祖先が感染したウイルスが今、脳の中で遺伝子のコントロールのために重要な役割を果たしているようだ。
スウェーデンのルンド大学を含む研究グループが、生物学の有力誌セル・リポーツ2015年1月号で報告した。
外から感染した「レトロウイルス」
「内在性レトロウイルス」と呼ばれるウイルスである。
外来性、要するに外から感染したレトロウイルスが感染先の遺伝子の中に入ってしまったものだ。
ゲノムの一部となっており、今では脳の基本的な機能に関わっているという結果だ。
脳細胞の中でどの遺伝子をいつ発現させるかというコントロールをしている。
溶け込むウイルス
研究グループによると、そもそも内在性レトロウイルスは、人間のDNAのおよそ5%を占めている。遺伝子の中に外から来たウイルスが溶け込んでいるわけだ。
従来、進化の名残で実際には使用されていないと考えられていた。
神経の遺伝子に影響及ぼす
研究グループは今回、神経になる前の細胞である「神経前駆細胞」の中で重要な遺伝子調節を行う「Trim28」というタンパク質を削除してみた。
そうすると、2種類の内在性レトロウイルスの発現が大きく増加した。
一方で内在性レトロウイルスを抑制している仕組みを解除したところ、神経前駆細胞の中の遺伝子の情報に基づいてタンパク質を作り出す「転写」の状態を変化させると分かった。
神経前駆細胞の遺伝子のコントロールが、内在性レトロウイルスの動き次第で変わることの根拠になる。
遺伝子の発現を制御しているのではないかと研究グループは考えている。
脳でウイルスがよく動いている
研究グループは、このウイルスが脳で活性化していると突き止めた。脳細胞は活動的に動いているのは分かっている。多面的な機能を持つ理由の背景にウイルスが関係しているのではないかと推定している。
さらに、脳の神経細胞にはがんが発生しにくいと分かっている。研究グループはこの理由もレトロウイルスが脳内で活性化しているからではないかと見ている。
新しいアプローチの医療が出てくるかもしれない。
文献情報
Fasching L et al.TRIM28 Represses Transcription of Endogenous Retroviruses in Neural Progenitor Cells.Cell Rep.2015;10:20-8 [Epub ahead of print]
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25543143
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