ビッグ・アイズBIG EYES/監督:ティム・バートン/2014年/アメリカ
監督名を知らずに見たら、ティム・バートン作品だと気づかなかったと思います。
ユナイテッド・シネマとしまえん スクリーン5、F-13で鑑賞。事前情報はクリストフ・ヴァルツが出ていることと、ポスターくらいでした。
あらすじ:奥さんが描いた絵を旦那が売ってた。
バツイチ子持ちのマーガレット(エイミー・アダムス)は、人当たりが良い画家ウォルター(クリストフ・ヴァルツ)と一緒に、絵を描いて売ります。
※ネタバレはありません。予告やポスターがとても情報を制限しているので、それらからわかること以上については書いていますが、ストーリーそのものにはあまり触れていません。
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ポイント - 実話ベースであることを差っ引いても、今までのティム・バートン作品とは、まったく雰囲気が違いました。色使いは「ビッグ・フィッシュ」に似ていると思います。
冒頭のワンカットだけ「シザーハンズ」みたいな絵があったので、ティム・バートンの中では、幸せで平凡な小さな町のようすって、こういうイメージなんだなーとか思いながら見続けていたら、あれれ、今までと全然違う作風だな、これはティム・バートン新境地突入か? と思いましたが、そういえば「ビートル・ジュース」続編やるとか言ってましたね。
思い返してみると、ティム・バートンが『大人の女性』を主人公として描くのは初めてなのではないかな。
この夫婦のあり方は、モラルハラスメントなんですね。仕事のない女は離婚が出来なかったとか、女性は男性より下に見られているのが当たり前であったような時代ですので、今の時代と比べることは難しいとは思います。
ウォルターはマーガレットを家に閉じ込め、他者との関わりを断たせ、発言権を奪い、息をするように嘘をつき、子供を利用し、自分たちの生活のためだという理由を掲げて、彼女を追い詰めていきます。
モラルハラスメント加害者は最初はとても優しく、相手の同情を引こうとする。ウォルターはマーガレットに対してとてもロマンチックな行動を取っていたり、自分は絵描きになりたかった、本当の自分の仕事を知られたくなかった、などと言います。
そして加害者は外面の良い人が多いんですね。ウォルターも外面が大変良い。ゆえに自分が描いたと偽って絵を売る能力には長けている。
マーガレットはウォルターに反発することが出来ず、彼の言うとおりに絵を描き続けるしかなかった。最初のほうこそ、ウソをつくのはやめて欲しいとは言っていますが、それもままならなくなっていく。
自分には力がない、彼がいなければ生きていかれない状況に追い込まれた。彼女が『自分の子供』だとすら感じている大切な絵を搾取されているにも関わらず。
ウォルターが『お前がこんな絵を描いたから批判された』などと責めるシーンは、特にモラルハラスメント加害者の特徴が出ていると思います。
マーガレットがこっそり描いた絵は、彼の束縛により自我が保てなくなっていることから身を守ろうとする行為であったため、ウォルターから隠そうとした。
結局その後、起きた出来事により、やはり自分は彼がいなくては何も出来ない人間だと痛感させられる結果となってしまった。最悪の出来事が起きるまで、彼女は逃げられなかったのです。
少し映画と離れて、夫婦間、恋人間においてのモラルハラスメントについてわたしが思う話をします。
モラルハラスメントは非常に複雑で闇が深く、こういう言動をとったらそれはモラルハラスメントになります、と一般化するのはとても難しいと思っています。加害者は自分がモラルハラスメントを行っているという自覚がない(わざとやっているわけではない)、他者から見たらほんとうに些細なことであるため理解されにくい、日常生活の中でほんの少しずつ現れる、相性が悪いだけだと感じている、継続的に行われているわけではない(DVのハネムーン期みたいなもの)があったりするからです。
典型的な特徴として挙げられるものとしては上に書いたウォルターの言動だと思いますが、こういうモラルハラスメント以外にも、相手を完全に無視する、他者を巻き込む、また、モラルハラスメントというものがあることを知っている相手に対し『あなたはわたしを追い詰めて人格を否定している、あなたは加害者だ、その証拠にこういう言動を取った、わたしは傷ついている』と被害者を装うタイプの加害者もいると思います。
最初はうまくいっていた関係が徐々に変化していき、険悪になるようなことは珍しくないですので、いくつかある特徴の一部分だけを切り取ってモラルハラスメントだと断定することや、被害者側が『これはモラルハラスメントだ』と主張する相手の言動が即モラルハラスメントであると断定するのは危険だなとは思います。
また、被害者側が自分の置かれている状況に納得してしまっている、共依存的になっている場合もあるため、それでお互いの関係が無理なく成立しているのであれば、他者が口を挟むことは出来ません。
話を映画に戻します。
結局、ウォルターはどういう人間だったのか、金儲けと自己顕示欲の塊のように思えるけれども、あるいは本当に画家になりたかったのかもしれない、とも思うのです。そして、自分に才能がないこともわかっていた。
わたしは人形を作るので自分の基準で考えると、他人が作った人形を自作だと偽ったり作風を真似たりして賞賛されても嬉しくはないどころか惨めな気持ちしか残らないだろうと思うのですが、ウォルターには、それはまったくないんですよね。
最後の最後まで彼が守ろうとしていたものは、いったい、なんだったのでしょう。
印象的だなと思ったのは、スーパーでマーガレットがカゴに入れるの、キャンベルのスープ缶なんですよね。
冒頭にアンディ・ウォーホルの言葉が入っていたことと関わりがあるように思えました。
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