中国政府は高性能磁石の原料などに使うレアアース(希土類)に設定していた輸出枠を撤廃した。世界貿易機関(WTO)が昨年、中国の輸出規制について日米欧の提訴内容をほぼ全面的に認め、中国が敗訴したことを受けた措置とみられる。
中国がWTOの判断に従い、貿易政策を是正したことは評価できる。しかし、WTOが指摘した輸出規制は輸出枠による数量制限だけではない。輸出税により国内と海外の調達価格に格差をつけていることや、輸出企業を限定する貿易権の制限も問題としている。
レアアースには依然として15~20%程度の輸出税が残り、輸出できる権利は中国政府が許可証を出した企業に限られる。WTOが是正の期限とする5月までに、中国政府は残る輸出規制も撤廃してもらいたい。
需要国の日本が省資源技術の開発など対応策を進めたことで、レアアースの相場は大きく下落した。ただ、当面の危機感が薄らいだからといって、問題のある輸出規制は放置できない。
中国には日米欧が提訴したレアアースやモリブデン、タングステンのほかにも世界生産に占めるシェアが高い資源が多い。合成樹脂を燃えにくくするための添加剤として欠かせないアンチモニーは、中国の生産が世界の約9割を占め、輸出枠を設定したままだ。
アンチモニーほどシェアは大きくないが、すずやすず製品、銀にも輸出枠は残る。中国はWTOに加盟する経済大国の自覚を持ち、貿易政策を是正すべきだ。
中国以外でも資源の輸出規制は広がっている。インドネシアは自国産業の振興を狙い、昨年1月にニッケル鉱石などの輸出を禁止した。プラチナなどで高いシェアを持つ南アフリカも「戦略的鉱物資源」は国内に優先供給する政策の実現をめざしている。
日本政府は自国産業を優遇する輸出規制が国際社会で認められないことを説明し、各国に政策の見直しを促してほしい。