欧州中央銀行(ECB)が導入を決めた量的緩和政策はデフレ危機に対応した異例の金融政策だ。すでに実施した日米英とは異なり、十九カ国が加盟する寄り合い所帯のため効果は未知数だろう。
景気低迷と低成長、そして物価下落が続くデフレ危機から欧州は「日本化」が懸念されてきた。そこへ原油大幅安が加わり、ユーロ圏の昨年十二月の消費者物価は前年同月比で0・2%下落、とうとう五年ぶりにマイナスになった。
ECBの政策金利はすでに0・05%で、さらなる引き下げ余地はない。金融機関向けの低利融資などの緩和策は実施済みで、とり得る追加緩和策は国債を買い取って市場に大量のお金を流す「量的緩和」しかなかったのが実情だ。
問題は、自国の国債を買えばよかった日米などとは違い、財政状況も景気もばらばらな国々の集合体なだけに「どの国の国債をどれだけ買うか」「買い取った国債で損失が出た場合、誰がどう負担するか」という点にあった。
結局、三月から各国の国債などを月六百億ユーロ(約八兆円)買い入れ、購入する国債の額はECBへの出資比率に応じて決めることになった。だが、これでは効果は限定的だろう。出資比率が最大のドイツの国債が多く買われる一方で、財政難や景気低迷が著しいギリシャなど南欧諸国の国債購入が少なくなれば、そうした国の金利は低下しないためだ。
国債価格が下がってECBに損失が生じた場合は、損失の二割は全加盟国で対応、八割は国債を発行した国の中央銀行が負うことにした。これも中銀の負担がその国の財政に影響するなら、本末転倒になりかねない。
ECBの狙い通りにユーロ圏の金利が低下し、株高やユーロ安となって景気好転と物価上昇につながれば、日本をはじめ世界経済にとってもプラスになる。
しかし、ECBの決定を前に中国が懸念を表明したように、日米に続く大規模金融緩和はマネーの流れを不安定化させ、新興国経済などに打撃を与えかねないのも事実である。
米国の量的緩和政策の終了、いわゆる出口戦略はようやく昨年十月から慎重を期して進められている。日本では思ったように物価が上昇せず、物価目標の達成時期は先送りされた。政情不安のギリシャという不安材料を抱える欧州も前途は多難で、政策効果や副作用への十分な目配りが求められる。
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