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2010年11月11日木曜日

「かくすれば かくなるものと知りながら やむにやまれぬ 大和魂」(吉田松陰)



かくすれば かくなるものと知りながら 
  やむにやまれぬ 大和魂

 幕末の志士たちに多大なる影響を与えた吉田松陰の歌である。

 現代語訳すれば、以下のようなものになるだろうか。 
 
このようなことをすれば、このような結果になることを十分承知していながら、止むに止まれぬ気持ちから行動に踏み切った。これこそが日本人の魂なのだ。

 神童の誉れ高き学者でありながら、直情径行といってもよいほどの熱い行動の人であった吉田松陰。失敗に終わった米国密航計画について、獄中で振り返って詠んだ歌だ。
 長州出身ではない私は、正直なところ吉田松陰はあまり好きではないのだが、この歌にあふれる熱い思いには、人を動かすチカラがあることは誰にも否定できまい。


 海上保安官による「尖閣ビデオ流出」事件、YouTube にアップされた映像は翌日朝にみたが、ハンドルネーム sengoku38 の快挙には快哉を叫びたくなったものである。

 中国漁船(・・実は工作船)が海上保安庁の巡視艇に故意に衝突してきて、その結果漁船は拿捕され、船長が逮捕された事件でる。その後、不可解な形で船長を釈放した政府の決定から始まった国民の落胆と怒りは、主権侵害行為に対する無為無策だけでなく、むしろ敵失に近い意志決定に対してのものである。

 事件発生当初から、ビデオの全面公開をしてもらいたいと思って、twitter にもずっと投稿を行っていた私である。「国民の知る権利」をないがしろにし、自国の固有領土という「国民の生命財産」を守る姿勢を見せない政府に対する怒りがあるのは、国民の大半と意見をともにしている。

 昨日(2010年11月10日)、ビデオのアップを行ったのが神戸のネットカフェであることが捜査の結果発覚した。公務員の守秘義務違反なる罪で捜査令状をとった警察が、 YouTube を所有する Google から資料を押収して判明した。
 そしてついに、本人が上司に自分がやったことを告白し、自首することになったというのが事の顛末だ。

 報道によれば、海上保安官(sengoku38)の真意は以下のようになる。どの報道機関でも同様の報道を行っているので要旨をまとめておこう。

「国民には見る権利がある」
「一部の人間の都合で機密でないモノが機密になっている」
「良識ある人間であれば映像を見れば答えはどっちにあるか分かるはずだ。そこをなぜ PR しないのか」
「隠していいのか、判断材料として見てもらうのが一番。うやむやになってはいけないと思った」
「映像は元々国民が知るべきものだ」
「本当に私がやったことが国民全体の倫理に反することであれば甘んじて進んで刑にも服す」

 この国家公務員の覚悟を知って安心した。まさに、吉田松陰の歌「かくすれば かくなるものと・・・」そのものではないか。
 分別盛りの43歳、家族をかかえた一人の日本男子にとって、けっして一時の激情に駆られての行為ではあるまい。しかし、告白するかどうかそうとう悩んだことだろう。
 覚悟のうえで行動に踏み切った海上保安官の行動には、日本人として賞賛を送りたい。


 国民の多くが政府に対する不信感を抱くにいたっている。
 日本という国家のメルトダウンが始まっているのではないか? 亡国への道へと勢いをつけて転落しつつあるのではないかという不安である。

 時代の「空気」は明らかに、昭和初期の五・一五事件に似てきている。このクーデタ未遂事件においては、国民の声は反乱者に同情的で、寛大な処置を求める意見も多かったという。
 今回も、勇気ある内部告発者である海上保安官にたいする同情の声が 8割を超えるという。

 国民の官僚不信にかこつけて、自らの保身と情報隠蔽に走る政府と政権党。
 国防の現場を知ろうとしない政権幹部の奢り、国民の知る権利をないがしろにする政府の姿勢・・・
 そしてその尻馬ののって国民世論をミスリードする役割を果たしているマスゴミ。
 しかし、国民はバカではない。世論調査の結果が何よりもそれを示している。
 
 このままズルズルと落ち込んでいくと、最悪の事態を迎える可能性もないとはいえない。強力なリーダーを求める国民の願望が、ふたたびファシズムへの道を招かないとは誰にいえようか?
 いったん「空気」が醸成されると、ダムが決壊したような勢いで一気に動き出すのが日本人である。

 今回の「尖閣ビデオ流出」の件、「やむにやまれぬ」内部告発の行動そのものは賞賛したいが、国家公務員としての守秘義務違反の罪にかんしてはかなり微妙なところだろう。公開の場である裁判で、法廷の場でシロクロ決着つけるしかあるまい。うやむやにすべきではない。
 そうでないと、国民の政治不信は頂点に達するであろう。

 事の本質は中国ではない。この国の政府なのである。命を張って公務に専心している海上保安官、海上自衛官の憤懣は十二分に理解できる。
 スキを見せるからつけこまれるのである。これは国際社会というジャングルにおいては不思議でも何でもない行動だ。スキを作っているのは・・・いうまでもなかろう。
 
 もちろん、中国政府と中国そのものが一体ではないことも当然だ。中国政府と中国人も一体ではない。今回のノーベル平和賞受賞の件をみれば十分に理解できるところだ。

 ビジネスマンである私は当然のことながら実利を重んじる。
 しかし、人間には絶対に譲ってはならないものがある。何ごとも是々非々で臨まねばならない。

 この件については、いろいろ思うこともあるが、また別の機会に譲ることとしたい。


 米国密航計画が挫折し、自首したうえで国事犯として獄につながれた吉田松陰。処刑が決まって辞世の歌を詠んだ。最後に紹介して締めとしたい。


身はたとひ 武蔵の野辺に朽ちぬとも 
  留め置かまし 大和魂






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P.S. その後の「流出」海上保安官の処遇について

 結局、「尖閣ビデオ」を YouTube に流出させた海上保安官は、免職とはならずに一年間停職という処分を海上保安庁から受けることとなった。本人はすでに辞職願を提出していたので、退職となる。落としどころとしては、こんなところだろう。検察は書類送検することになっているが、起訴猶予となると見られている。

 道義的には「流出」海上保安官には、国民として私は全面賛成、しかし「情報漏洩」にかんしては職務規律違反であることは否定できない。海上保安庁の組織としての綱紀粛正の観点からいっても、落ち着くところに落ち着いたというべきである。

 本人としては、職を賭して流出に踏み切ったわけだから、公開はしても、後悔の二文字は絶対にクチにしてほしくはない。

 今後の本人の身の振り方については、道義的に正しいことをしたのだから、間違いなく誰か篤志家が身元を引き受けることとなろう。もしそうでなければ、日本人自身が義に薄い国民として軽蔑されることになる。しかるべきポジションで、生活に困らぬよう手をさしのべていただきたい。

(2010年12月22日 記)



P.S. 2 外国人記者クラブでの会見と著書について

 2011年2月14日、sengoku38 こと元海上保安官の一色正春(いっしき・まさはる)氏が、外国特派員協会で記者会見で質疑応答を行っていることを、取材中のジャーナリスト上杉隆氏のツイートでたまたま知って、Ustream にいる中継をリアルタイムで見ることができた。

 質疑応答の内容も人物も、思っていたとおり、きわめてまっとうであった。

 一色氏が本を出版することも、ツイッターの書き込みで知った。『何かのために sengoku38の告白』(一色正春、朝日新聞出版、2011)、さっそく amazon で取り寄せ、さきほど目を通してみた。
 この著書もまた、きわめてまっとうな内容であった。そうでなくても、すでに尖閣事件が風化し始めている。一色氏が著書で主張されているように、あらためてあの事件の本質が何であったのか、国民のひとりひとりが考えるべきだと思う。

 私が書いた上記のブログの文章で「自首した」とあるが、同書によれば「出頭」はしたが、「自首」したのではないと明確に否定している(P.141)。私の認識違いであり、この場を借りて修正させていただきます。(2011年2月20日) (*ブログ本文は記録性の意味があるので、修正はしないままにしてある)
 
『何かのために-sengoku38 の告白-』(一色正春、朝日新聞出版、2011) を読む-「尖閣事件」を風化させないために! を2011年2月21日にアップしたので、ご参考まで。



PS3 特定秘密保護法」が12月6日に国会で可決

とはいえ、「尖閣ビデオ」を公開した元公務員も、「特定秘密保護法」が12月6日に国会で可決しましたので、これは仮定法ですが、施行された以降に発生したのであったなら、その時の政権が何党であろうが、同種の「情報漏洩事件」は処罰されることになっていたかもしれません。

このブログ記事は、民主党が政権党であった 2010年11月11日 づけの記録としての歴史的価値(?)はあるかもしれません。  

なお、このブログ記事は、2013年12月9日に3万アクセスを越えました。

(2013年12月10日 記す)



PS4 2015年度のNHK大河ドラマは『花燃ゆ』

2015年度のNHK大河ドラマは『花燃ゆは、吉田松陰の末妹で、後に久坂玄瑞の妻となる杉文(すぎ・ふみ。のちの楫取美和子)を主人公とした大河ドラマ。松下村塾を陰から支えた女性である。吉田松陰は杉家に生まれて吉田家に養子に出て家督を継いだ人。

なお、このブログ記事は、2015年1月5日現在、すでに4万5千アクセスを越えております。

(2015年1月5日 記す)





(2012年7月3日発売の拙著です)









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