社説:認知症国家戦略 「5人に1人」時代が来る
毎日新聞 2015年01月25日 02時30分(最終更新 01月25日 03時06分)
認知症の人が2025年に最大で730万人になるという推計を厚生労働省の研究班が出した。65歳以上の5人に1人である。
別の研究班の調査では12年時点で462万人と推計されており、13年間で約1・5倍にも増えることになる。決して人ごとでは済まない時代になった。官民の総力を挙げた取り組みが求められる。
政府は認知症対策の国家戦略をまとめ近く発表する。認知症になっても生きがいを持って暮らせるよう、就労継続の支援やボランティア活動など社会参加のための支援が盛り込まれる。現行の認知症対策5カ年計画(オレンジプラン)は医療や介護の施策に焦点が当てられたが、まだ介護が必要ではない認知症の初期段階の人の支援などが乏しいとも指摘されていた。
国家戦略では、医療や介護の専門職がチームで認知症の人を訪問し支える「認知症初期集中支援チーム」の設置を推進し、18年度からすべての市町村で実施することを具体策に掲げた。看護職が適切なケアができるよう認知症対応力向上研修の実施、早期診断に必要な研修をかかりつけ医6万人が受講することなども盛り込んだ。
また、認知症施策を企画・評価する際には認知症の本人や家族の意見を政策に取り入れたり、当事者がプランの評価に加わる機会を設けたりする。本人の視点を施策に反映させるのは重要である。
ただ、遅れているのは認知症の高齢者を介護する家族への支援だ。老いた親に認知症の症状が出てきたとき、冷静に受け止められる人がどのくらいいるのだろう。徘徊(はいかい)や妄想、攻撃的な言動によって疲弊し追い詰められている家族も多いはずだ。介護者の23%が抑うつ状態との調査結果もある。
これまで認知症対策といえば、予防や改善のための新薬の開発や介護施設の整備などがとかく優先的に掲げられてきたが、諸外国ではケアラー(介護者)の権利を法律で定め、家族が疲れたときに認知症の人を一時的に施設で預かる、介護の悩みを相談できる、などのサービスが整えられてきた。
来年度からの介護報酬は2・27%引き下げられる。今でさえ介護施設や介護サービスが不足しているのに、これでは家族への負担がますます重くなる。介護のために仕事を辞めざるを得ない人が増えるのは確実だ。
歌手でタレントの清水由貴子さんが母親の介護で追い詰められ自ら命を絶ったのは6年前のことだ。あれから家族支援はどのくらい進んだと言えるのか。介護をする家族の支援を後回しにしてはならない。