ピンク色に輝く肌が神々しく光を放っていた。
 長い金髪が背中を半分くらいを隠している。

 綺麗で長い足がとてもなまめかしい。
 お尻には薄い生地で作られた短パンのようなものが、足と腰のところでピンクの紐に縛られていた。
 ズロースという言葉が浮かんだが、柔らかいクリーム色の生地からちょっと違うような感じもする。

 一通り眺めた俺は、涙目のアメリアに向かって手を合わせ、深々とお辞儀をした。

「ごちそうさまでした」

 それだけ言って俺は部屋のドアを閉じた。
 中からは鍵を開けたのはリリーねなどという喧噪が聞こえてくる。
 そのあとにすました声のリリーが約束は守らなきゃ駄目よなどと言っていた。

 マジで一生の思い出にしようと、俺は心に誓った。
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