「イスラム国」拘束:IS、強硬路線から転換か

毎日新聞 2015年01月31日 11時49分(最終更新 01月31日 14時55分)

トルコ南部アクチャカレ国境検問所から見える、シリア側の「イスラム国」(IS)支配下の村の一つ。写真右奥の高い塔は村の給水施設で、この一角の建物屋上にISの兵士とみられる一団が現れた=トルコ南部で2015年1月29日正午、大治朋子撮影
トルコ南部アクチャカレ国境検問所から見える、シリア側の「イスラム国」(IS)支配下の村の一つ。写真右奥の高い塔は村の給水施設で、この一角の建物屋上にISの兵士とみられる一団が現れた=トルコ南部で2015年1月29日正午、大治朋子撮影

 【カイロ秋山信一】イスラム過激派組織「イスラム国」(IS)にフリージャーナリストの後藤健二さん(47)が拘束された事件で、IS側は自ら設けた要求や期限を変更するなど、従来の強硬一辺倒とは異なる面を見せている。イスラム過激派の動向に詳しい専門家の間では「(IS前身組織メンバーの)サジダ・リシャウィ死刑囚の釈放にこだわっている」「世論の動向も見極めながら次の手を考えている」などの見方があるが、内部で意見対立がある可能性も指摘されている。

 ISは今回の事件で「期限」を3度設けた。今月20日の最初の声明では、後藤さんと軍事関連会社経営の湯川遥菜(はるな)さん(42)を拘束している映像を公開。2人の殺害を予告し、「72時間以内」に2億ドル(約235億円)の身代金を日本政府に要求した。

 「湯川さん殺害」を主張した24日の声明では一転して身代金の要求を撤回し、「リシャウィ死刑囚と後藤さんの身柄交換」を求めた。この時は期限を設けなかったが、27日には「あと24時間しかない」と主張。応じなければ、後藤さんとヨルダン軍パイロットのモアズ・カサスベ中尉を殺害すると脅した。

 さらに29日には「(イラク時間の)29日の日没」をリシャウィ死刑囚の引き渡し準備の期限としたが、期限経過後もISから公式の反応はない。

 こうした「期限」の引き延ばしは、脅迫通りに英米人の人質を殺害することで恐怖を与えてきた従来の手法とは明らかに異なる。声明も2度目以降は動画がなく、静止画にもIS広報部門のロゴマークが入っていなかった。英米人の人質殺害を公表した映像が高画質だったのとは対照的で、即席で作ったような印象を与えた。

 イスラム過激派の動向に詳しいエジプトの評論家、サラハ・エルディン氏はISの沈黙について「交渉が決裂してもISに失うものはない。情報を意図的に隠し、ヨルダンや日本の世論が動揺するのを狙っている」と分析する。

 一方、IS内部に知人がいるヨルダンのイスラム厳格派指導者アブ・サヤフ氏は「カサスベ中尉を巡って、脅迫通りに殺害するか、生かしておくのか意見が対立している可能性もある」と指摘する。またエジプトの元過激派メンバー、マヘル・ファルガリ氏は「沈黙はISが迷っている証拠だ。リシャウィ死刑囚の釈放を何としても実現するため、期限を延ばしてでも交渉の決裂を避けようとしている」との見方を示している。

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