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実質2000円で国産PCが手に入る!? 長野県飯山市に「ふるさと納税」してみた
(2015/1/24 10:00)
今週は、Windowsに関して大きなニュースがあった。Microsoftが発表した「Windows 10」への無償アップグレードもそうだが、本誌記事のページビュー(1月23日現在)あるいは記事に対するツイート数的には、それよりも注目を集めたニュースがある。
長野県飯山市が、「ふるさと納税(ふるさと寄附金)」をした人への特典として、株式会社マウスコンピューターのWindows PC製品などをラインナップに加えた――という記事である(1月21日付記事『長野県飯山市、「ふるさと納税」特典にマウスコンピューター製PCやiiyamaの液晶ディスプレイ』)。
恥ずかしながら筆者はふるさと納税という制度についてきちんと理解していなかったので、なぜそれほど注目されるのか分からなかったが、これを機に実際にふるさと納税などしてみて、なるほどと思った。本記事では、今回話題となった飯山市のふるさと納税などに関して取材しつつ、ふるさと納税未経験者の筆者がインターネット経由で飯山市にふるさと納税してみた流れをレポートしたい。
ふるさと納税とは?
ふるさと納税の制度は、どこかの自治体へ寄付をすると、そのうち2000円を超える分が、寄付者の所得税と住民税が控除されるというものだ。例えば1万円を寄付したとすれば、その年の所得税および翌年の住民税から計8000円が減額される。
要は、通常であれば自分が住んでいる自治体に納めることになる税金について、その一部をほかの地域の自治体に納めるようなイメージだ。ふるさと納税ポータルサイト「ふるさとチョイス」によると、「地方間格差や過疎などによる税収の減少に悩む自治体に対しての格差是正を推進するための新構想」として、2008年に創設された。
なお、名称に「ふるさと」と付いているが、特に自分の出身地に限定されるわけではない。何か応援したいことがある自治体など、どこの自治体への寄付も同制度の対象となる。
寄付者が税金・寄付で支払う総額が減るわけではないのだが、ふるさと納税をしてくれた人に送られてくる特典が“魅力”であるらしい。多くの自治体において、地域の特産品など、豪華な特典を用意しているというのだ。
飯山市の場合もそうだろう。今回ラインナップに追加されたマウスコンピューター製品としては、2万円以上3万円未満の寄付した人への特典として、21.5インチの液晶ディスプレイ「iiyama E2278HD-GB2」がある。
マウスコンピューターによれば、同製品の実勢価格(税別、以下同じ)は1万6950円。仮に2万円を飯山市に寄付してこれをもらったとすると、1万8000円は自身の所得税・住民税から控除されるわけだから、実質2000円で1万6950円の液晶ディスプレイが入手できることになる。
このほか、4万円以上5万円未満の寄付では、8インチ液晶搭載のWindowsタブレットPC「WN801V2-BK」(実勢価格2万3800円)、10万円以上20万円未満の寄付では、15.6インチ液晶搭載のノートPC「LB-F511B-IIYAMA」(同等モデルの実勢価格6万5800円)やタワー型PC「LM-iH301S-IIYAMA」(同等モデルの実勢価格5万7800円)がラインナップされている。同様に、これらの製品が実質2000円で入手できるわけだ。
そんなわけで、本誌はじめIT系ネットメディア各誌がこのニュースを取り上げたことで、飯山市へのふるさと寄付金の申し込みが急増。23日の時点で、特典でタブレットPCのWN801V2-BKを選択した申し込みは420件に上り、品切れとなって受け付けを停止中だ。再開は4月中旬ごろになるとしている。
また、液晶ディスプレイのE2278HD-GB2も、23日夕方時点で340件の申し込みがあり、予想を上回る反響に驚いているという。
同じ2000円ならば、実勢価格がより高価なノートPCやタワーPCに申し込みが殺到しそうなものだが、そうならないのには理由がある。控除には上限が規定されいるため、これらのPCがもらえる最低ラインの10万円を寄付し、そのうち9万8000円全額が控除で戻ってくるとは限らないためだ。
この上限は、翌年の住民税の1割程度とされている。総務省が公開している資料によると、例えば独身で年収600万円の人の場合、全額控除される寄付金の目安は4万3000円。すなわち、飯山市に4万円寄付をしてタブレットPCを入手した場合は3万8000円全額が戻ってくるが、10万円を寄付してノートPCもしくはタワーPCを入手した場合には9万8000円全額が戻ってくるわけではない。9万8000円全額が戻ってくるのは、年収が1000万円を超えるような人になる。
なお、2015年度の税制改正の大綱として、この上限を1割から2割へと2倍に引き上げることが盛り込まれている。また、現行では控除を受けるためには寄付をした翌年に確定申告を行う必要があるが、この手続きを簡素化する「ふるさと納税ワンストップ特例制度」を創設することも大綱には盛り込まれているが、いずれもまだ確定したものではない。
PCは飯山市の“特産品”
「ふるさとチョイス」では、各自治体のふるさと納税の情報を広く掲載しており、地域などから横断的に検索できるようになっている。同サイトを運営する株式会社トラストバンクによると、全国には約1800の自治体があるが、特産品などを特典として用意し、積極的にふるさと納税をプロモーションしている自治体が1000以上あるという。
実際のところ、特典の内容はふるさと納税の集まり具合に大きく影響するらしい。例えば飯山市が公開している資料によれば、2013年度のふるさと納税の実績は2378件・7044万2203円だった。2012年度の62件・1312万5100円から、件数・金額ともに大きく増えている。
2012年度までは特典といっても「定価1000円程度のキノコセット」だったが、それを2013年度にお米などに切り替えたこと、同時にふるさとチョイスに情報を掲載して手軽に申し込み・支払いができるようにしたことで効果が出た。これに加えて、全国的に“特典合戦”が加速し、ふるさと納税自体の認知が拡大したこともある。
さらに2014年度は、すでに4億円程度がふるさと納税で集まっており、前年度の5倍を突破。そして今回のマウスコンピューター製品の追加により、2014年度末までには4億2000万円程度になる見込みだ。
なお、ふるさと納税では、寄付金の使い道を寄付者が指定できる点も特徴だが、寄付した全額がその通りに活用するのは難しい場合もあるようだ。
以前は、特典の調達コストは自治体の一般予算から捻出し、ふるさと納税で入った寄付金については、その全額を寄付者の指定どおりの使途に充てていたという。しかし、これだけ特典が豪華になり、寄付金が年間数億円にも上る規模・件数になると、特典を調達するコストも相当なものだ。小さな自治体ではそのための予算を別途捻出するのは難しい。寄付実績の大きい自治体では、寄付金の中の一部を特典の調達に回し、残りを本来の使途に充てるといった運用にならざるを得ないとという。
ちなみに、なぜ飯山市のふるさと納税の特典がマウスコンピューター製品なのかというと……
「当初、特産品である『美味しいお米』や宿泊券を特典として扱うことにより、飯山市の美味しい食べ物を知っていただいたり、飯山市に訪れてもらうことを目的としていました。この度、3月に新幹線が開業することを記念して、新たな特典が追加できないかと検討したところ、市内で製造しているマウスコンピューター製品をPRできればと思い、追加したという経緯です。」(飯山市企画財政課)
ノートPCのLB-F511B-IIYAMAとタワーPCのLM-iH301S-IIYAMAが、マウスコンピューターの飯山工場で製造されている「made in 飯山」モデルだ。また、タブレットPCのWN801V2-BKと液晶ディスプレイのE2278HD-GB2についても、同工場ではないが、飯山市内で製造されているものだという。
なお、ノートPCとタワーPCの2製品は「-IIYAMA」が付いた専用型番だが、マウスコンピューターによると、管理上の理由から付けたものであり、それぞれ市販製品の「LB-F511B」「LM-iH301S」と同じ構成のモデルだとしている。
現在、ふるさとチョイスで検索してみると、ふるさと納税の特典としてPC製品を用意しているのは飯山市のみ。ほとんどのPC製品が海外生産となる中で、PC製品を地域の“特産品”としてラインナップできるところは限られるようだ。
オンラインで申し込み・支払いまで完結する自治体も
ふるさと納税を行うには、各自治体がウェブサイトなどで提供している情報を調べて、それぞれの自治体に申し込むのが基本だが、ピンポイントで寄付先の自治体を決めているのでなければ、前述のふるさとチョイスなどの横断情報サイトで探すのが便利だ。各自治体のサイト内で該当する情報を探す手間も省けるし、あるいは、自分の知らない自治体も含め、寄付金の使途から検索することもできる。
さらには、制度の趣旨からすると本末転倒のような気もするが、特典内容で細かく検索したり、オンライン申し込み&クレジットカード支払いに対応しているかどうかといった面での検索も可能だ。
トラストバンクによると、ふるさとチョイスに情報を掲載している自治体のうち、オンライン申し込みの入力フォームを使っている自治体は約200。そのうちクレジットカードによるオンラインでの支払い手続きまで行える自治体が約180あるという。
飯山市はこの180自治体のうちの1つなので、申込書のPDFをダウンロードして記入したものを郵送あるいはファックス……といったわずらわしい作業をすることなく、オンラインでほぼワンストップで手続きを完了できる。以下、具体的な手順を見ていこう(飯山市に限らず、オンライン申し込み&カード支払いに対応しているところは同様)。
「ふるさとチョイス」は会員登録なしでも利用可能
「ふるさとチョイス」からのオンライン申し込みに対応している自治体のページには、「この自治体に寄附を申込む」というリンクがある。ログイン画面が表示されるが、会員登録なしでも利用可能だ。ちなみに、「ふるさとチョイス」の会員登録をすれば、お気に入り登録や履歴管理、オンライン申し込み時の住所自動入力などが使える。
申し込みフォームの入力
申し込みフォームには、氏名、メールアドレスや住所などの連絡先のほか、寄付金額や振込方法、希望する特典などを入力する項目がある。特典の送付先を、別に指定することも可能だ。
寄付金の使い道については、飯山市の場合、北陸新幹線開業にともなう飯山駅前整備事業、飯山市文化交流館整備事業、自然などの景観整備事業、教育・福祉事業、指定なしの5項目から選べる。
特典はプルダウンメニューから選択可能。なお、PCなどについては申し込みを受けてから製造となるため、キャンセルは不可。
「Yahoo!公金支払い」でのクレジットカード払い
振込方法でクレジットカード払いを選ぶと、ヤフー株式会社の「Yahoo!公金支払い」のページに移動し、そこでカード情報を入力して決済をする流れになる。ただし、Yahoo! JAPAN IDを持っていれば、同IDでログインすることで、「Yahoo!ウォレット」に登録されているカード情報が自動で反映される(手動で別のカード情報を入力することも可能)。
ほかにもYahoo! JAPAN IDでログインすることで、そのIDで貯めてあるTポイントをYahoo!公金支払いでの支払いに充当できるというメリットもある。
申し込みおよびYahoo!公金支払いの手続きが終了すると、ふるさとチョイスとYahoo!公金支払いからそれぞれ受付完了・支払い手続き完了のメールが届く。あとは、特典および確定申告の際に必要になる受領書が届くのを待つだけだ。
まるでオンラインショッピング感覚の手軽さだが……
以上、実際にふるさと納税を行ってみて感じたのは、オンラインで申し込み・支払いまで行える自治体であれば、わずらわしい紙の書類のやり取りなど一切不要で、さらにポイントを支払いに充当することもできるなど、かなり手軽に利用できるということだ(実際、クレジットカード支払いに対応しているかどうかで、コンバージョン率に3倍もの開きがあるらしい)。それだけに、各地の特産品を格安で購入できるオンラインショッピングのような感覚に陥ってしまわないよう(税制改正で上限が拡大すればなおさらだ)、ふるさと納税・寄附金の意義を考えなら利用する必要があるだろう。
最後に、実際に届いた飯山市の“特産品”の開封の儀で記事を締めくくりたいところだが、発送までには最大1カ月かかるとのことで、本記事はここまで。特典が到着後、機会があれば追記などで報告したい。
URL
- 悠久のふるさと飯山応援金(ふるさと納税)
- http://www.city.iiyama.nagano.jp/soshiki/kikakuzaisei/jyohokanri/ouen.htm
- ふるさとチョイス
- http://www.furusato-tax.jp/
- 株式会社マウスコンピューター
- http://www.mouse-jp.co.jp/
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