社説:欧州も量的緩和 不安抱えた歴史的決定
毎日新聞 2015年01月24日 02時32分
欧州中央銀行(ECB)が量的金融緩和の導入を決めた。日銀や米英の中央銀行が、国債を大量に買い入れて市場にお金を供給する量的緩和を実施する中、一線を画してきたECBだったが、デフレ懸念が広がり、毎月600億ユーロ(約8兆円)の債券を購入する歴史的決断をした。
ユーロ安が一段と進み、株価が上昇するなど、市場はひとまず好感している。だが、政策が効果を発揮し、ユーロ圏経済の成長率を押し上げられるかどうかは不確かだ。これまでの緩和策の結果、ドイツをはじめ各国の金利は歴史的水準まで下がっており、追加的な下落の余地は限られる。どこまで民間銀行による貸し出しを刺激するかわからない。
肝心なのは、ユーロ安、株高、そして原油安が持続している間、ユーロ圏諸国の政府が構造改革を本格的に実行するかどうかだ。期待したいが、金融緩和は痛みを伴う改革の先送りを許し、政治家の中央銀行頼みを一段と強めてしまうリスクを伴う。日本にも当てはまることだ。
一方、ECBの量的緩和が、欧州、さらに世界経済にとって波乱要因となりはしないか気がかりである。
量的緩和にはドイツが猛反対した。中央銀行が事実上、政府の借金を肩代わりすることへの長年の拒絶意識に加え、ECBが購入した他国の国債が大幅に値下がりし、自国民の税金で損失の穴埋めを余儀なくされる可能性が受け入れ難いのだ。
結果、損失が生まれた場合、その8割についてユーロ加盟各国の中央銀行が責任を負い、基本的に他国の放漫財政のツケが回ってこないような仕組みをこしらえた。
19カ国の寄り合い所帯ならではの苦労だろうが、リスクも含め通貨の命運を参加国全体で分かち合う単一通貨の基本精神とそぐわない。一方、損失を遮断したように見えても、いざ債務の返済難に陥りそうな国が出たら、救済に乗り出さないではいられないとの指摘もある。
今回の決定をめぐって生じたECB内の亀裂がユーロ圏内の市民や政治家を巻き込んだものへと深刻化しないよう努めてもらいたい。
米国が量的緩和を終了したとはいえ、世界にはすでに巨額のマネーがあふれている。ECBの量的緩和により放出される大量の資金が加わって、原油や為替、株式など世界の市場で相場の変動が一段と激しくなる恐れもあり、警戒が必要だ。
ユーロを採用していない、スイスなど周辺国の為替相場や、新興国の経済政策には、すでに影響が及んでいる。主要国(経済圏)の政策当局者は、世界経済全体を安定させる責務も負っていることを忘れてはならない。