英国の名宰相チャーチルが没してきょうで50年。数々の警句名言を残したが、「鉄のカーテン」はよく知られる。ソ連や東欧など共産圏の秘密主義や閉鎖性をさす表現で、かつての中国に対する「竹のカーテン」といった様々な模倣も生んだ▼このカーテンは何に例えたらいいのか。シリアとイラクの国境をまたぐ一帯が不気味な幕で囲われ、内実は容易にうかがい知れない。過激派組織「イスラム国」の支配地域は両国の約3分の1ともいわれ、手もとで電卓を叩(たた)くと、本州の東北から近畿地方までの面積にざっと相当する▼もれ伝わるのはおぞましい情報ばかりだ。異教徒の女性を奴隷にし、男性は虐殺する。あるいは住民の公開処刑。遺体は見せしめのために何日も放置されたという。文字にするのもつらい▼凶暴なこの「国」のどこにいるのか。きのう午後と政府が判断した日本人人質2人の身代金の期限が、じりじりと過ぎた。政府の交渉がカーテンを越えて届いているのかも、判然としてはいない▼名言家チャーチルはこうも語っている。「悲観主義者はすべての好機の中に困難を見つけるが、楽観主義者はすべての困難の中に好機を見いだす」。とても楽観などできない。しかし悲観も諦めも禁物だ▼きのうは金曜、イスラムの集団礼拝日だった。日本に住む信者たちはモスクで人質の解放を祈った。ほんの一握りを除く世界の信者はテロとは無縁なことを、当たり前の認識としたい。憎悪も排除も、あってはならないと。