作品紹介→夫婦は、りんごの村の禁忌を破った:田中相「千年万年りんごの子」1巻
田中相「千年万年りんごの子」(2)
土葬するんだろ
僕は君を
■2巻発売しました。
六十年前に絶やしたはずの祭儀の復活により朝日は、おぼすな様という土着神の妻となった。りんごの市場価値の暴落により、"一挙更新”を迫られる村で陸郎から村の言い伝えを聞いた雪之丞は、朝日を連れて東京に戻る決断をするが……!?
〜雪之丞の変化〜
やはり昨年末のムック本では上位に推されていましたね。そして満を持して、2巻発売となりました。楽しみにしていたのですが、期待通り、面白かった!
今回はおぼすな様に祝福を受けて以降のお話。1巻とは異なり、最初からじっくりと「おぼすな様」相手に物語を進めていきます。どうにかして朝日を救おうと画策する雪之丞ですが、村の者たちはみな口を噤んで、「おぼすな様」について話してくれません。それでは何の手の打ちようもないと、雪之丞は“朝日を連れて東京へ逃げる”という選択を取ることにしました。
「立ち向かう」と決めた矢先の「逃げ」。もちろん“なんとかしたい”という想いが根底にあっての行動で、これまでの“諦め”とはその性質は全く違うものではありましたが、やはり逃げは逃げでありまして。東京に来ることで「やりすごす」という構えは、やはり朝日を救うには不十分のようでした。東京の彼らに届いたのは、村の子どもである花が神隠しにあったという報。このままこちらに残ってほしいという雪之丞を制して、朝日は村に戻ることにするのでした。
おぼすな様の禍福は朝日個人に降りかかるものではなく、村人全体に降りかかるもの。村に戻ると同時に、おぼすな様の祝福を受けたことは村中に知られ、これを機に“ムラ社会”の匂いがより強くなっていきます。土着信仰とムラ社会、この二つの壁が雪之丞に大きく立ちはだかる構図に。おぼすな様はもちろん大きな壁なのですが、この閉鎖的なムラ社会というのがかなりやっかいで、雪之丞は早速こちらで悪戦苦闘するのでした。動きたいのに、動けない、動き方がわからない。このやきもき感がスゴい。物語は終始、静かながら緊張感のある雰囲気となっています。
〜束の間の幸せ〜
そんな空気の中、束の間の休息とでもいいますか、穏やかに時間が流れるシーンが描かれ、とても印象に残っています。それが、東京に逃げてからの数日間。これまで夫婦らしい仲睦まじい描写がなかったのですが、ここに来てニヤニヤなシーン連発。雪之丞のこれまで見えてこなかった一面が、どんどんと見えてくるようになります。

いちいち赤面する雪之丞と、あくまで自然体で接する二人が正反対で面白い。無邪気に手を握ってしまう朝日さん、かわいいです。
一層夫婦としての絆を強めた二人、雪之丞にとって朝日は、ただの「必要な人」ではなくなっていました。なんとしても守り通したい相手。それは朝日もまた同じ想いであるはずで、結果離れて会わないという選択肢は取ったものの、これも雪之丞のことを想ってのことなのでしょうか。抗いようのない力の前で、引き裂かれる二人の姿を見るのは、本当に切ないものがありました。
〜3巻以降、希望の光は?〜
さて、雪之丞からしたら、全くと言って良い程希望が見られなかった2巻。雪之丞は、一度絶やした方法について目をつけたようです。陸郎の協力を経て、3巻では少しは詳しいことはわかるのか。個人的に気になるのは、朝日がどのようにして連れて行かれるのかということ。1巻の陸郎の回想にありますが、現在はオネリの際に捧げるのは主に食べ物のよう。オネリの日の正午になると、成っていたりんごはすべて土になり、供物もまた土になっていました。人もまた同じように、土になるというのでしょうか。でもこのペースで小さくなれば、オネリの日には赤ん坊のような小ささになってしまいそうですが…。
正攻法ではいけないとわかっている以上、村で言う“禁”を冒して進むルートになるのかと思いますが、どんな未来が待っているのやら。きっと辛い未来なんだろうなぁ。きっと2巻以上にのめりこんで読むことになると思います。3巻発売は来年の3月ということで、いまから待ち遠しいっ…!!
■購入する→Amazon
土葬するんだろ
僕は君を
■2巻発売しました。
六十年前に絶やしたはずの祭儀の復活により朝日は、おぼすな様という土着神の妻となった。りんごの市場価値の暴落により、"一挙更新”を迫られる村で陸郎から村の言い伝えを聞いた雪之丞は、朝日を連れて東京に戻る決断をするが……!?
〜雪之丞の変化〜
やはり昨年末のムック本では上位に推されていましたね。そして満を持して、2巻発売となりました。楽しみにしていたのですが、期待通り、面白かった!
今回はおぼすな様に祝福を受けて以降のお話。1巻とは異なり、最初からじっくりと「おぼすな様」相手に物語を進めていきます。どうにかして朝日を救おうと画策する雪之丞ですが、村の者たちはみな口を噤んで、「おぼすな様」について話してくれません。それでは何の手の打ちようもないと、雪之丞は“朝日を連れて東京へ逃げる”という選択を取ることにしました。
「立ち向かう」と決めた矢先の「逃げ」。もちろん“なんとかしたい”という想いが根底にあっての行動で、これまでの“諦め”とはその性質は全く違うものではありましたが、やはり逃げは逃げでありまして。東京に来ることで「やりすごす」という構えは、やはり朝日を救うには不十分のようでした。東京の彼らに届いたのは、村の子どもである花が神隠しにあったという報。このままこちらに残ってほしいという雪之丞を制して、朝日は村に戻ることにするのでした。
おぼすな様の禍福は朝日個人に降りかかるものではなく、村人全体に降りかかるもの。村に戻ると同時に、おぼすな様の祝福を受けたことは村中に知られ、これを機に“ムラ社会”の匂いがより強くなっていきます。土着信仰とムラ社会、この二つの壁が雪之丞に大きく立ちはだかる構図に。おぼすな様はもちろん大きな壁なのですが、この閉鎖的なムラ社会というのがかなりやっかいで、雪之丞は早速こちらで悪戦苦闘するのでした。動きたいのに、動けない、動き方がわからない。このやきもき感がスゴい。物語は終始、静かながら緊張感のある雰囲気となっています。
〜束の間の幸せ〜
そんな空気の中、束の間の休息とでもいいますか、穏やかに時間が流れるシーンが描かれ、とても印象に残っています。それが、東京に逃げてからの数日間。これまで夫婦らしい仲睦まじい描写がなかったのですが、ここに来てニヤニヤなシーン連発。雪之丞のこれまで見えてこなかった一面が、どんどんと見えてくるようになります。
いちいち赤面する雪之丞と、あくまで自然体で接する二人が正反対で面白い。無邪気に手を握ってしまう朝日さん、かわいいです。
一層夫婦としての絆を強めた二人、雪之丞にとって朝日は、ただの「必要な人」ではなくなっていました。なんとしても守り通したい相手。それは朝日もまた同じ想いであるはずで、結果離れて会わないという選択肢は取ったものの、これも雪之丞のことを想ってのことなのでしょうか。抗いようのない力の前で、引き裂かれる二人の姿を見るのは、本当に切ないものがありました。
〜3巻以降、希望の光は?〜
さて、雪之丞からしたら、全くと言って良い程希望が見られなかった2巻。雪之丞は、一度絶やした方法について目をつけたようです。陸郎の協力を経て、3巻では少しは詳しいことはわかるのか。個人的に気になるのは、朝日がどのようにして連れて行かれるのかということ。1巻の陸郎の回想にありますが、現在はオネリの際に捧げるのは主に食べ物のよう。オネリの日の正午になると、成っていたりんごはすべて土になり、供物もまた土になっていました。人もまた同じように、土になるというのでしょうか。でもこのペースで小さくなれば、オネリの日には赤ん坊のような小ささになってしまいそうですが…。
正攻法ではいけないとわかっている以上、村で言う“禁”を冒して進むルートになるのかと思いますが、どんな未来が待っているのやら。きっと辛い未来なんだろうなぁ。きっと2巻以上にのめりこんで読むことになると思います。3巻発売は来年の3月ということで、いまから待ち遠しいっ…!!
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