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 ドイツのワイツゼッカー元大統領が31日死去した。ドイツの大統領は政治的な実権は持たず、象徴的な存在だが、数々の演説によって元首としての重みを発揮し、国を動かした。

 1985年5月のドイツ敗戦40年の演説では「先人はドイツ人に容易ならざる遺産を残した」とし、「我々は若かろうが年をとっていようが、みな過去を受け入れなければならない」と語った。ナチス・ドイツへの関与の有無にかかわらず、国民一人ひとりが当時の非人間的行為に目を向けなければ、過ちが繰り返されるとのメッセージだった。演説は当時200万部も印刷された。国外での反響も大きく、演説は二十数カ国語に翻訳された。

 演説の5カ月後、当時の西ドイツ大統領として初めてイスラエルを訪問。ナチス・ドイツによるホロコースト(ユダヤ人大虐殺)をめぐり、イスラエル国民の間でドイツに対するわだかまりが強かった時代だ。ドイツ人の歴史的責任を強調し、イスラエル側はこれを「歴史的な出来事」と評価した。2年後のイスラエルのヘルツォク大統領による初の西独訪問につながった。

 90年の東西ドイツ統合では、国民の熱狂の中で、周辺国に「強いドイツ」復活への懸念があることを認め、欧州統合の推進力となることを誓った。

 94年に大統領を退いたが、その離任演説で「外国で自分たちがどう見られているかばかりを考えるべきではない。もっと重要なのは、鏡に映る自分たちの姿に何を見いだすか、だ」とも述べた。統一後のドイツで広がった移民排斥の動きにも懸念を深めていた。