前回、「スプリング交換による限界性能の向上」について書いた。
車高調の旨味は汎用の直巻きバネを使うことが出来、狙った性能を目指せる事。
処理出来る限界荷重を決め、ダンパーのストロークで割り返せば、必要なスプリングレートが判る。
そして、同じ限界性能ならば、ダンパーのストロークが長い方が要求レートが低く済み、快適性やロードホールディングに有利なのだ。
では次の段階
「正しいスプリング自由長の選定について」
画像を御覧いただこう。
このダンパーのロッド長は79ミリ。バンプラバーの厚みが18ミリあるので、
ダンパーのストロークは61ミリである事が判る。
このダンパーの場合、
バネの最大許容作動長が79ミリ以上のバネを選ぶのが望ましい。
最大許容作動長は有効ストロークとも言う。
スプリングメーカー各社は自社製品に対し、スペックを公開している所が多い。
スウィフトのHPより。
http://www.tohatsu-springs.com/swift_60.html
例えば、8kg/mmのスプリングを組み込みたい場合、最大許容作動長79mmを超えるバネは、
ID60で自由長6インチ152ミリからだ。自由長が長くなるほど同じレートでも有効ストロークが伸びる。
ID(スプリング内径)が大きなバネほど、有効ストロークが長くなる事にも注目して欲しい。
このようにして導き出したスプリング自由長が、その脚に組んで良い最短の自由長である。
もし、これより短い自由長のスプリングを組み込んだ場合はどうなるか。
ロッド長>有効ストローク となった場合、スプリングやダンパーの破損だけにととまらず、車体の破損原因にもなりかねなくて
危険なのだ。
ハイパコに良いグラフがあったので貼ってみる。
この図はハイパコ製品の優位性を説いたものであるのだが、注目すべきは[C]の部分。
有効ストローク以上にスプリングを縮めると、このように極端にレートが上がる。コレは設計を越えてバネの鋼線が捻られて発生する現象なのだ。
そしてその後に訪れるのが
線間密着
ダンパーにまだ縮む余地があるのに、バネの鋼線の間隔が無くなってしまい、まるで鉄パイプのようになってしまう現象だ。
ココから先の衝撃は、バネで一切吸収しないので、そのままボディを攻撃することになる。
脚の限界を超えたところからの衝撃が、どれほど強いモノになるのかはイメージしてもらえると思う。
クルマを壊さない為にも、ダンパーストロークに見合った有効ストロークのバネを選ばなきゃならないのは判っていただけると思う。
一般論として、「自由長の長いバネの方が乗り心地が良く、短いバネの方がキビキビする」なんて話は、忘れてしまった方が良いと思うのだ。
原則として、
選べるスプリング自由長には下限がある。
では上限はないのか。いやある。性能とは別の部分で上限は存在する。
例えばこの車種の場合、Wウィッシュボーンなので、あまり長いバネを入れるとサスアームに干渉してしまう。
例えばこの車種の場合は、あまり長いバネを組み込むとドライブシャフトに干渉して希望の車高まで下げられなかったりする。
長すぎるバネは、今度は次のセッティングの時の足かせになることがある。
つまるところ、スプリング自由長選定は、
ダンパーのロッド長を超えた有効ストロークを持ったなかで最短の自由長のバネを選ぶ事。
となるのだ。
余談だが、たまに「バンプラバーで伸縮は止まるので、有効ストロークはロッドストロークを超えれば良いのでは?」と質問を受ける。
残念ながらバンプラバーは伸縮する。バネの伸縮より遥かに硬度があるが、それでも入力があれば縮んでしまうのだ。
その為、ロッド長を超えた有効ストロークのバネを用意することをお勧めする。
先ほどのハイパコの図の通り、有効ストロークを超えてから線間密着までは、厳密に言えば猶予があるのでそれも考えても良いかも知れないが、リスクが高い事も覚悟しなくてはならない。
これで、一通りの車高調リセッティングの方法の基礎は完結。
読者の皆様の脚が健全になることを切に願おう。
もう一度言うが、
良い脚になれば、不満がなくなる。やりたいことが出来て、刺激が無くなるのだ。
それにより、快適性が上がったり、より速く走れたりするのだ。
自分の走るステージや、求める乗り心地で、必要な性能は変わる。
その限界がどの程度必要なのかはあえてココには記さない。
その道のスペシャリストに訪ねたり、自分で試行錯誤したりも、また楽しい趣味の一環だ。
是非とも脚いじりを楽しんで欲しいと思うのだ。
これをして、別の部分の問題点が発生することもある。それはまた別の時にでも。
次回、書くつもりになったら、「キチンとした脚が付いている前提での」駆動形式別のセッティング方法でも書いてみようかな。
ではでは
Posted at 2013/08/01 17:14:46 | |
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