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子供に十字架を背負わせる「キラキラネーム」命名辞典
■ふるいにかけられる

「筆記試験と面接の出来が同じ程度の受験生が2人いた場合、キラキラネームの人は敬遠されがちです。今、学校にとって大きな問題がイジメです。キラキラネームはからかいの原因になりやすく、高じてイジメにつながる可能性がある。それに、キラキラネームを付ける親御さんには、モンスターペアレントなのではないかという予断を持ってしまうんです」

 と言うのは、私立中学で長年、入試を担当してきたベテラン教諭。キラキラネームの“被害者”には、こんなケースもある。

「小学校の同級生の女子のことなんですが……」

 と述懐するのは、神奈川県内の私立高校に通う男子生徒だ。ちなみに、彼の名前は日本的でオーソドックスなものである。

「彼女のご両親は、子供が世界を股にかけて活躍することを願って、ヨーロッパのある都市と同じ名前を付けたんです」

 橋本聖子参議院議員が次男を朱李埜(とりの)と名付けたのは記憶に新しいが、これに似たパターンの名前だ。男子生徒がつづける。

「その名前は、たしかに文法的には女性名詞ですが、そんな名前を付ける両親だからやっぱり独りよがりで、娘が小学校に入ると“学校がやることはくだらない”“先生がダメだ”などと言いつづけた結果、娘は不登校になってしまった。その後、無理矢理海外へ留学させられましたが、ひっそりと帰国し、それ以来、自宅にひきこもっているようです。噂では、海外でも名前をからかわれたとか」

 親の独りよがりの、なんと罪作りであることか。

“被害”に遭わずに成人することができても、その後にも関門が待ち受けている。就職活動でも、キラキラネームは思わぬ事態を招いているというのだ。人材研究所の曽和利光社長は、

「採用の現場では、学生の名前に直接的に言及することはできません。厚生労働省の“公正な採用選考に関するガイドライン”があり、コンプライアンスの面からも、名前のように本人の適性などと無関係のことについては、質問しないことが徹底されています」

 と言うが、あくまでもそれは建て前の話。

「正直なところ、大手企業の就職活動で、ある程度の段階まで残っている学生さんの中に、キラキラネームをお持ちの方を見た記憶はほとんどありません」

 と語るのは、大手企業の人事に長年かかわってきたコンサルタントの男性だ。

「世の中にこれだけキラキラネームがあふれているのに、何回もの面接を潜り抜けてきた学生さんに、そうした名前がほとんど見当たらないのは、それ以前の段階でふるいにかけられてしまったということです。企業は、その名前も、それを付けた家庭環境も気にしているわけです」

 それでもなお、キラキラネームの持ち主が内定を勝ち得た時には、

「それとなく命名の由来を探りますね。やはり、突飛な名前の持ち主に対しては、“この人は大丈夫なのだろうか”というバイアスはかかりますよ」(同)

 また、先の牧野氏は、こんな弊害も起こりうると予測する。日本の司法システムにまで影響をおよぼすという話である。

「変な名前を付けられてしまったお子さんが取れる最後の手段は、裁判所に申請して改名することです。家庭裁判所に“正当事由”と呼ばれる理由と希望する名を書き込んだ『名の変更許可申立書』を提出して、受理されれば改名できます。これだけキラキラネームが増えると、将来的にこうした申請は激増することが予想されます。ところが、家庭裁判所は全国に50カ所しかありません。たくさんの申請に裁判所が対応しきれるかどうか。パンクしてしまうでしょうね」

 キラキラネームは、もはや個人の問題にはとどまらず、社会システムすらも揺るがしかねないようだ。

■個性を求めすぎる代償

 一方で、自らのキラキラネームを前向きにとらえている青年もいる。

「僕の名前は“夢有人”と書いて“むうと”と読みます。変わった名前だとは思いますが、これといって困ったことはないですよ」

 こう語る夢有人くんは現在、首都圏の有名私立大学に通いながら、アルバイトに勤(いそ)しんでいる。

「学校でも職場でも、たしかに読み方がわからないと聞かれることはありますが、そこから会話が広がるんですよ。“一体どういう意味なの”と由来を問われれば、夢のある人になってほしいという親の思いだ、と説明しています。珍しい名前だから忘れられることもないし、僕は、この名前でよかったと思っていますよ」

 だが、もとより名前は、共同体の中で個人を識別する社会的役割を担っている。狭いコミュニティの中では、その珍しさで利することもあるかもしれないが、

「特殊な名前のせいで、救急搬送先で患者の取り違えが起こる可能性もあります。名前が読めずに、緊急を要する際に時間を浪費することも想像できます」

 と、牧野氏。全国紙の警察担当記者も言う。

「最近は警察関係者も困惑しています。被害者や加害者の名前を常識的に読んだら、実際には全然違う読み方だったなんてことが頻発しているんです。捜査段階で読み違えが起これば、重大なミスにつながりかねない。記者にこぼす警察関係者も少なくないですよ」

 なにしろ、精飛愛(せぴあ)、麻楽(まら)、苺苺苺(みるきー)なんていう名が跋扈する世の中である。もちろん、名付けられた子供たちに罪はない。問題は名付けた親たちだ。ふたたび牧野氏が語る。

「名付けの相談を受けてきてよくわかったのは、キラキラネームを付けたがるのは、いたって大人しい人たちばかりだということなんです。おそらく学校でも会社でも目立たないし、集団の中で突出しない人たち。“優等生的グループ”として一括りにされることで生き抜いてきて、それがコンプレックスにもなっている。そのために個性を求めすぎて、子供に奇妙な名前を付けてしまうんです」

 キラキラネームといえば、いわゆるヤンキーの専売特許のように思われがちだか、意外にも、そうではないというのだ。もっとも、

「ヤンキーも根は同じです。突出しないで群れる。それが優等生の方向に向いたか、逆を向いたか、という違いに過ぎません」(同)

 親たちの、痛々しいまでの「個性願望」。その果てに多くのキラキラネームは生まれている。

 だが、その結果、なんら責任がない子供たちが不利益をこうむり、社会システムにも影響を及ぼしかねない状況である以上、人名漢字の読み方に、今こそ規制を設けるべきではないのか。

 それを野放しにしているのは、国家の怠慢の誹(そし)りをまぬかれないだろう。

 ノンフィクション・ライター 白石 新

「特別読物 子供に十字架を背負わせる『キラキラネーム』命名辞典」より
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