JR九州の株式を16年度にも上場すると政府が発表した。87年の旧国鉄の分割・民営化の後、JRの株式上場は97年の東海に次いで約20年ぶり、4社目だ。JR北海道、四国とともに、赤字ローカル線の維持を支援する補助金「経営安定基金」を政府からもらってきた「3島会社」では初の上場である。

 焦点だった3800億円余の基金は、政府に返さず、取り崩して債務の返済などに充てることになった。JR九州の鉄道事業は年間150億円程度の赤字で、基金の運用益で穴埋めしている。とはいえ、力を入れてきた不動産事業が鉄道事業の赤字を補っており、直近の決算は売上高、経常利益で過去最高を更新した。それだけに「上場できるなら、まずは基金を返すべきだ」との声もあった。

 JR九州は、国民負担による基金がもらい切りになる意味を重く受け止め、民間企業として経営強化とサービスの維持・充実に努めてほしい。

 経営首脳からは「まちづくり会社になる」との声も聞かれるが、基本はあくまで鉄道事業だ。ユニークなデザインの車両や豪華寝台列車「ななつ星」で注目されるが、地元住民の通勤・通学をしっかり支える必要があるのは言うまでもない。上場前に大規模な無人駅化を進める動きもあるようだが、収益改善とサービス維持の両立は、公的な役割を担う鉄道会社として当然の責任である。

 JR九州の動向とともに目が離せないのは、同社の株式上場で得られる数千億円ともされる収益の扱いだ。

 与党議員の中には「鉄道がもたらす利益だから鉄道に使うべきだ」「整備新幹線の建設促進に」といった声がある。しかし、それでは筋が通らない。

 独立行政法人を通じて国が実質的に株式を持ち、4千億円近い公費による基金を抱える会社である。それがもたらす収益を「鉄道村」の埋蔵金のように扱うことは許されない。鉄道分野で今後、老朽化対策などさまざまな補助事業を行う必要があるとしても、毎年度の予算編成を通じ、財政全体の中で配分を決めるべき問題である。

 財政難は深刻だ。国の借金総額は1千兆円を超える。来年度の国の一般会計は、税収増で前年度より好転するとはいえ、財源不足を穴埋めするために37兆円近い国債を発行する。今後、東日本大震災の復興予算を積み増す可能性もある。

 そんな厳しい状況の中での貴重な財源であることを忘れてはならない。