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2015年01月26日

彼らのことを、彼らが望むとおりに呼ばない、ということ。 #No2ISIS

例の「自称国家」だが、コソヴォでさえあんまり「国」扱いしてないときに、「イスラム国」なんて呼んでいたらなおさら正式な「国」みたいだ。「ISIS」(アイシス)や「IS」でもよいのだが、既存の英単語や商品名、固有名詞とカブるし、米国政府が使っている「ISIL」(アイシル)は日本語圏では注釈なしでは通じない。何かよい方策はないものか……と頭を悩ませている私やあなたにひとつの提案が行なわれている。

ISIS・イスラム国を『イスイス団』と呼ぼうという動き
http://togetter.com/li/774277


人により、意見はさまざまあるであろうが、ISISを「いすいす」と読むのは素直だし、ネットスラングとして使うにはなかなか優秀なのではないか。

一見おふざけのようだが、「自称なんとか」がめちゃくちゃやっている場合、「彼らの望むように呼ばない」ことが重要だ。なので、先日のFox Newsの大失態(とは本人は思っていないかもしれない)で、BBC Newsが「テロリズムの専門家」の「専門家」に引用符をつけて「専門家を自称する人物」として一歩引いてみせたように「自称」をつけるということはできるし(日本語圏のメディアの用語法でも「自称扱い」は定着している。例えば「作曲家」ではなく「自称・作曲家」とすると、一気にうさんくさく感じられるだろう)、私も既にやっている。しかし、大手メディアがこぞってあれをマトモな存在であるかのように扱っている中では、「自称・イスラム国」や「イスラム国を自称する勢力」というのは、何とも弱い。それに、あの「呼称」についてのもやもやの根本的解決にはならない。

実際、私は私なりにかなり長いこと、彼らの望む呼称を使うことに抵抗してきた。「黒旗武装集団」などと表記してきたのはそのためだ。しかし、2014年8月のジェイムズ・フォーリーさんの殺害後、彼らが「メジャーな存在」になっていく中で、それでは話が通じなかったり、無駄にまどろっこしくなったりしてきたので、「イスラム国を自称する勢力(以下『ISIS』と表記する)」といった形を採用するようになった。しかし、なるべくなら「イスラム(イスラーム)国」とは呼びたくない。

私は私の信頼するイスラム教徒の書き手(10人や20人ではない)の言葉を通じて、ISISを「イスラム国」と呼ぶことに非常に抵抗を感じているためだ。「あれを『イスラム』と呼んでくれるな」というリアルな人々の声は、常にあるのだ。例えば(以下、太字は強調したいところ):

The hand-choppers of Isis are deluded: there is nothing Islamic about their caliphate
by Mehdi Hasan Published 4 July, 2014 - 16:32
http://www.newstatesman.com/politics/2014/07/hand-choppers-isis-are-deluded-there-nothing-islamic-about-their-caliphate
※筆者のメフディ・ハサンは、つい先日、フランスでの週刊新聞襲撃事件の直後に出した文章が日本語圏でもバイラルした英国の人で、ムスリムであるというより左派言論人としてずっと有名だった。なお、この文章には「イスラム原理主義」(この用語は不正確だが、ここでは便宜上使っている)の立場から猛烈な反論があったと思う。よほど痛かったのか。

Tariq Ramadan: 'ISIL's acts are un-Islamic'
The prominent Muslim academic on the threat of the Islamic State group and how scholars are failing the Muslim world.
17 Oct 2014 12:54 GMT
http://www.aljazeera.com/programmes/talktojazeera/2014/10/tariq-ramadan-isil-not-islamic-2014101015462542487.html
※タリク・ラマダン。説明不要ですね。これは過去に紹介しています

An Ex-Radical's Open Letter to ISIS Fighters: Quit Now While You Can!
09.10.14
http://www.thedailybeast.com/articles/2014/09/10/an-ex-radical-s-open-letter-to-isis-fighters-quit-now-while-you-can.html
※英国人ムスリムの活動家、マアジド・ナワズ。自身、かつて「過激派」だった彼は、現在、その体験をベースにして「過激派の思想にどう対処すべきか」を考えるシンクタンクをやっている。2014年8月のThe Timesのインタビューが出だしだけ読めるのでぜひ(出だしだけでも彼の立場はクリアだ)。

そしてBaghdad InvestのTumblr(Twitterのアカウントもある)。
http://tumblr.baghdadinvest.com/post/96981970691/all-muslims-must-continue-to-say-no2isis-for-they

tmblr.co/ZGSCqo1QKasy3

あと、私が普段からRTしてきたような人たちの言葉、言葉、言葉。(読んでない? ログ残ってますからお好きなように。)そういう意見が、言葉が、声が実在することを「デマ」と呼ぶような人物がマスコミに出まくっているような中で、私はひとりの個人でしかなく、文字通り何の発言力もない。けれど、「あれは(私の)イスラムではない」というイスラム教徒たちの声を聞いていないふりはできない。ヤングアース論だの中絶絶対反対だの同性愛断罪だのといった主張をする「クリスチャン」(例えばウエストボロなんとか)を、私は「信仰のある人」ではなく、「狂信者」、「活動家」と扱っているのだから、イスラム教についても(そのほかの宗教についても)同じようにしなければならない。それが一貫性、「仁義」ってやつではないか。

無論、Reza Aslanのように「彼らをばっさり切り捨てるのはいけない」という声もある。だが、われわれ非ムスリム・ムスリマ(というと「まだ目覚めていない人」扱いされるのがうっとうしいんですが)の立場の者が、ISISのような暴力集団によって、「イスラームって、ああなんでしょう」というイメージを抱いているという状況が固定化されることはとてもよくないし、それには私は抵抗する。

「アルカイダ」ですらここまでの認識のゆがみはもたらさなかったと思うのだが、ISISは「国家 state」を名乗る不遜さと、あの過剰で脂っこくてしつこい情宣と、「不良と書いてワルと読む」的な雰囲気と、言葉巧みに展開する「価値観」を中心とした弁論で、外部の者から「一定の認識」を勝ち取ろうとしている。かつてIRAが、「アイリッシュ・ナショナリズム」を独占しようとし、かなりの程度まで成功したように(それでも彼らはNationalismのほかにRepublicanismという用語を持っていたし、Republican movementと自己を位置づけていた。言葉は彼らは多様だった)。

そういう中で、一般の人々が彼らの「自称」を使わないという抵抗は、十分に「あり」だ。ネットではまず「検索避け」になる(それは彼らの中での「俺ら、こんだけ話題になってんぜ」という自己満足と宣伝効果を阻む)。そういえば、10年ほど前に、Google bombingという手法で「ネットユーザーがGoogle検索結果に一ひねり加える」ということが広く行なわれたことがあった(「ネットユーザー」が主体的にネットと関わるのが「検索窓」だけではなくなり、ソーシャル・メディアが普及しだしてから下火になったと思う)、ということを久々に思い出した。(あのころの「インターネットでユートピア」なムードが懐かしいですよ、まったく。)

実際に、「彼らが望むようには呼ばない」という動きは、国家レベルでもある。フランス政府はこの集団のことを「ダーイシュ(ダエシュ)」と呼んでいるそうだ(メディアの判断はそれぞれに任される)。米国のジョン・ケリー国務長官も「ダーイシュ」の呼称を使っている。しかしその呼称は、シーア派の国家や組織を含め、彼らと明確に敵対している側が使うものということで固定化されてきているので、あまり使いやすい用語ではない。

というわけでネット上の日本語圏に属する自分にとって「イスイス団」はなかなかよさげな呼称ではあるのだが、いきなりそう書いても伝わらないし、何より、どうかしちゃったんじゃないかと思われるだろう(ちなみに、子供をからかって「今日から『コップ』のことを『おわん』と呼ぶことになった」と言って、その場にいる大人が全員「おわんは人数分ありますか」などとやり出すと、子供はかなり動揺する。十分な信頼関係のない間柄でやっちゃいけないくらい、不安を掻き立てる。言語はそのくらいの力を持っている)。

なので、当ブログでは当面、“「イスラム国」を自称する勢力(ネットスラングで「イスイス団」、本稿では「ISIS」と表記)”と表記することにしようと思う。

しかし、これが長い。長いので単語登録しようとしたのだが、リンクのURLを含んでいるので登録可能字数の上限を超えてしまった。

何かうまいことできないかと思ったのだが、そのやり方を調べたり、そのためのソフトを導入したりするのは手間だし、何よりばかばかしい。

そこで、「長いので2つに分けて登録」してみたところ、これがけっこういい感じである。以下、説明しよう。ちなみに私の環境はWindows 7で日本語入力は普通のIMEだ。なお、私は「いす」という文字列はさほど入力しないのでこういうことをしてもあまりウザくないのだが、「いす」という文字列を多用する人は少し工夫していただいたほうがよいだろう(「いすい」と「すだん」に分ける、など)。私もうっとうしくなってきたら変更するつもりだ。

【やり方】
1. MS-IMEで「いす」で下記を「顔文字」として登録する。(「顔文字」にすると半角は半角のままで全角が変換候補に出なくなる。)
「イスラム国」を自称する勢力(<a href="http://togetter.com/li/774277">ネットスラ

※なお、<と>は、実際には半角にしてください(ここで全角なのはそうしないと表示がうまくいかないためです。preタグが通らない……?)。


2. もう1つ、「いす」で下記を同様に登録する。
ングで「イスイス団」</a>、本稿では「ISIS」と表記)

※こちらも同じく、<と>は、実際には半角に。


3. 使うときは、「いすいす」と入力し、2文字ずつで変換する。

png

4. はい、できあがり。
「イスラム国」を自称する勢力(ネットスラングで「イスイス団」、本稿では「ISIS」と表記)


というわけで今後、可能な限りはこのようにしていけたらなあと思う。なお、Twitterでは無理だ。「NAVERまとめ」でも自分で入力するエリアにはHTMLが使えないので無理である(それにNAVERまとめは見出しは50字、概要文は150字、ツイートの下や画像の脇のテキストエリアは300字が上限で、けっこうきつい)。私個人でできるところといえばこの小さなブログくらいだろう。それでもやる。「イスイス団」だろうと「イスイル団」(やたらと人に椅子を勧めまくる人たちみたいだ)だろうと。私はびびっていない。私がびびっていないと述べることで私とつながっている人たちにとばっちりがかかるようなことは避けたいが、私自身はびびっていない。

でも、やれば私のように言葉で脅されることになるかもしれない。それで泣き出しちゃうような人はやらないこと。こういう「上等!」なことは、向いてる人と向いてない人がいる。

以上、後藤健二さんがこれ以上彼らのプロパガンダに加担させられることなく、声を震わせながらご家族のお名前を呼ぶ・読むことも二度となく、無事に帰還なさることを、心から願いつつ。

「私が取材に訪れる場所=『現場』は、『耐えがたい困難がある、けれどもその中で人々が暮らし、生活を営んでいる場所』です。困難の中にある人たちの暮らしと心に寄り添いたいと思うのです。彼らには伝えたいメッセージが必ずあります。それを世界に向けてその様子を発信することで、何か解決策が見つかるかもしれない。そうすれば、私の仕事は『成功』ということになるのでは」

(2014年5月下旬の後藤さんのインタビューより。)
http://www.christiantoday.co.jp/articles/13401/20140530/goto-kenji.htm


生きてください。



ちなみに、「名称を相手の思い通りに呼ばない」類例は、日本語では「北朝鮮」という呼称に見られる。「朝鮮民主主義人民共和国」では長すぎるからというのが主な&表向きの理由だろうけれども、非対称である。「英語のNorth Koreaの直訳ではないか」という反論をすれば、「ならば韓国もSouth Koreaを直訳して『南朝鮮』と呼ばないと対称ではない。かつてドイツが西ドイツ、東ドイツと呼ばれたのと、韓国、北朝鮮という呼称とは異なる」と返ってくるだろう。

また「イスイス団」は「マウマウ団」に似ているという話もあるが、「マウマウ」も本人たちの自称ではない。
http://en.wikipedia.org/wiki/Mau_Mau_Uprising#Etymology

なお、ネット上では「イスイス団」に関連して「死ね死ね団というカルト教団があった」というような話も出ているようだが、「死ね死ね団」はテレビの子供番組の悪役、または同名のバンドで、カルト教団は「死のう団」ではなかろうか。(うん。すごくどうでもいい。でもちょっと気になった。)

B000BR2MPI死ね死ね団 ナゴムコレクション
死ね死ね団
SPACE SHOWER MUSIC 2005-12-07

by G-Tools


4043556012死なう団事件―軍国主義下のカルト教団 (角川文庫)
保阪 正康
角川書店 2000-09

by G-Tools

posted by nofrills at 23:00 | TrackBack(0) | i dont think im a pacifist/words at war
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個別のご挨拶は控えさせていただいておりますが、
おひとりおひとりに感謝申し上げます。


【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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EXPOSING WAR CRIMES IS NOT A CRIME!


詳細はてなダイアリでも少し。