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2015-01-25 全てのマネーは債務 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

近年は政府債務の多さが盛んに報じられています。
ただ、「全てのマネーは債務である」という事実はまだ大多数の人々が知らないため、誤った議論が横行しているように思います。


全てのマネーは債務である

最初に大きく書きましたが、大多数の方が「そんなわけないだろ?」とお思いでしょう。*1

もしサラリーマンA氏がamazonから書籍をカード購入した場合、クレジットカード払いになりますが、これは少し考えればわかるように、知らず知らずのうちにA氏は債務者amazon債権者ということになります。 
現金自身は取引に使われず、書籍(財)とは反対向きに同額の債務が流れていきます。
そして、口座引き落とし時点でこの債務は解消されます。 *2

一方、現金の方が「マネーは債務」が解りにくいかも知れません。
この点を押さえて議論している人は、経済学者でさえ少数派のように思われます。

千円札、1万円札などのいわゆる日銀券は、日銀のバランスシート上は債務として計上されています。
従って、日銀券とは、実は日銀債務の証、ということです。

さて、先ほどのA氏が本屋で1000円札で書籍を買った場合、日銀債務(日銀券)の債権者が、A氏から本屋に移転します。(図1右半分)

また、もしその1000円札は給料として勤め先B社から貰ったのであれば、日銀債務債権者がB社からA氏に移った、というわけですね。(同左半分)

現金での売買では、債務者日銀債権者売り手という関係で、債権者が、商品サービスとは逆向きに流れていきます。
つまり、
現金売買とは、日銀債務の所有者移転のこと ですね。
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図1 現金も実は債務の一形態

日銀券に価値が有るのは、現金を現金と思う共同幻想の結果だとか、現金は日銀バランスシートの価値の反映だとかいった言説を経済学者からもよく聞きます。
しかし、図1で見る通り実際に価値があるのは財サービスと交換される債務でり、その証に過ぎない日銀券自身には価値は内包されていないわけです。

債務は、債務者から見れば負の価値しかありませんから返済すべきものですが、
債権者側から見れば、その債務が財サービスと交換して然るべき価値を有しています。  
日銀券は国民の共同幻想や、日銀バランスシートの価値により、日銀券そのものに価値が内在するわけではありません。 

日銀券が保証する債権は、それが発行された当時に日銀に購入された資産とは価値がバランスしていたわけですが、
現在では日銀券の額面負債価値とバランスするのは、現在その額面で取引された財・サービスであり、現在の取引には現在の日銀バランスシート価値は殆ど関係していません。

日銀は現在自己資本率1%程度であり、日銀自身が描いたBSの図でも殆ど見えません。
スイス中銀に至っては現在資産の8割近くを占めるユーロの大幅減価により、バランスシートは債務超過と思われます。
しかし日銀券やスイスフランを使う人々は誰もそんなことは気にかけません。
気にかけるのは、引き渡される財サービスが、額面の価値があるかどうかだけです。

さて、上述の通り、日銀のバランスシートでは、マネーは債務として計上されています。(図2)

日銀のバランスシートではマネーは債務
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図2 日本銀行バランスシート
出所:日本銀行資料(14年6月)
現金(日本銀行券)や、銀行の預金(日銀当座預金)や政府預金は日銀債務(右側)。

これはなぜなのでしょうか。
日銀貨幣を自由に作ることができる、通貨発行権を保有している、とよくいわれますが、これは正確ではありません。
正確に言えば、政府は何らかの資産と引き換えに、同額の債務の証としてマネーを作ることができます。
日銀が作り出したマネーは、現金か、日銀当座預金の形態で銀行に提供するか、政府預金の形態で政府に提供しています。

したがって、日銀バランスシートの資産側(図2の左側)に並ぶ資産が、日銀券・日銀当座預金政府預金といった形態の負債とバランスしていて、それらが民間でマネーとして流通する元になっています。

ただ、民間(家計と企業)は日銀券以外にはアクセス出来ません。
また日銀は銀行と政府の銀行ですから、そもそも日銀券であっても、日銀からいきなり家計や企業にマネーがでていくことはありません。

日銀当座預金にアクセスできるのはその債権者としての市中金融機関政府預金にアクセスできるのは勿論政府です。

民間では、まず政府民間から何らかの財・サービスを買い上げることで、最初のマネーが流通し始めます。
そして、金融機関に最初のマネー(資本)が入れば、その大半は民間に貸し出すことができ、図1のマネー流通が始まります。
流通し始めたマネーの大半はまたどこかの金融機関に預けられて、その金融機関債務になり、その金融機関はその債務の大半を貸し出し…、というサイクルが廻りますから、中央銀行が創造したマネーよりも遥かに多額のマネーが民間を巡ります。

ちなみに図3が民間金融機関のバランスシートです。

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図3 民間金融機関のバランスシート
出所:図2に同じ
預金は金融機関債務(右側)、ただし民間では日銀当座預金資産(左側)。

結局、皆がお金や預金と呼んでいるものは、政府その他、誰かの債務債権のことでこれがぐるぐるよく回る状態が好景気というわけですね。

安倍首相経済成長財政再建の両立を謳って選挙戦を戦いました。
しかし、これまで見たように、長期国債などの政府債務は、実は日銀で発行するマネーの価値の源泉だし、政府国債などの負債を抱えることで経済の最初の一歩が回り始めるわけですから、財政再建と称して、消費税増税を行い、それを国債発行高削減に使うなら、それは単にマネーを削減し、日本の経済規模を縮めているだけです。

正しくは、経済規模、つまり名目GDPを拡大し、税収増につなげて、それをバランスよく財政支出政府債務の返済に振り分けることこそ政府の仕事なのですが、安倍首相財務省にはそれは理解されていないように思われます。

*1:議論を簡単にするために、ここでは500円玉以下の補助貨幣、いわゆる政府貨幣は除外して考えます。

*2:もう少し詳しく言えば、この取引には銀行が介在していて、銀行に対する債権者が預金していたA氏からamazonに移り、口座引き落とし段階で債務債権が相殺されています。

jogjog 2015/01/25 20:49 端的に言えば、PB黒字化したら民間で黒字が減ってデフレが促進されるということですね。

shavetail1shavetail1 2015/01/25 21:30 仰るとおりです。
米国で、かつて自然に任せているのに政府部門が黒字になった事例が何回もあり、その中には政府債務完済さえありましたが、それを含めた財政黒字7回中、6回では直後に深刻な景気後退あるいは恐慌が訪れました。

政府部門が景気を何もコントロールしなければ、大幅な債務量の変動により、好景気(政府部門黒字)とひどい不景気(政府部門赤字)が繰り返されるし、現代日本のように政府部門が黒字を目指せば、民間は長期安定不況になるということですね。