春闘 中小企業の賃上げは
1月28日 17時40分
26日に事実上スタートしたことしの春闘。大企業からなる経団連のトップは2年連続の賃金引き上げに前向きな姿勢を見せました。労働組合の連合も物価の上昇分を差し引いた実質賃金が下がっているとして、去年以上の賃上げを求めています。
賃上げの動きは中小企業にも波及するのか。社会部の榎園康一郎記者が解説します。
賃上げに慎重な中小企業
グラフは、日本商工会議所が先月(12月)行った調査の結果です。
全国の中小企業3156社のうち、ことし4月以降の1年間に「賃金を引き上げる予定」と回答した企業は33.5%。一方、「引き上げる予定はない」とした企業は19.3%でした。賃上げを予定している企業の方が多くなっています。
賃上げを検討するか
ただ、去年1月に行った同じ調査と比べると、「引き上げる予定」と回答した企業は6.4ポイント減り、「予定はない」とした企業は2.5ポイント増えています。中小企業は、去年に比べて賃上げに慎重になっていることがうかがえます。
「賃金を引き上げる予定」とした企業でも、従業員全体の基本給を引き上げるベースアップを行うとした企業は22.7%、回答した企業全体の7.6%にとどまりました。
主に大企業の労働組合が加盟する連合は、ことしの春闘で「ベースアップ」に相当する賃上げの要求を2年連続で掲げていますが、この調査結果を見るかぎり、多くの中小企業で実現するのは厳しい状況です。
見通せない景気の先行き
中小企業は、なぜ賃上げやベースアップに慎重なのか。
東京と大阪に本社がある建築会社は、景気の動向が不透明だということを理由に挙げました。
この会社は、建築物の内装や外装工事のほか設計などを手がけています。東日本大震災の復興や耐震化工事の受注が増え、業績は好調だと言います。5年後の2020年には、東京オリンピック・パラリンピックを控え、今、会社の経営に不安はありません。この春、賃上げを行う予定にしています。
ただ、ベースアップについては慎重に判断したいとしています。この会社の社員は約200人。全員の基本給を引き上げるベースアップを一度行うと、次の年以降も人件費の負担が続くうえ、退職金などの額も増えることになります。会社では、今は景気がよくても、オリンピックが終わったあと業績が維持できるか見通せないと考えています。
この会社の社長は「消費増税や物価の上昇で、社員の給料が実質的に目減りしているので対応したい」とする一方、「リーマンショック以降、低迷していた業績は回復しているが、絶好調とまでは言えない状況で、人件費の総額を増やすベースアップについては慎重に考えたい」と話していました。
ベースアップの理由は
一方、ベースアップに相当する賃上げを思い切って行おうと考えている会社もあります。
名古屋市にある水道や空調の設備工事会社では、若手社員の基本給を一律に引き上げることを検討しています。
この会社は、決して業績が順調なわけではありません。景気の回復に伴い、売上は増えていますが、原材料費や請け負いの人件費が高騰しているため、利益は伸びていないと言います。
それでも賃上げを行うのは、人材の確保が難しくなっているからです。従業員約80人のこの会社では、毎年5人ずつ新入社員を採用して人材を確保してきましたが、この春、入社予定の内定者は3人にとどまりました。
その理由について、会社では、初任給が大手企業より低いことが影響していると考えました。月額20数万円の大手企業と比べると、この会社の初任給は19万円台と見劣りします。人材確保のためには、初任給を含む若手社員の給料を引き上げる必要が出てきたのです。中高年の給料を抑えて、20代から30代の社員にベースアップに相当する賃上げを行うことを検討しています。
この会社の社長は「会社を取り巻く環境はまだまだ厳しいが、会社の将来を担う人材を確保するため若い人たちの賃上げをまずは行いたい」と話していました。
ベアの理由は人材確保
日本商工会議所が行った調査でも、ベースアップを行う理由として、人材確保を挙げた企業が多くなっています。
ベースアップを行うとした企業に複数回答で尋ねたところ、「人材の定着やモチベーション向上を図るため」が70.3%と最も多くなりました。次いで、「業績が改善しているため」が26.7%、「物価が上昇しているため」が22.8%などとなっています。
ベアを実施する理由(複数回答)
日本商工会議所の荒井恒一理事は、今回の調査結果について、次のように分析しています。
原材料費や人手不足による人件費の高騰など、中小企業を取り巻く足元の環境は厳しいため、賃上げに慎重な企業が増えたのではないか。一方、少子高齢化などの影響で人材を確保できない企業も少なくなく、積極的に賃上げを行いたいという企業も出てきているのではないだろうか。
賃上げは中小企業に広がるか
去年の消費増税や円安の影響もあり、賃金は物価の上昇に追いついていません。
ことしの春闘で、労働者側は生活のための賃金引き上げ、中でもベースアップを強く求めています。大手企業では、業績が好調な輸出関連企業を中心に賃上げに前向きな企業もあるなか、賃上げが中小企業にどこまで広がるのか、取材を続けたいと思います。