年金額が16年ぶりに引き上げられることになった。

 実施は新年度から。だが、物価の伸びほど年金額は増えない。理由は、保険料を払う若い世代の減少を年金額に反映させる「マクロ経済スライド」が初めて適用されるからだ。

 この仕組みは、2004年の法改正で導入された、年金額の抑制ルールだ。物価と賃金のうち低いほうの上昇率を見て、それより下回る幅での引き上げにとどめる仕組みだ。

 年金制度は「世代間の仕送り」でもある。少子高齢化が進むなか、仕送りする側・支える側の保険料負担が重くなり続けることを避けるため、受けとる側の金額を実質目減りさせて「入りと出」のバランスを取る。制度維持のために必要な仕組みといえよう。

 しかし、これまで一度も適用されたことはなかった。物価がマイナスになるデフレが続き、「デフレ下では適用しない」という前提条件があったことなどが理由だ。このため徐々に給付水準が目減りしていく見通しは外れ、現在の給付水準は想定より高い。

 いまの高齢者への給付に将来分の原資を使っている格好で、その分、将来の水準は下がる。厚労省が昨年出した試算によると、インフレ時を想定したいまの抑制ルールを適用しても30年後に厚生年金は2割、国民年金は3割下がる。今後再びデフレが起これば、将来の給付水準はさらに低くなる。

 こうした状況を踏まえ、厚生労働省の審議会は報告書で、この仕組みによる給付水準の抑制が「極力先送りされないよう工夫することが重要」と指摘、デフレでも実施するような見直しをうながした。

 若い世代が老後を迎えたときの「生活の安心」が底上げされれば、いま保険料を支払う納得感にもつながる。

 高齢者にとって厳しい見直しになるのは確かだが、制度の維持と若い世代のために検討は必要だろう。その場合でも、低所得者への配慮は欠かせない。国民年金を実際に受け取っている額は、平均で月5万円程度。こうした人たちにも、抑制は一律に適用される。影響を少しでも和らげる手立てと一体でなければならない。

 年金額が低い人に最大で月5千円支給する制度ができてはいるものの、消費税率の10%への引き上げ先送りによって支給開始も先送りになった。こうした手立てが確実に実施されなければ、抑制ルールの見直しに対する納得は得られない。