【北朝鮮の同性愛事情-2-】北朝鮮のゲイは「理解も迫害もされない」

勤務中の朝鮮人民軍の兵士(本文とは関係ありません)
勤務中の朝鮮人民軍の兵士(本文とは関係ありません)

「同性愛という概念すら存在しない」

連載の第1回で紹介した小説「平壌の吹雪」ではアメリカ人のゲイカップルを、「非人間的」だとなじる北朝鮮の軍人が出てくる。

果たして北朝鮮はホモフォビア(同性愛嫌悪)の国なのだろうか。性的マイノリティは入国するやいなや石を投げられて迫害されるのだろうか。

アメリカの北朝鮮専門ニュースサイトのNK Newsは2013年11月13日に、”Being gay in the DPRK”(北朝鮮でゲイであること)で北朝鮮の同性愛事情について触れている。

ウィルソン研究所の北朝鮮研究者、ヘイゼル・スミス氏はNK Newsに対して 「西洋とは違い北朝鮮には同性愛という概念すら存在しない」と語っている。

その一方で北朝鮮においても「同性愛的行為」は存在すると語る。「同性愛的行為」とは同性愛者を自認している人同士が築く性愛関係ではなく、刑務所や軍隊などのホモソーシャルで閉鎖された空間において行われるものである。

「結婚前に同性間での性行為を楽しむことが流行っている。セックスとはみなされず、単なる身体反応とされる」

「軍隊のように男女が切り離された空間では西洋のように同性間の性行為が行われている可能性が非常に高い」

だからといって、北朝鮮に同性愛者が存在しないわけではない。自らを同性愛者と認識するには他の同性愛者の存在といった情報が必要だが、北朝鮮にはそれが欠けているようだ。

異性と結婚して子どもを作らなければならない。結婚しない人はずっと馬鹿にされ子供扱いされる。個人の欲望よりも国の要求が優先される北朝鮮においては同性愛という性的指向は尊重以前に理解すらされないのだ。

朝鮮中央通信による「ヘイトスピーチ」

とはいえ、人々に石を投げられるなどの迫害を受けるわけではないようだ。北朝鮮へのツアーを取り扱うKoryo toursの経営者、サイモン・コックレルはNK Newsに対して、それを否定して次のように語る。

「北朝鮮の人々は外国から来たゲイを面白がる」

「北朝鮮にホモフォビアがないとは言わないが、概念がないものを嫌うことは難しい」

「北朝鮮では男性同士で手をつないだり、歌ったり、感情を露わにしたりする。(西欧などと違って)非常に安全に感じる」

一方、どこかで同性愛のことを聞きかじった人は随分とホモフォビックな姿勢を見せるようだ。朝鮮中央通信は国連北朝鮮人権調査委員会(COI)のマイケル・カービー委員長に対し、彼の性的指向を持ち出して激しい攻撃を加える。引用するのも憚られるほどのヘイトスピーチだが、敢えて紹介したいと思う。

「マイケル・カービーは40年以上、同性恋愛という醜聞を残し70歳を超えた今に至るまで同性の相手に嫁入りできずに気を揉んでいるむさくるしい老いぼれ好色狂」

「いわゆる『裁判官』の肩書きでやったことがあるならば、自国の人々の非難を受けながらも同性婚法制化のために狂奔していることだけだ」

「健全な思想と美しき倫理道徳が存在する我が国ではあり得ず、西側諸国でも社会的物議の対象とされている同性愛者が人権問題を司るとしゃしゃり出るとは苦々しいばかりだ」

【参考記事】 北朝鮮が差別表現でオバマ氏を罵倒する理由

朝鮮半島は伝統的に性に対して保守的な社会とされる。しかし、韓国においてそれは変わりつつある。次回は韓国現代社会と同性愛について紹介する。(つづく)