
小太りの中年のおじさんが女性のバレエダンサーがつけるチュチュを身につけ、踊っている!!
どう見ても、変態のおじさんだ。
しかし、意外と人気者。
一体彼は何者なのか?
彼は、世界中の至る所で裸にチュチュという姿で写真を撮り続けている。
なぜ、そこまでして写真を撮るのか?
彼にはそうしなければならない理由があった。

今から29年前、ボブ・キャリーさんは大学を卒業後、地元アリゾナで写真家として働いていた。
彼は友達の紹介でリンダさんと出会った。
出会いから2年後、2人は結婚。
リンダさんは、写真家のボブさんのアシスタントとなり、公私にわたりサポート。
子宝には恵まれなかったが、いつも笑顔に溢れ、幸せな生活を送っていた。
そんなある日のこと。
アートの一環としてバレエを表現して欲しいという依頼があった。
ボブさんは依頼を引き受けたものの、これまでバレエを見たことなどなく、どうすれば良いかわからなかった。
そこでリンダさんに相談すると、「あなたのようにバレエに興味のない人でも楽しめる写真を撮れば良いのよ」とアドバイスをしてくれた。

リンダさんの言葉を聞いてボブさんにはあるアイディアが浮かんだ。
数日後、出来上がった写真をリンダさんに見せると・・・リンダさんは大笑い!!
それは、ボブさんが上半身裸になり、バレリーナのスカート、チュチュをきた姿だった。
リンダさんは、夫がスタジオにこもって真面目にこの写真を撮っていることを想像したら、じわじわと笑いがこみ上げ止まらなくなったのだ!

ボブさんが撮った写真は期せずして評判を呼んだ。
そして翌年、ボブさんは順調だったアリゾナでの仕事を捨て、ニューヨークで勝負したいとリンダさんに相談した。
リンダさんはこれに賛成し、2人は慣れ親しんだアリゾナを出てニューヨークに引っ越すことに。
当時2人は43歳、新たなる冒険に胸を躍らせた。

しかし、ニューヨークに拠点を移したものの、すぐに仕事の依頼が来るわけはなかった。
そして更なる試練が2人を襲った。
リンダさんに乳がんが見つかったのだ!!
ボブさんは異常なまでに動揺した。
彼は、乳がんに対してある恐怖心があった。
実はボブさんの母、祖母、さらには友人までもが乳がんで亡くなっていた。
彼にとって乳がんとは死の象徴だったのだ!

がん発覚から3週間後、リンダさんは乳腺切除の手術を受け、化学治療や放射線治療を受ける闘病生活が始まった。
ボブさんは死の恐怖心と戦いながら、彼女にできるだけ付き添い、懸命に看病した。
実はこの頃、仕事は未だ軌道に乗らず、リンダさんの手術代、入院費など経済的にも追い込まれていた。
だが、妻の前ではそんな辛い顔は見せず、明るく振る舞った。
そしてリンダさんも、夫に心配をかけまいと気丈に振る舞った。

その後、再発防止のため術後の経過を見ていたのだが・・・肝臓にがんが転移をしていたことが判明。
すでに末期の状態のため手術はできず、化学治療でがんの進行を遅らせるしかなかった。
リンダさんから日に日に笑顔が消えて行った。
特に副作用が強い化学治療を受ける日は、憂鬱な気持ちを隠すことができなかった。
ボブさんは、辛い治療で苦しんでいるリンダさんを見ていて、側にいても何もしてやれない自分が情けなかった。

そんなある日、ボブさんは何かを思い立った。
そして、ある写真をリンダさんに見せた。
すると・・・リンダさんは大笑い!
ボブさんが見せたもの、それは・・・昔リンダさんが笑ってくれたことを思い出し、新しく撮影した写真だった。
さらにボブさんの想いは意外な効果を生んだ。
ボブさんの写真は、リンダさんの辛い治療の何よりの助けとなった。

ボブさんはリンダさんに新作を披露し続けた。
リンダさんもその時だけは笑顔になり、闘病生活の辛さを忘れることができた。
それがボブさんにとって、何よりも嬉しかった。
しかし実際は、変質者と間違えられたり、またある時は、通報されたりもした。
それでもボブさんは写真を撮り続けた。
愛する妻の笑顔のために。
写真に写るボブさんは、側にいないリンダさんを捜しているようで、どこか切なく、その写真はリンダさんへの愛に溢れていた。

そして、末期がんを宣告されたリンダさんは・・・。
あれから8年、ボブさんのお宅を訪ねてみると、何と元気そうだ!!
がんは完治しておらず、化学治療を続けてはいるが、元気に暮らせるほどの小康状態を保っているそうだ。
ボブさんのチュチュ姿の写真は、2人に涙に明け暮れていた日々から、昔のように笑顔だった日々へと導いてくれた。
笑いを医療に取り入れているハーセブ医師によると、彼らの行動は非常に理にかなっているという。
笑うことでストレスレベルが下がり、免疫力が高まるのだという。
それを裏付けるように、病院内で落ち込んでいる他のがん患者にボブさんの写真を見せると、みんな笑顔になり、病室が笑い声に包まれた。

その様子を見ていたボブさんは、乳がん患者を支援する「Tutu PROJECT」を設立。
ボブさんのチュチュ姿を綴った写真集の収益を乳がんの治療が必要な患者のサポートのために寄付しているのだ。
プロジェクトはメディアに取り上げられ、病気を治療している人々の心の支えになっている。
ボブさんは、リンダさんの笑顔のために、病と闘う人々の笑顔のために、ピンクのチュチュを着て今日も写真を撮り続ける。

大きな話題を呼んでいるチュチュプロジェクト。
全てのきっかけは乳がんという大病からだった。
しかし、2人にとって病気は思わぬ幸せを運んで来てくれた。
それは、2人でいる時間が増えたこと。
お互いの時間を尊重しつつも、寄り添うことの大切さを実感したそうだ。