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 捻挫や打撲、肉離れ――ラグビーなど激しくぶつかり合う競技や柔道、レスリングといった格闘技では、スポーツ外傷を未然に防ぐことは難しい。選手や指導者にとっては悩みの種だが、「気圧」と「酸素」と「時間」を適切に制御し、早期回復につなげる治療法が注目されている。

 潜水艦のような装置の中で、くつろいで座っているだけだった。東芝ラグビー部の浅原拓真が右ひざを負傷したのは6日前。タックルを受けたときにひねり、痛みがひどくなった翌朝から東芝病院(東京都品川区)に通院を始めた。

 目的は体の隅々まで酸素を行き渡らせ、腫れや痛みを和らげて回復を促進させる「高気圧酸素治療」を受けるためだ。2・8気圧の装置内で酸素マスクをつけて、計60分ほど100%の純酸素を吸う。「最初はドキドキしたけど、(気圧に対する)耳抜きができれば苦になりません」

 装置の中は「時間を早めてくれる部屋」だという。通常なら翌週の試合に出場できないほどの負傷だったが、1週間で復帰できた。「5日間で治療を3回受けて、1回目から痛みも腫れもグッと減りました。この治療がなければ、早い回復は厳しかったと思います」

 高気圧酸素治療は負傷後すぐに始めるほど効果が見込めるため、東芝病院では24時間態勢で対応している。ラグビー部は競技場から直接訪れることが多く、他競技の五輪メダリストらトップ選手も、海外遠征を終えて空港から直行することもあった。

 東芝病院では一昨年だけで約4千件の治療を行った。スポーツ外傷は、そのほとんどが自由診療(1回2万円)にもかかわらず、全体の約55%を占めた。臨床工学技士の山口信彦主任は「捻挫や打撲、肉離れ、靱帯(じんたい)損傷が多い」と話す一方で、注意も喚起する。「早期回復を実感できるため、依存症のようになった選手もいました。現在は年間に受けられる回数が制限されています」