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Translated by Yasushi Aoki
Reviewed by Masaaki Ueno

0:11 最初に告白させてください 20年ほど前にした あることを 私は後悔しています あまり自慢できないようなことを してしまいました 誰にも知られたくないと思うようなことです それでも明かさなければならないと感じています (ざわざわ) 1980年代の後半に 私は若気の至りから ロースクールに行ったのです (笑)

0:44 アメリカでは 法律は専門職学位です まず大学を出て それからロースクールへ行きます ロースクールで私は あまり成績が芳しくありませんでした 控えめに言ってもあまり良くなく 上位90パーセント以内という成績で 卒業しました (笑) どうも 法律関係の仕事はしたことがありません やらせてもらえなかったというべきかも (笑)

1:18 しかしながら今日は 良くないことだとは思いつつ 妻の忠告にも反しながら この法律のスキルを 再び引っ張り出すことにしました 今日はストーリーは語りません 主張を立証します 合理的で 証拠に基づいた 法廷におけるような論証で ビジネスのやり方を再考してみたいと思います

1:46 陪審員の皆さん こちらをご覧ください これは「ロウソクの問題」と呼ばれるものです ご存じの方もいるかもしれません 1945年に カール ドゥンカーという心理学者が この実験を考案し 様々な行動科学の実験で用いました ご説明しましょう 私が実験者だとします 私はあなた方を部屋に入れて ロウソクと 画鋲と マッチを渡します そしてこう言います 「テーブルに蝋がたれないように ロウソクを壁に 取り付けてください」 あなたならどうしますか?

2:20 多くの人は 画鋲でロウソクを 壁に留めようとします でも うまくいきません あそこで 手真似をしている人がいましたが マッチの火でロウソクを溶かして 壁にくっつけるというアイデアを思いつく人もいます いいアイデアですが うまくいきません 5分か10分すると たいていの人は解決法を見つけます このようにすればいいのです 鍵になるのは「機能的固着」を乗り越えるということです 最初あの箱を見て 単なる画鋲の入れ物だと思います しかしそれは別な使い方をすることもでき ロウソクの台になるのです これがロウソクの問題です

2:59 次にサム グラックスバーグという科学者が このロウソクの問題を使って行った 実験をご紹介します 彼は現在プリンストン大学にいます この実験でインセンティブの力がわかります 彼は参加者を集めて こう言いました 「この問題をどれくらい早く解けるか時計で計ります」 そして1つのグループには この種の問題を解くのに 一般にどれくらい時間がかかるのか 平均時間を知りたいのだと言います

3:25 もう1つのグループには 報酬を提示します 「上位25パーセントの人には 5ドルお渡しします 1番になった人は 20ドルです」 これは何年も前の話なので 物価上昇を考慮に入れれば 数分の作業でもらえる金額としては 悪くありません 十分なモチベーションになります

3:47 このグループはどれくらい早く 問題を解けたのでしょう? 答えは 平均で― 3分半 余計に時間がかかりました 3分半長くかかったのです そんなのおかしいですよね? 私はアメリカ人です 自由市場を信じています そんな風になるわけがありません (笑) 人々により良く働いてもらおうと思ったら 報酬を出せばいい ボーナスに コミッション あるいは何であれ― インセンティブを与えるのです ビジネスの世界ではそうやっています しかしここでは結果が違いました 思考が鋭くなり クリエイティビティが加速されるようにと インセンティブを用意したのに 結果は反対になりました 思考は鈍く クリエイティビティは阻害されたのです

4:33 この実験が興味深いのは それが例外ではないということです この結果は何度も何度も 40年に渡って再現されてきたのです この成功報酬的な動機付け―If Then式に 「これをしたら これが貰える」というやり方は 状況によっては機能します しかし多くの作業ではうまくいかず 時には害にすらなります これは社会科学における 最も確固とした発見の1つです そして最も無視されている発見でもあります

5:04 私はこの数年というもの 動機付けの科学に注目してきました 特に外的動機付けと内的動機付けの ダイナミクスについてです 大きな違いがあります これを見ると 科学が解明したことと ビジネスで行われていることに食い違いがあるのがわかります ビジネス運営のシステム つまりビジネスの背後にある前提や手順においては どう人を動機付け どう人を割り当てるかという問題は もっぱら外的動機付け アメとムチにたよっています 20世紀的な作業の多くでは これは実際うまくいきます しかし21世紀的な作業には 機械的なご褒美と罰というアプローチは 機能せず うまくいかないか 害になるのです どういうことか説明しましょう

5:52 グラックスバーグはこれと似た別な実験もしました このように若干違った形で 問題を提示したのです 机に蝋がたれないようにロウソクを壁に付けてください 条件は同じ あなたたちは平均時間を計ります あなたたちにはインセンティブを与えます どうなったのでしょう? 今回は― インセンティブを与えられたグループの方が断然勝ちました なぜでしょう? 箱に画鋲が入っていなかったら 問題はバカみたいに簡単になるからです (「サルでもわかる」ロウソクの問題) (笑)

6:26 If Then式の報酬は このような作業にはとても効果があります 単純なルールと 明確な答えがある場合です 報酬というのは 視野を狭め 心を集中させるものです 報酬が機能する場合が多いのはそのためです だからこのような 狭い視野で 目の前にあるゴールを まっすぐ見ていればよい場合には うまく機能するのです しかし本当のロウソクの問題では そのような見方をしているわけにはいきません 答えが目の前に転がってはいないからです 周りを見回す必要があります 報酬は視野を狭め 私たちの可能性を限定してしまうのです

7:03 これがどうしてそんなに重要なことなのでしょうか 西ヨーロッパ アジアの多く 北アメリカ オーストラリアなどでは ホワイトカラーの仕事には このような種類の仕事は少なく このような種類の仕事が増えています ルーチン的 ルール適用型 左脳的な仕事 ある種の会計 ある種の財務分析 ある種のプログラミングは 簡単にアウトソースできます 簡単に自動化できます ソフトウェアのほうが早くできます 世界中に低価格のサービス提供者がいます だから重要になるのは もっと右脳的で クリエイティブな 考える能力です

7:44 ご自分の仕事を考えてみてください あなた方が直面している問題は あるいは私たちが― この場で議論しているような問題は こちらの種類でしょうか? 明確なルールと 1つの答えがあるような? そうではないでしょう ルールはあいまいで 答えは そもそも存在するとしての話ですが 驚くようなものであり けっして自明ではありません ここにいる誰もが その人のバージョンの ロウソクの問題を扱っています そしてロウソクの問題は どんな種類であれ どんな分野であれ If Then式の報酬は― 企業の多くはそうしていますが― 機能しないのです

8:27 これには頭がおかしくなりそうです どういうことかというと これは感情ではありません 私は法律家です 感情なんて信じません これは哲学でもありません 私はアメリカ人です 哲学なんて信じません (笑) これは事実なのです 私が住んでいるワシントンDCでよく使われる言い方をすると 真実の事実です (笑) (拍手) 例を使って説明しましょう 証拠の品を提示します 私はストーリーを語っているのではありません 立証しているのです

9:05 陪審員の皆さん 証拠を提示します ダン アリエリーは現代における最高の経済学者の1人です 彼は3人の仲間とともに MITの学生を対象に実験を行いました 学生たちにたくさんのゲームを与えます クリエイティビティや 運動能力や 集中力が要求されるようなゲームです そして成績に対する報酬を 3種類用意しました 小さな報酬 中くらいの報酬 大きな報酬です 非常にいい成績なら全額 いい成績なら半分の報酬がもらえます どうなったのでしょう? 「タスクが機械的にできるものである限りは 報酬は期待通りに機能し 報酬が大きいほど パフォーマンスが良くなった しかし認知能力が多少とも 要求されるタスクになると より大きな報酬は より低い成績をもたらした」

9:55 それで彼らはこう考えました 「文化的なバイアスがあるのかもしれない インドのマドゥライで試してみよう」 生活水準が低いので 北アメリカではたいしたことのない報酬が マドゥライでは大きな意味を持ちます 実験の条件は同じです たくさんのゲームと 3レベルの報酬 どうなったのでしょう? 中くらいの報酬を提示された人たちは 小さな報酬の人たちと成績が変わりませんでした しかし今回は 最大の報酬を提示された人たちの成績が 最低になったのです 「3回の実験を通して 9つのタスクのうちの8つで より高いインセンティブがより低い成績という結果となった」

10:36 これはおなじみの 感覚的な 社会主義者の陰謀なのでしょうか? いいえ 彼らはMITに カーネギーメロンに シカゴ大学の経済学者です そしてこの研究に資金を出したのはどこでしょう? 合衆国連邦準備銀行です これはまさにアメリカの経験なのです

10:56 海の向こう ロンドン スクール オブ エコノミクス (LSE) に 行ってみましょう 11人のノーベル経済学賞受賞者を輩出しています 偉大な経済の頭脳がここで学んでいます ジョージ ソロス、フリードリヒ ハイエク、 ミック ジャガー (笑) 先月 ほんの先月のこと LSEの経済学者が 企業内における 成果主義を導入した工場 51の事例を調べました 彼らの結論は 「金銭的なインセンティブは… 全体的なパフォーマンスに対しマイナスの影響を持ちうる」ということでした

11:32 科学が見出したことと ビジネスで行われていることの間には 食い違いがあるのです この潰れた経済の瓦礫の中に立って 私が心配するのは あまりに多くの組織が その決断や 人や才能に関するポリシーを 時代遅れで検証されていない前提に基づいて行っている 科学よりは神話に基づいて行っているということです この経済の窮地から抜けだそうと思うなら 21世紀的な答えのないタスクで 高いパフォーマンスを出そうと思うのなら 間違ったことを これ以上続けるのはやめるべきです 人をより甘いアメで誘惑したり より鋭いムチで脅すのはやめることです まったく新しいアプローチが必要なのです

12:17 いいニュースは 科学者たちが 新しいアプローチを示してくれているということです 内的な動機付けに基づくアプローチです 重要だからやる 好きだからやる 面白いからやる 何か重要なことの一部を担っているからやる ビジネスのための新しい運営システムは 3つの要素を軸にして回ります 自主性 成長 目的 自主性は 自分の人生の方向は自分で決めたいという欲求です 成長は 何か大切なことについて上達したいということです 目的は 私たち自身よりも大きな何かのために やりたいという切望です これらが私たちのビジネスの全く新しい 運営システムの要素なのです

12:58 今日は自主性についてだけお話ししましょう 20世紀にマネジメントという考えが生まれました マネジメントというのは自然に生じたものではありません マネジメントは木のようなものではなく テレビのようなものです 誰かが発明したのです 永久に機能しつづけはしないということです マネジメントは素晴らしいです 服従を望むなら 伝統的なマネジメントの考え方は ふさわしいものです しかし参加を望むなら 自主性のほうがうまく機能します

13:24 自主性について少し過激な考え方の 例を示しましょう あまり多くはありませんが 非常に面白いことが起きています 人々に適切に 公正に 間違いなく 支払い お金の問題はそれ以上考えさせないことにします そして人々に大きな自主性を認めます 具体的な例でお話しします

13:44 Atlassianという会社をご存じの方はどれくらいいますか? (誰も手を挙げない) …半分もいない感じですね (笑) Atlassianはオーストラリアのソフトウェア会社です 彼らはすごくクールなことをやっています 1年に何回か エンジニアたちに言うのです 「これから24時間何をやってもいい 普段の仕事の一部でさえなければ何でもいい 何でも好きなことをやれ」 エンジニアたちはこの時間を使って コードを継ぎ接ぎしたり エレガントなハックをしたりします そしてその日の終わりには 雑然とした全員参加の会合があって チームメートや会社のみんなに 何を作ったのか見せるのです オーストラリアですからみんなでビールを飲みます

14:25 彼らはこれを「FedExの日」と呼んでいます なぜかって? それは何かを一晩で送り届けなければならないからです 素敵ですよね 商標権は侵害しているかもしれませんが ピッタリしています (笑) この1日の集中的な自主活動で生まれた 多数のソフトウェアの修正は この活動なしには生まれなかったでしょう

14:45 これがうまくいったので次のレベルへと進み 「20パーセントの時間」を始めました Googleがやっていることで有名ですね エンジニアは仕事時間の20パーセントを 何でも好きなことに使うことができます 時間、タスク、チーム、使う技術 すべてに自主性が認められます すごく大きな裁量です そしてGoogleでは よく知られている通り 新製品の半分近くが この20パーセントの時間から生まれています Gmail、Orkut、Google Newsなどがそうです

15:13 さらに過激な例をご紹介しましょう 「完全結果志向の職場環境」と呼ばれるものがあります ROWE (Results Only Work Environment) アメリカのコンサルタントたちにより考案され 実施している会社が北アメリカに10社ばかりあります ROWEでは 人々にはスケジュールがありません 好きなときに出社できます 特定の時間に会社にいなきゃいけないということがありません 全然行かなくてもかまいません ただ仕事を成し遂げれば良いのです どのようにやろうと いつやろうと どこでやろうと かまわないのです そのような環境では ミーティングはオプショナルです

15:45 どんな結果になるのでしょう? ほとんどの場合 生産性は上がり 雇用期間は長くなり 社員満足度は上がり 離職率は下がります 自主性 成長 目的は 物事をする新しいやり方の構成要素なのです こういう話を聞いて 「結構だけど 夢物語だね」と言う人もいることでしょう 違います 証拠があるのです

16:11 1990年代半ば Microsoftは Encartaという百科事典を作り始めました 適切なインセンティブを設定しました 何千というプロにお金を払って 記事を書いてもらいました たっぷり報酬をもらっているマネージャが全体を監督し 予算と納期の中で出来上がるようにしました 何年か後に 別な百科事典が開始されました 別なモデルを採っていました 楽しみでやる 1セント、1ユーロ、1円たりとも支払われません みんな好きだからやるのです

16:41 ほんの10年前に 経済学者のところへ行ってこう聞いたとします 「ねえ 百科事典を作る2つのモデルを考えたんだけど 対決したらどっちが勝つと思います?」 10年前 この地球上のまともな経済学者で Wikipediaのモデルが勝つという人は 1人もいなかったでしょう

17:01 これは 2つのアプローチの 大きな対決なのです モチベーションにおけるアリ vs フレージャー戦です 伝説のマニラ決戦です 内的な動機付け vs 外的な動機付け 自主性 成長 目的 vs アメとムチ そしてどちらが勝つのでしょう? 内的な動機付け 自主性 成長 目的が ノックアウト勝利します まとめましょう

17:23 科学が解明したことと ビジネスで行われていることの間には食い違いがあります 科学が解明したのは 1. 20世紀的な報酬― ビジネスで当然のものだとみんなが思っている動機付けは 機能はするが驚くほど狭い範囲の状況にしか合いません 2. If Then式の報酬は 時にクリエイティビティを損なってしまいます 3. 高いパフォーマンスの秘訣は 報酬と罰ではなく 見えない内的な意欲にあります 自分自身のためにやるという意欲 それが重要なことだからやるという意欲

17:52 大事なのは― 私たちがこのことを知っているということです 科学はそれを確認しただけです 科学知識とビジネスの慣行の間の このミスマッチを正せば 21世紀的な動機付けの考え方を 採用すれば 怠惰で危険でイデオロギー的な アメとムチを脱却すれば 私たちは会社を強くし 多くのロウソクの問題を解き そしておそらくは 世界を変えることができるのです これにて立証を終わります (拍手)