ボンタイ

社会、文化、若者論といった論評のブログ

「街ブラ番組」がイカれている問題

 TBSの「ぴったしカンカン」を見ていたら内容に驚いた。

 ゲストの大竹しのぶがカレー店でグリーンカレーを食べていたのだが、次のシーンではロケバスに乗ってなぜか月ぎめ契約の集合住宅の物件紹介を受けていて、さらに鍋料理を食べていた。

 めぐる店舗の関連性に脈略がなさすぎるのだ。

 

  今の地上波テレビには、以前は「王様のブランチ」にしかなかったような街ブラ企画がやたら多いのだが、内容がとてもおかしなことになっている。

 本来ならこの手の番組は、ゲストタレントが住み慣れた地元を案内する企画だったり、「絶品ラーメン屋特集」のようにジャンルごとに特化した店が主流だった。だが、いまの街ブラ番組は、脈略のない店めぐりが多い。新宿の家具屋に居たかと思えば、築地で寿司を食っている。さらに渋谷で家電を見て、日暮里で焼き鳥で一杯やり、品川でディナーをやっている。

 そのめぐる店すべてに一貫性がない。タレントゆかりの地域でもなく、出演者全員が知らない店で、特に欲しいものがあるわけでもない。そして、同じような店めぐりは視聴者には絶対できない。ロケバスのような特別な足がないし、胃袋にそんなに食事は入りきらない(たぶん、あれほど食事を繰り返しているタレントは出されたメニューをほとんど残していると思う)王様のブランチもはしのえみの「女王様シリーズ」が終わったらメチャクチャな企画が横行している。

 

 考えたら、今の東京は「街ブラ番組」が成立しないという問題があるのではないだろうか。

 以前に比べ地域の個性的な店舗は減っている。10年前と比べ、明らかにチェーン店が増えている。でも、都心回帰で人口は増えている。「その街にしかなかった文化」が次々とナチュラルローソンスギ薬局やアパート・マンションに変貌し、既存の住民もそうしたチェーン店の配下におさまってしまっている。どの駅前も等しくチェーン店がそろっているため、「雑貨を買いに下北沢に行く」とか「家電を求めに秋葉原に行く」ような必要がなくなっているんではないだろうか。

 東京在住だとそれが当たり前なので不自然はないのかもしれないが、私たち神奈川県民は「わざわざ都内に行く用事」が年々減っていることに薄々気づいている。そこにしかない文化というものがなく、ただの生活空間しかない場所に、満員電車に揉まれて数十分もかける必要があるだろうか。もはや日本橋と、東京駅の地下街と、西葛西のインド人街くらいしか価値ある体験の出来る街は都内にはないと思う。

 そりゃあ「街ブラ」番組は破綻してしまうのだ。

 

 ちなみに雑誌界では「東京1週間」は2008年に、「ぴあ」は2011年に廃刊となり、都内を範囲とする地域情報誌は東京ウォーカーしかない。毎号発刊する東京情報誌が成り立たなくなったのは、つまり街文化が衰退したからではないだろうか。

 

 マイルドヤンキー論とかファスト風土論の広告代理店出身のポストモダン論客は「地方の全国チェーン店化」問題を専門にしているが、いまはむしろ東京の方が問題だろう。20代半ば以下の平成生まれの若い世代であれば、都民であってもチェーン店に特化した人が多いのではないか。むしろ、彼らからすればチェーン店こそ新鮮なわけで、そうやって都心に「北関東色」が浸食しているのではないかと思う。「オラが村のないものねだり」で茨城県民とか埼玉県民が原宿に集結すると、却って生粋の都民はそうした地域を敬遠するようになり、中野とかで「サブカル被れないありのままの暮らし」をしたりしているんじゃないかと思う。