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【中江有里の直球&曲球】本当に怖いのは病ではなく人の心

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【中江有里の直球&曲球】
本当に怖いのは病ではなく人の心

 昨夏、生誕100年を迎えたある作家の本名が初めて公表された。その作家は生前だけでなく、死後も長らく本名は伏せられてきた。理由はただひとつ、作家・北條民雄はハンセン病であったからである。

 ハンセン病は慢性の感染症で、かつては『らい病』と呼ばれていた。症状が進むと手足や顔に変形が現れる。「業病」「血筋の病」と誤解され、患者だけでなく、その親族もまた差別、偏見の対象にされた。

 北條民雄もまた病を発症してから故郷徳島を離れ、東京の病院に入院した。のちに川端康成に見いだされ、自らの体験を小説に描いた『いのちの初夜』は北條の代表作である。

 私は一昨年、大学の卒業論文で北條民雄を取りあげたことで、ハンセン病という病を知った。古くは日本書紀にも記されたという病だが大正初期までは家を追われて放浪する患者が多かった一方、治療を試みる医師もいたり、宗教者や外国人が患者の保護を行ったりもしたという。

 しかし明治、昭和を迎えるとき、近代化する国家が「無らい県」を目指そうと、治療を積極的に行うのではなく、『らい予防法』を施行し、患者を隔離するという政策をとった。要するに国のお墨付きで患者の隔離が進められたのである。

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