社説:日本人人質 解放へ幅広い連帯を

毎日新聞 2015年01月25日 02時40分(最終更新 01月25日 03時15分)

 家族や友人らは一秒一秒、身を削られる思いだろう。中東のイスラム過激派「イスラム国」とみられる組織は日本人人質2人の身代金支払いの期限として「72時間」と主張した。その期限が過ぎて1日たった24日、不気味な情報が流れている。

 人質になった後藤健二さんとみられる画像がネット上に投稿されたのだ。殺されたとみられる別の人物の写真を掲げている。この人物が誰かは不明。もう一人の人質・湯川遥菜さんの安否も分かっていないが、菅義偉官房長官は急きょ記者会見し、誘拐組織の暴挙を非難した。

 まだ不明確な点は多いが、不安な出来事である。後藤さんの実母・石堂順子さんは23日、日本外国特派員協会での記者会見で、涙ながらに「健二は『イスラム国』の敵ではない。命を救ってください」と訴えた。

 湯川さんも、拘束に至る状況は不明ながら、「イスラム国」の「敵」だったはずはなかろう。2人は、身代金要求や日本政府への圧力の材料として拘束されたあげく殺害予告を受けたのだ。

 2億ドルという法外な身代金は、安倍晋三首相が中東歴訪で表明した2億ドルの支援に基づく。だが、政府関係者が繰り返し説明したように、首相は戦乱が続く地域で苦しい生活を強いられる難民の救済などに、非軍事的な援助を表明しただけである。

 日本人の殺害を予告した黒ずくめの男は、日本の支援が自分たちの組織側の女性や子供の殺害に使われるとの見方を示した。これも見当はずれだと改めて指摘しておきたい。

 だが、誘拐組織の言い分は国際テロ組織アルカイダの主張に似ている。アルカイダはイラク戦争時、陸上自衛隊のサマワ派遣に反発して日本への敵視を強めた。「イスラム国」はかつてアルカイダの影響下にあっただけに、人質事件には深い動機があるかもしれない。首相歴訪時の中東支援への誤解を解けば事足れりとは考えない方がいい。

 いずれにせよ、解放交渉の行方は読みにくい。同じイラクの誘拐でも、2004年4月に誘拐された日本人3人は宗教関係者らの働きかけで解放されたが、同年10月に拘束された日本人旅行者は殺害された。また、イラク北部で昨年、「イスラム国」に拘束されたトルコ総領事館員ら49人は、同国政府の折衝によって無事に解放されている。臨機応変な対応が必要なゆえんだ。

 トルコのエルドアン大統領らシリア周辺国の首脳も協力を約束した。連帯の輪が広がり、情報収集も進んでいると思えるのは心強い。粘り強く交渉すれば、必ず2人の日本人を連れ戻せる。そう信じて、政府は全力を尽くしてほしい。

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