
一般的な「アライメント調整」は「基準値設定」だよ。

車高調組んだり、タイヤホイール替えたり、主に足回りをノーマルから変更した場合にやらなきゃいけない調整が「アライメント」。
正しく言えば「4輪ホイールアライメント調整」だ。
http://m.chiebukuro.yahoo.co.jp/detail/q125574692
医学でもこの言葉を使う。アライメント調整とは、「向きを揃える。あるべき位置関係に整える。」ことを指す。
「整体」とか「修正、補正」とかの意味だと思えばわかり易いかな。
クルマの場合主に静止空車時車高をノーマルから変えた場合に狂うタイヤの向きや取り付け角度を、なるべく元々の位置関係角度に戻す事を言うのだ。
なぜ車高を変えるとアライメントが狂うのかおさらい。
クルマは人や荷物を載せて走る道具だ。
例えば5人乗りで車重1トンの乗用車があったとする。
車重は空車時の1トンから、最大乗車時の(70kg×5=350kg)1350kgオーバーまで車重が変化する。
この例だと概ね車重が1.4倍になる。
イメージとしてはNAロードスターがランエボ7の車重に増えるような感じだ。ロードスターやランエボに5人は乗れないが。
当然、人や荷物はクルマの下には積めないから、積載した分だけクルマの上部に重りが増えて車体重心も上がってしまう。
重心が上がれば車体の「曲がる止まる」は不安定になる。
それを補う為に、クルマの足回りには積載が多くても少なくても安定性を損なわないような工夫がしてあるのだ。
「ジオメトリー」と言う言葉がある。
クルマで言えばサスアーム長やアームの取り付け位置や角度など、脚の伸縮につれて上手くホイールアライメントが変化するよう決める根本的な位置関係の事だ。
はいココ重要な
「脚が伸縮すると、ホイールアライメントは変化するのだ。そもそもそのように作ってあるのだ。」
基本的な車高変化とホイールアライメント変化との関係は次の通り。稀に例外はあるが。
(AE86などのリジットアクスルのクルマはリヤは基本的に変わらないので除外で)
【フロント】
・脚が縮む(車高が下がる)と「トーアウト」。
バンプトーアウト と言う。
・脚が縮む(車高が下がる)と「
ネガティブキャンバー」 になる。
【リヤ】
・脚が縮む(車高が下がる)と「トーイン」。
バンプトーイン と言う。
・脚が縮む(車高が下がる)と「
ネガティブキャンバー」 になる。
脚が伸びれば(車高を上げれば)全てその逆になる。
他にも色々あるのだが、とりあえず覚えておいた方が良いのはこの4点。
コレが運転手にどう感じるか。どんな影響が出るのか説明しよう。
【フロントトーアウト】 ステア操作に対する反応が鈍くなったように感じる。轍に足を取られ易くなった様に感じる。
タイヤが内減りする。→強引なステアに対して反応が穏やかになる。
【フロントネガキャン】 回りこんだコーナーなどで、フロントの粘りが増したように感じる。舵がいつまでも効くように感じる。
タイヤが内減りする。→直進性アップ
【リヤトーイン】 コーナリング時リヤタイヤが引っかかる感じが早めから体感できる。減速時の安定感が増す。ブレーキング時の安定感が増す。
タイヤが外減りする。直進時に抵抗感が出る。→スピンモードに入りにくくなる
【リヤネガキャン】 直進ブレーキング時の安定感が減る。コーナリング中アクセル踏んだ時の安定感が増す。
タイヤが内減りする。→直進性アップ
おおざっぱにまとめると、車高を下げて積載した状態にするとクルマは曲がらない安定方向にアライメントが変化するのだ。
しかもこの変化は意外と極端に曲がらない方向に変化する。なぜなのか。
市販車は、必ず交通事故時の人命をなるべく損なわないように設計されている。
ABS エアバックなどのパッシブセーフティー機構は、正面衝突の時に最大限の効果を得られるように作られている。
最近はようやく側面衝突への安全設備が装備されてきたが、それでも正面衝突の方が安全性が高いのだ。
だから
自動車メーカーはコントロール不能の状態に陥った場合には真っ直ぐ進むように市販車を作っている。
積載し、車重が増えて運動性=性能が低下した状態ではコントロール不能に陥り易い。
だから、脚を替えて車高を下げる、つまり
擬似的に積載した状態を作るとホイールアライメントはドライバーを無視した領域まで安定方向に変わるのだ。
運動性を上げる為に足回りを変更して車高を下げた筈なのに、これではその性能が充分に発揮できないのがこれでなんとなく判るんじゃなかろうか。
派手に狂ってしまったホイールアライメントを、運動性が低下しない範囲まで再調整すること。
これがホイールアライメント調整の意味なのだ。
さて、アライメント調整と言うと、自分で糸を張って確認する無料コースから、4輪とも機械の上でタイヤを転がしながら実走に近い感じで計測する4~5万円コースまで様々だ。
どの手段を用いても目的は実は同じだ。
タイヤが4輪とも綺麗に磨耗するようにタイヤの向きを整えるのが目的なんだ。
タイヤトレッド面が均等に接地/磨耗すれば、その分タイヤ性能を十全に使える訳で、それは
安全に運転できる事を意味する。
タイヤ性能が隅々まで発揮できると、
・ブレーキ
・ハンドリング
・トラクション
・コーナリング
走る曲がる止まるに全て効く。だからアライメントを正しく調整すると
速く走ってもマージンが増える事になる。
人間に例えると判り易い。爪先立ちでは思うように走れないし急に立ち止まったりできないだろう。
ずっと爪先立ちではすぐに疲れてしまうし、靴も靴下もすぐに擦り切れてしまう。
先日、緑号を4輪アライメント調整に出した。
高級な機械を使っている店だと下のような紙をくれる。
調整前
調整後
とまぁ、このようになんだか数値が出てきてなんだか凄い事をやったように思うのだが、実際はただ単にタイヤの向きを整えただけなんだ。ざっくり言うと。
ついつい、その時点でアライメント調整が済んだと思う人が多いのだが、それは大きな間違いだ。
アライメント調整を経験した方なら、覚えがあるだろう。
・調整したハズなのに、ハンドルセンターがズレている。
・調整したハズなのに、タイヤが偏磨耗する。
意外にこういう現象は発生している。なぜなのか。
大まかに原因を挙げてみよう。
・空車状態でアライメントを取っているので、人が乗るとクルマに偏った荷重が掛かり車高バランスが狂い、静止空車時のアライメントから変化する。
・アライメント調整作業の前にリフトアップしているので、アームやダンパーブッシュの「馴染み」が消えた状態でアライメント調整をするので、暫くするとブッシュが馴染んで車高やアライメントが狂う。
テスターの上でなるべく精密にアライメントを調整しても、地上に降ろして走り出せばこのような状況になる。
つまり、静止時のアライメント調整なんて、
大まかな基準値を出しているだけで完全ではないのだ。
仕方が無いのだ。
例えば時速50km/hで走っているクルマは、1秒間に13.9mも進む。
アライメント調整の調整単位は「ミリ」とか「度数」 実はそれほど精密ではない。
静止状態でホイールのリム径で例えばトーをゼロに合わせても、数値として表記されない範囲内での狂いがある事が普通だ。
それに上で書いた空車/乗車時の狂いやブッシュの馴染みまで加わってくる。
ハンドルを回すと、タイヤがどれだけ角度が付いているのか、試しに撮影してみた。
例えばこの位ハンドルが斜めになっている状態、緩いコーナーを抜けているカンジかな。
実はコレだけしかタイヤは角度が付いていないんだ。たったこれだけでクルマはジワジワと旋回する。
例えばこんな角度。
タイトコーナーを旋回しているカンジかな。
これだけハンドル回してもこれだけしかタイヤの向きは変わらない。
クルマは想像を遥かに超える距離を使って向きを変えているんだ。ホンのチョットだけアライメントがズレていても、距離で増幅されてどんどん狂っていくのだ。
それから、アライメントの測定方法も実は完全じゃない。
スペーサを付けても外してもアライメント数値は変わらない。しかしインセットが変わればクルマがタイヤを押し付ける場所が変わる。
数値は変わらなくても、オイシいアライメントからは外れると言って良いのだ。
そしてホイールのリム幅が違えばタイヤが引っ張りになったりボッテリになったりする。
当然それでもタイヤのどこに力が掛かるかが変わるし、タイヤのヨレ量でオイシい角度から違ってきたりする。
しかも、タイヤごとに特性が違うので厳密にはそれぞれに合わせないと良いアライメントは出来ない。
「なんだよー、んじゃアライメント調整なんて無意味かよー、訳わからんわー」
そう思ってくれればむしろ幸いだ。
良いアライメントは一朝一夕に出来るモンじゃない。
たった1度だけカネ払って数値だけ合わせれば良いってモンじゃない。
テスターに載せて基準値設定をして、そこからが「現車合わせアライメント」の始まりなのだ。
院長が良くやっている
「実走アライメントチェック&調整」も、基準値出しからその先の領域の調整をしている。
他にも様々な方法で、その先の煮詰めをしている人は沢山居る。
本当のアライメント調整は、それが仕上がって初めて調整が終わったと言えるのだよ。
殆どの皆さんは、大まかなアライメントでなんとなく走っている。それは覚えておいたほうが良いかもしれないよ。
長くなったがおしまい。伝わるかどうかサッパリわからないけど。