欧州中央銀行(ECB)が、国債などを買って市場に大量のお金を流す量的金融緩和に乗り出すことを決めた。昨年12月のユーロ圏の物価上昇率がマイナスに落ち込み、デフレを回避する必要があるからだ。しかし、金融緩和は時間稼ぎの性格が強い。加盟各国は成長を支える他の政策手段も講ずるべきだ。

 量的緩和は日米英の中央銀行が採用している。ECBは昨年6月に「マイナス金利」という奇策を導入しながら、量的緩和は見送ってきた。ユーロ圏の特殊な事情があるからだ。

 ユーロ加盟19カ国はそれぞれ国債を発行しており、その信用力もバラバラだ。様々な国債をどう買うべきなのか、日米英とは異なる難題があり、加盟国の賛否も割れてきた。

 3月に始める量的緩和では、ECBへの出資比率に応じて各国の国債を購入。国債購入で損失が出たら2割をECB、残りの8割を各国の中央銀行が負担する。ギリシャなど財政事情が特に悪い国は、財政再建の公約を守ることなどを国債購入の条件にし、ECBがギリシャ財政をまかなうような形にならない歯止めを設けた。

 国債などの買い入れ額は月に600億ユーロ(約8兆円)。期間は来年9月までだが、消費者物価上昇率が目安とする「2%弱」に届く見通しが立たなければ、その後も続ける。

 量的緩和が欧州経済にどんな効果をもたらすのか。

 まず、ユーロ安にはなりやすく、ドイツなどの輸出企業には追い風にはなる。輸入品の価格が上がり、物価全体を押し上げる可能性もある。

 しかし、ECBが供給する資金が、企業などに流れて投資に結びつくのか、その点は不透明だ。特に企業の資金繰りが厳しい南欧は、ECBへの出資比率がドイツなどに比べて小さく、今回の緩和によるお金は回りにくい事情もある。

 景気を回復させるうえで、金融緩和には限界があることは、日本の経験からも明らかだ。日本の大規模な緩和も、他の経済政策とのセットになっている。

 ユーロ安の恩恵を受けている間に、欧州経済の課題とされてきた労働市場の改革などに各国は取り組まなければならない。財政で景気を刺激することも必要になるだろう。

 同時に財政規律にも配慮しなければならない。量的緩和(中央銀行の国債大量購入)をやめるには、各国の財政が健全で債券市場が落ち着いている必要がある。政策を始める際には「出口」も見通しておくべきだ。