(猪の鳴き声)
(鳴き声)フフフ駄目よ〜。
(作右衛門)こ…こ…これは…日下部様何事で?キャ〜!
(日下部源五)お前へ嫁にやった蕗返してもらうぞ。
蕗!帰るぞ。
(蕗)旦那様…。
自慢じゃないがの蕗。
…はい。
わしは昔から男を見る目がない。
すまんかった。
(伊藤重輔)将監様。
毎度申し上げておりますがなぜお駕籠を使われませぬ。
たかが茶会に大げさじゃ。
しかし月ヶ瀬藩6万5,000石のご家老様が。
フフフフフ…。
ハハハハハハ…。
待てい!待てい!ご家老に無礼であろう。
捨て置け重輔。
はっ。
フン。
日下部源五殿ですよあなた。
ああ。
猪臭いやつじゃ。
まずは風呂に入って休め。
食事の支度もさせてある。
ありがとうございます旦那様。
礼など言うなと何度言わせるんだ蕗。
ほっとする匂いです。
家の匂いです。
当たり前だ。
7つの時からここはお前の家だ。
(次郎作)お帰りなさいませ旦那様。
ああ。
蕗だ。
お前と入れ代わりに来た下働きの次郎作だ。
よろしくお願い致します。
奥様。
あ…私は…。
奥様じゃなくて娘だ。
どうした?次郎作。
きれいな人ですね。
(たつ)参りませぬ。
やはり方角が悪うございます。
(津田伊織)たつ。
今更何を言いだすのだ。
わし一人であの舅に会えと言うのか。
私のおらぬ方が父上も話しやすいかと。
そなた一人で行かれませ。
参ったな。
(せきばらい)ごめん!父上はおられるか?あ津田様。
はい。
ただいま戻られました。
津田様お久しゅうございます。
蕗か。
お前嫁に行ったはずでは。
恥ずかしながら…。
おお!お久しゅうございます。
近くに住んでおりながら何かとバタバタ忙しく不義理を重ねて面目次第も…。
用件は何だ?婿殿。
見てのとおり薪割りの途中だ。
されば…。
父上はご家老松浦将監様と竹馬の友であったというはまことでございましょうか。
回想面を上げよ。
(伊織)まさかでございますなあ。
あ…いや…あの…。
では拙者はこれにて。
当節何かとバタバタでございまして。
お邪魔致しました。
40年も前の話じゃ。
はい?40年前と言った。
回想や〜っ!や〜っ!えいっ!やっ!参った!
(磯貝駒右衛門)源五参れ。
はい。
(駒右衛門)こちらが先の江戸屋敷側用人岡本弥一郎様の奥方千鶴様と弥一郎様が一子小弥太殿だ。
岡本小弥太と申します。
(駒右衛門)小弥太殿の叔父上は我が月ヶ瀬藩随一の剣客飛燕斬りの藤森吉四郎殿なのだぞ源五。
(駒右衛門)こら源五返事をせぬか!日下部源五にござる。
挨拶は立ち合い稽古で。
(駒右衛門)源五!まあ勇ましい剣士様。
はい。
始め!や〜!や〜!や〜!や〜!や〜っ!うお〜っ!くそっ!こら源五!やめんかこら!くそっ!やめい!どうじゃ!苦し紛れに首をひねるとは何事!これは剣術だぞ!参りました。
大丈夫か?かたじけない。
これが実戦なら私は首をかかれていました。
私の負けです源五殿。
いや…。
源五殿は剣術がお好きなんですね。
おう。
剣には上士下士の違いはない。
たとえ下士でも強ければ上に立てる。
俺は将来剣で身を立てる所存だ。
将来…。
あ小弥太殿は…。
あ〜もう小弥太でよいな。
小弥太もなかなかの腕前だが将来何で身を立てる?私は…私の将来は…父の無念を晴らさぬ限りないのです。
何をする無礼者!
(十蔵)往来の真ん中で急に止まったのはそっちだ。
何!わしは笹原村の十蔵だ。
十蔵の十で十文。
俺は日下部源五。
源五の五で五文だ。
私は岡本小弥太。
小弥太のヤで八文だ。
小弥太。
高くしてどうする。
いやしかし十蔵にも暮らしというものが…。
あ母上。
遅かったのね小弥太。
源五殿。
小弥太を送って下さったのですね。
ありがとう。
そなたは?え?まあ!立派な鰻。
源五殿が私の入門祝いだと買って下さって。
黙れ小弥太!ありがとうございます源五殿。
見てのとおりの暮らしにて鰻はごちそう。
早速さばいて焼きましょう。
源五殿も召し上がって。
そなたも。
わしは百姓だから…百姓ですから…。
何だ急に。
しおらしくなりおって。
でも友達なんでしょ?
(小弥太源五)はい。
笹原村の十蔵と申します。
小弥太の母です。
よろしく。
(藤森吉四郎)おや今日は随分とにぎやかですね姉上。
(千鶴)吉四郎殿。
まあそちらも見事な柿!うまそう!食いてえ!松浦兵右衛門様に小弥太の後ろ盾を?
(吉四郎)はい。
松浦様はかつてあのお方と争って失脚されたお方。
なれば兄上の忘れ形見の小弥太の事決して無下にはなされますまい。
吉四郎殿…。
あの男の手が小弥太にも伸びると?藤森吉四郎。
飛燕斬りの剣客だぞ。
すげえ!飛燕斬り?うん。
「飛ぶ燕」と書いて飛燕だ。
燕のように身を翻し敵の刀を受ける事なく懐に潜って斬る。
月ヶ瀬一の剣客だぞ。
おっ。
鰻の焼けるいい匂いがしてきた。
それで?続きは厠のあとだ。
(ため息)やはり変人じゃ。
回想失礼致します。
お客様が…。
客?ご近習頭の鷲巣角兵衛様とおっしゃるお方が。
(足音)
(兵右衛門)お〜久しぶりじゃのう鷲巣。
江戸屋敷以来何年ぶりかの。
そなたが岡本弥一郎の息子小弥太か。
…はい。
吉原帰りに辻斬りに斬られて死んだ先の側用人岡本弥一郎が一子か。
はい。
吉原通いの金は弥一郎に取り入っておった出入り商人からの賄賂と聞く。
これぞ天罰じゃなあ。
小弥太。
はい。
鷲巣。
いきなり何事じゃ。
(鷲巣)松浦殿は風流人。
七弦琴を習うを口実にそなた松浦殿に取り入る腹か。
その先に何を見ておる。
いかに!岡本小弥太!お教え身にしみてございます。
フン。
挨拶のしかたは知ってると見えるな。
知らぬは貴殿だ!貴殿?源五やめろ。
先ほどからなぜ小弥太ばかりなぶる?大体他家に上がるなら腰の物を預けるのが礼儀だ。
物を知らぬにも程がござろう。
何!?小弥太ともどもそこに直れ!無礼の段お許しを。
お主…。
藤森吉四郎と申す。
無礼の段平に。
松浦殿。
岡本弥一郎の息子を近づけておるともしあのお方の耳に入れば次は隠居では済みませぬぞ。
相分かった。
年寄りを脅しに来たか。
ハハッ恐ろしや恐ろしや。
松浦様。
あのお方って誰ですか?
(剣術の稽古の音)や〜っ!強い…。
や〜っ!やめい!まだまだ!や〜っ!やめい!まだまだ…。
私が。
構わぬ。
2人してかかってまいれ。
そのような事当貫心流には…。
稽古と実戦は違う。
江戸仕込みの直心影流におじけづいたか。
よし。
や〜!や〜!や〜っ!や〜っ!そこまで!竜の牙竜牙という技じゃ。
これからは気を付けて物を言う事だ。
(十蔵)しゃべるな。
吉四郎様が来てくれた。
今千鶴様とお話しされている。
源五も無事だ。
安心しろ。
命に別状はない。
小弥太侍が泣くな!百姓のわしが泣いてやる。
お前は泣くな。
(吉四郎)稽古にかこつけての意趣返しです。
卑怯な。
また何を仕掛けてくるか…。
いっそ鷲巣を斬ります。
なりませぬ!ここで騒いで鷲巣を斬ればあの男の思うつぼ。
吉四郎殿我慢を。
しかし兄上の上に万が一小弥太まで斬られては…。
小弥太は私が斬らせませぬ。
(生け花を切る音)母上もよく花を生けておられた。
まだ幼い頃わしは母上に尋ねた。
「花は咲いたままで美しいのになぜわざわざハサミを入れるのか」。
母上は答えられた。
「花は本来美しいが更なる美は花の中にある。
その美を引き出すためには切らねばならぬものがある」とな。
母上はおっしゃった。
回想花の美しさは形にあり人の美しさは覚悟と心映えです。
(みつ)お母上は確かあなたがまだ14の時に…。
祇園神社の祭りの日に…。
回想
(祭り囃子)
(源五小弥太十蔵の話し声)母上。
母…。
母上…。
私はゆうべ城中で殿居で…今ここに顔を出したら…既に自害しておられた。
恐らくお前たちを祭り見物に送り出した後覚悟の…。
母上…なぜです…母上!控えよ小弥太!立派なご最期。
うろたえてはならぬ。
遺書には「故あっての事」とだけあった。
詮索は無用とのお心。
ならば詮索はするな。
見たんだ。
何を?ゆうべ中川に鰻の仕掛けを沈めに行ったら…小舟に乗った千鶴様が…潮見閣へ渡っていかれた。
潮見閣へ?潮見閣ってご家老様の別宅だろう?どうして…。
・
(鷲巣)そのてんまつ聞かせてやろうか岡本小弥太。
何をしに来た!出ていけ!千鶴殿はゆうべ潮見閣にて殿月ヶ瀬藩藩主浅川伊賀守様の夜伽をしたのじゃ。
岡本の家のお取り潰しを逃れるため殿に懇願し抱かれたのじゃ。
商売女のようにの。
聞くな小弥太!でたらめを言うな!
(鷲巣)弔問客に無礼な。
その方らまとめて無礼討ちだ!・
(兵右衛門)黙らっしゃい!鷲巣角兵衛。
死者の名誉を汚しその枕元で刀を抜くとはなんたる無法。
あの男そこまでお前に命じたか。
ご老体口を慎め!ほ〜う。
近習頭風情がわしを。
老いたるとはいえ元勘定奉行松浦兵右衛門を女の通夜の席で斬るか。
よかろう!斬れ!されば家中のお偉方ももはや見ぬふりはできまい。
あの男が奸計をもって小弥太の父を闇討ちにした事も明るみに出よう。
松浦様!あの男とは誰です?月ヶ瀬藩家老九鬼夕斎だ。
フフフフフフフフ…。
九鬼様が…。
何をたわけた事を!
(兵右衛門)さあ斬れ!この老い首で月ヶ瀬藩獅子身中の虫九鬼夕斎を葬れるのだ。
さあ斬れ。
斬らぬか若造!松浦様。
九鬼様が小弥太の父上を闇討ちとは…。
勘定奉行のわしと普請奉行の九鬼夕斎は藩の財政立て直しの策で対立しておった。
九鬼夕斎はこそこそと殿に取り入りあれよあれよと家老の座に上りついた。
政はあっという間に九鬼夕斎の手に落ちた。
九鬼夕斎がの殿に取り入った手口は卑劣のひと言。
家臣の妻を殿に献上させておったのじゃ。
夕斎は側用人弥一郎にも踏み絵を踏ませた。
妻千鶴を殿に献上せよと命じた。
弥一郎は夕斎の命を蹴りわしについた。
弥一郎は夕斎の奸計をことごとく知っておる。
夕斎は刺客を送り弥一郎の口を封じた。
切り口は直心影流。
月ヶ瀬藩江戸屋敷で直心影流の使い手はただ一人。
父上を斬ったのは…鷲巣角兵衛…。
(兵右衛門)吉原帰りの辻斬りではなかったのじゃよ。
家中のお偉方はみんな知っておる。
だが夕斎の権勢を恐れそのように処理した。
千鶴はお前を守るために…。
松浦様!お目付様に仇討ちを願い出とうございまする。
ならぬ!なぜです?九鬼夕斎は鷲巣を使ってお前を返り討ちにし岡本家を潰す腹なのじゃ。
(兵右衛門)ここは耐えるのじゃ小弥太。
お〜!星がきれいだ。
おう。
今夜は天の川がくっきりだ。
漢語では銀漢というんだ。
銀漢?「暮雲収め尽くして清寒溢れ銀漢声無く玉盤を転ず」。
銀は金銀の銀漢は男。
しかし天の川を指す場合の漢は大きな川という意味になる。
天の大きな川…。
銀漢…。
私は…銀漢でありたい。
鷲巣は一人じゃ討てぬ。
助太刀致す。
え…?人は覚悟と心映えだ。
お前のお母上の口癖だ。
まして俺たちは武士だ。
小弥太。
俺も銀漢でありたい。
源五。
気持ちはありがたいが助太刀はいらぬ。
鷲巣を斬れば日下部の家はお取り潰しになるぞ。
フン。
鷲巣を斬ったあとの事はそれから考えればいい。
百姓は銀漢にはなれんのか。
百姓は…武士を斬ってはならん。
十蔵は私たちを見届けてくれ。
そうじゃ小弥太。
頼む十蔵。
しっかり見届けろ。
侍じゃないのが初めて悔しい。
果たし状とはしゃれたまねを。
鷲巣角兵衛!父の仇。
覚悟!え〜いっ!えいっ!えいっ!小弥太!日下部源五義によって岡本小弥太の助太刀を致す。
えいっ!えいっ!げ…源五…。
どうした。
2人してかかってまいれ。
なぶり殺しか!卑怯者!百姓今何と言った!卑怯者と言った。
百姓。
叔父上!松浦様から通夜の事聞いた。
お主らあっぱれ!小弥太よく聞け。
通夜の夜に鷲巣が言った事は全てでたらめ!姉上はな殿に貸しを作るために潮見閣へ行かれたのだ。
貸し?貸しとは何です?殿は姉上にご執心で九鬼夕斎に矢の催促。
それを逆手に取り姉上は自ら潮見閣に渡りお忍びで来た殿にお前の命乞いをされた。
しかし殿のおぼし召しには従わず操を保ってきっぱり自害。
ハハハ。
ふられた殿はいい面の皮だ!しかもその事遺書には伏せた。
姉上は殿に貸しを作らせたのだ。
千鶴殿あっぱれ!その殿への貸しを己がしゃべって今帳消しにした!飛燕斬りか…。
竜牙だ。
吉四郎様切っ先が喉を!刀が見えねば間合いは計れまい。
竜牙…見切った!やった!やった!叔父上何をなさいます!鷲巣を斬った以上後が面倒だ。
姉上が殿に作らせた貸しも守らねばな。
叔父上!お上には私と鷲巣が剣の事で争い決闘したと届け出よ。
嫌だ…嫌だ。
死なないで!小弥太!お前は力を蓄え家老九鬼夕斎を倒せ。
それがお前の一生の務め!叔父上…。
あ〜っ!あ〜っ!介錯を…。
小弥太…。
小弥太!小弥太。
介錯を…。
介錯を!あ〜っ!
(伊織)父上。
おう!まだいたのか婿殿。
まだって…。
そうか。
ではここで話を聞こう。
されば…。
ご家老松浦将監様と父上が竹馬の友でいらっしゃるのを見込んで…。
今は絶交しておる。
ならばなおの事好都合。
将監様が我が月ヶ瀬藩家老になられてはや20年になられまするが…。
だから何だ?
(伊織)このままでは我が藩は滅びまする。
家中は今将監討つべしの声で固まりつつあります。
いっそ闇討ちにとの声もございまするがさるお方が暗殺はならぬと。
婿殿。
お主の話はまどろっこしい。
さればご家老松浦将監様を斬って頂けませぬか。
小弥太を…?
(伊織)私怨をもって将監様を斬って頂ければ父上の娘婿が出世の船に一番乗りにございまする。
回想十蔵!十蔵!分かった。
え…?あ…今ものすごくあっさりと何と?分かった。
将監を斬ったあとわしも腹を切る。
やつは出世のために無二の友を殺した。
いまだご親戚の中には松浦将監を重んじるお方もござりますれば…。
誰に頼まれた?わしも間もなく逆臣と呼ばれるかもしれぬ。
・「遥かなり時代に」・「想いを馳せれば」・「お前との日々が」・「嗚呼〜いちばん」・「呼び捨てあう仲でも」・「互いに気づかい」・「大事な事さえ」・「嗚呼〜伝えず」・「時が呼びあい」・「今を呼ぶ」・「夕映えに燃ゆる」・「漢ありて」2015/01/21(水) 03:13〜03:56
NHK総合1・神戸
木曜時代劇 風の峠〜銀漢の賦〜(1)[新]<全6回>「仇討(あだう)ち」[解][字][再]
月ヶ瀬藩の郡方見廻り役・日下部源五(中村雅俊)の元を娘婿の津田伊織(池田鉄洋)が訪れ、かつての源五の親友で、現家老の松浦将監(柴田恭兵)暗殺を持ちかける…。
詳細情報
番組内容
月ヶ瀬藩の郡方見まわり役・日下部源五(中村雅俊)の元を娘婿の津田伊織(池田鉄洋)が訪れ、源五が家老の松浦将監(柴田恭兵)と幼なじみというのは本当か探りを入れる。四十年前、まだ元服前に知り合った二人は将監の親のあだ討ちを共に挑んだほど固い友情で結ばれていたが、日下部家で下働きをする蕗(桜庭ななみ)の父十蔵(高橋和也)を巡って対立し、今では絶交状態となっていた。そんな源五に伊織は将監暗殺を持ちかける。
出演者
【出演】中村雅俊,桜庭ななみ,中村獅童,池田鉄洋,吉田羊,平岳大,高橋和也,麻生祐未,柴田恭兵,渡辺大,中村ゆり,田中偉登,大八木凱人,鏑木海智,真実一路,山村憲之介,山崎光,堀内正美,竹井亮介ほか
原作・脚本
【原作】葉室麟,【脚本】森下直
音楽
【音楽】小六禮次郎
ジャンル :
ドラマ – 時代劇
ドラマ – 国内ドラマ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
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