原油の値下がりが急だ。国際指標となっている油種でみると、昨年夏の水準から半値以下になった。

 石油輸出国機構(OPEC)の減産見送りや米国のシェールガス生産で供給が潤沢な一方、中国、欧州経済のもたつきで需要は盛り上がりを欠く。このことが根本にある。

 原油安は、ガソリン価格の値下がりにつながった。火力発電の主な燃料である液化天然ガス(LNG)の相場も原油と連動しており、恩恵はさらに広がりそうだ。昨年1年間で12兆円超、1カ月あたり1兆円の赤字に悪化した貿易収支も、今後好転するとの見方が有力だ。

 東日本大震災で国内の原子力発電が止まり、火力発電を増やすためにLNGの輸入が膨らんだことを受けて、政官界や経済界から「国富の流出は年間3・6兆円に達する」と危惧する声が相次いだ。この金額は輸入量の増加のほかLNG相場の上昇や円安が進んだ影響も含んでいたが、わが国経済に負の影響をもたらしたことは確かだ。

 その逆の現象が、足元で起きている。円安は引き続き海外への支払額を膨らませるが、原油・LNG値下がりの効果は大きい。メリットが本格化する時期や幅にはさまざまな見方があるが、「年間数兆円」とはじく民間調査機関もある。

 それだけ国全体の消費や投資の余力は増す。予定外の減税を実施したようなものだ。政財官界で、このプラス効果への注目がかつての「国富流出」危機ほどに高まっていないように映るのはなぜだろう。政策や経営にしっかり織り込んでほしい。

 まずは財政政策である。今年度の補正予算案には、中小の運輸業者や漁業者らへの補助金が手厚く盛り込まれた。予算編成が最新の状況より遅れがちになるのはやむをえないが、この春の統一地方選を意識した思惑からか、原油の急落を踏まえようとする姿勢は乏しかった。

 日本銀行の金融政策は、2%の物価上昇を目標とする。原油安はその妨げとなるが、消費者や企業経営者の心理は明るさが増している。それを生かす柔軟な対応が大切だろう。

 商社や石油元売りは原油安で損失を抱えがちだが、経済全体ではメリットは大きい。輸出型製造業には円安の追い風も続いており、企業の収益は押し上げられそうだ。

 株主への配当を増やすだけでなく、従業員に賃上げで報いる余地は広がる。取引先や地域社会も含めて幅広く目配りすることが、企業には求められる。