飛んでくる矢を射る男の動画ここがおかしいぞ。プロが検証
弓の早撃ち名人ラース・アンダーソンの最新動画に「デタラメ言うのはやめろ!」とアーチャー界から物言いがつきました。
訳者は弓道からっきしなので必死こいて耳訳したんですが、
「あのナレーション自体がデタラメなのだ」
とアニおた兼漫画家のJim MacQuarrieさん(アーチェリー師範)はカンカンです。GeekDadに書いた長文検証記事には370件ものコメントが殺到し、元五輪選手からアマチュアまで巻き込んでの大論争になってますよ。抄訳でどうぞ。
「オランダの”アーチャー”で知る、視聴者の騙されやすさ」
「ハリウッドのアーチャーは史実と違う」という例の動画。僕のとこにも「これ本物なの?」って10人以上から回ってきた。みんなが知りたいポイントを整理すると、以下3つのカテゴリに分けられる。
①ナレーションで言ってることは本当なのか?
②技は合成映像じゃないの?
③ラース・アンダーソンの腕前はプロから見てどうよ?
まず③。スピードという意味では、アンダーソンは速い。ものすごいスピードで矢を放つことができる。ただ、見たところ20フィート(6m)以上先の的は射れないはずなのに、ナレーターは近距離で射ることがいかに重要かを語り、「戦闘アーチャーは遠くのものばかり狙ってたわけではない」とまで言って、その事実に蓋をしている気がした。何百回も失敗してやっとあの1本の動画に仕上げたんだろうね。
彼のギミックはスピードだ。精度ではない。アーチェリーに詳しい人なら誰でもわかると思うけど、彼の場合、フォームが絶え間なく変わるのでカメラのトリックも要るし、運もかなり必要だ。 そんなことはあの動画を見れば嫌でもわかる。スピードは世界一のアーチャーかもしれない。だが、精度は怪しいものだと思う。
ナレーションで言ってることは本当なのか?
もっと酷いのは解説だ。どうせアーチェリー史の知識の欠片もない人間が書いたんだろう。
「忘れ去られた技を再現した」と言うが、それは違う。忘れ去られたのではない。単にヨーロッパになかっただけのことだ。アーチェリーは人間最古の営みのひとつで、何万年も前から世界全土あまねくある。道具と技のバリエーションも広い。アンダーソンが「発見した」と喜んでる技は、アジア・中東のアーチェリーを聞きかじった人間なら誰もが知っている。元寇、チベット、ハンガリーの弓術だ。
ネイティブアメリカンの弓術の達人イシは、アンダーソンのスタイルに非常に近く、矢を弓の外につがえる西海岸北部ヤヒ族式だった。僕の友だちのPatricia Gonsalves(人気TVドラマ「Arrow」のアーチェリー指導、バンクーバーのLykopis Archeryオーナー)は今まさにその「忘れ去られた」技術が世界中で今も使われているというドキュメンタリーを製作中だ。
「背に負うクイーバーは、ハリウッド映画が作り上げた嘘」というのも嘘。昔からある。ハリウッドが生まれる何百年も前から欧州・北米中で広く使われていた。的を射るアーチャーより、狩人や伝統的アーチャーに好まれるものではあることは確かにそうだけど。
銃の登場で弓は武器からスポーツとなった。ルールができて、技は磨かれ、道具も変わった。剣がフェンシングになったのと一緒だ。弓術はスピードやトリックより、精度と距離を競うものになった。
ところがあのナレーションはどうだ。「静止状態で的を射る―こんなこと昔の人はやっていなかった」というではないか。嘘も休み休みにして欲しい。動いている敵を射るには、まずは静止した的で練習しなければならない。現代アーチェリーの的は古武術の進化したかたちなのだ。単に今は、昔の練習が最終ゴールになってしまってるという、たったそれだけのことに過ぎない。
「現代のアーチャーは矢を左につがえるが、これはたぶん、静止した的を狙うと片目になるからだろう」というのも違う。弓術の物理が全くわかってない。左につがえるのは、弓で引く時に少し左を狙っても、さまざまな物理現象が重なって右に当たってしまう、いわゆる「アーチャーのパラドックス」なるものがあるからだ。
これは映画「Brave」のスローモーションの場面を見るとよくわかる。
ご覧のように、矢はゆらゆら魚のように空を泳ぎ、左に曲がり、羽に当たる空気の空気力学で回転を始める、するとその段階で向きを変え、右に曲がる。
このシーンはラッセル・クロウ主演映画「ロビン・フッド」でプロ・アーチャーが時代考証済みの英国のロングボウで放った矢、それを高速カメラで捉えた映像から相当の手間暇かけて忠実に再現したものだ。左につがえることで、この曲がる現象は自然に補完できるのだ。それをしないと、アーチャーは意識的に左を狙わない限り真ん中には当たらない。ちなみに片目というのも嘘で、ほとんどのアーチャー、特に伝統弓術の人は、放つとき両目を開けている。
「古代の絵を見て技を学んだ」というが、アーチェリーのアの字もわからないアーティストが描いたものがなんの参考になる。その点では現代のアーティストと全く同じだ。見たまんまを何の理解もなく描くか、頭の中の想像で補うか、先人の絵をベースに間違いの上塗りを続けるのが関の山だろう。発掘した道具や骨から得た情報だったらわかるけど。
「昔のアーチェリーはもっとシンプルで、自然。あたかもボールを投げるようなものだった」とボールを投げるときのアンダーソンのへなちょこぶりを見るがよい。弓もテキトーなら、球もやっぱりテキトーなのである。
鎖帷子を射抜くなんて15ポンド(6.8kg)の弓を持たせれば10歳児にだってできる。
「今のアーチャーは全部片手だが、昔のアーチャーは両手を動かして矢に勢いをつけていた」というが、ベテラン指導者はみな両手を使えと教える。勢いは腕ではなく背筋からくるのだから。専門書を少し読めば分かる話だ。
(以下略。「クイーバーない国なんてニューギニアぐらいだ、使うのが当たり前」という話が延々。「サラセン帝国の記述のソースが怪しい」という話が延々…これは読者からLars Andersenの方が合ってると指摘あり。「剣に当てて矢が割れるシーンは地面に割れた矢を仕込んでおいて、それを拾ってるだけ、動画の継ぎ目を俺は見逃さなかったぜ」という話が延々。腹の虫が収まらないJimさん)
アンダーソンもせっかく早く撃てるんだから、専門家がいる科学、歴史、現代アーチェリーの話なんかやめて早撃ちデモだけやってれば誰にも文句は言われなかったのだ。ネットの編集者も、無批判に拡散する前に専門家に確かめないとね。
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コメント欄を見ると、「プロのやっかみ」という意見と「そういうアンタはすぐ騙されるお人好し」という意見が半々ですね。公式試合で連覇記録のある人やいろんな人からデュエルしようぜって果たし状が舞い込んでるラースさんなのでした。
source: GeekDad
(satomi)
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