海外のブログなどを読んでいてよく出てくる言葉に、「calling(コーリング)」という単語がある。
研究社の新英和中辞典によれば、
*天職; (神の)お召し. 職業.
*〔職業・義務・活動などに対する〕強い衝動,欲求; 性向 〔for〕.
などと訳されているが、じつはぴったりとくる日本語はないように思う。
たとえば、「ある人がcallingに導かれて、あるいは突き動かされて、ある活動や仕事をはじめ、人生でそれを成し遂げることを自分の使命とした」というふうに語られるとき、「calling」を「天職」とおきかえても、「強い衝動」とおきかえても、しっくりとこない。「夢」という言葉に置き換えても、違和感は大きくなるばかりだ。
「calling」とは、たぶんこういうことだ。
人はそれぞれ、さまざまな資質をもって生まれてくる。そして、その資質や、あるいは後の経験から、その人が人生でなすべき使命が形作られる。
その使命を果たすことは、とりもなおさず、他者を助けることであり、社会に貢献することである。
本来、人は、自分の人生を懸命に生きれば、その人それぞれの「calling」が醸成されるものだ。
「calling」に導かれて仕事をすれば、その人の才能や経験がもっとも活かされ、その人の人生は輝く。また、社会に与える良いインパクトも最高に大きくなる。
「calling」とは、人をそういった仕事、アクションに向かわせる、強い内的衝動のことを指している。
さて、いまさら、なぜこんな話かというと、いつも読ませていただいているビジネス・ライターのGeoffrey James さんが、珍しく、自分が「calling」に導かれて、ライターになった経緯を書いておられ、その記事が胸に刺さったからだ。
How to Do What You Love for a Living(あなたの大好きなことを仕事にするためには)
いつものように読みやすい英文なので、英語がOKの方はぜひ原文にあたっていただきたいのだが、要約するとこんな話である。
4歳の時に最初の物語を書いた。8歳までには恐竜の出てくる手書きの新聞をつくった。14歳の時には、自分の考えを書いた新聞を発行していた。大学の時には最初のショートストーリーを出版社に売って300ドルを得た。小説も書き始め、ライターになるつもりだった。
だが、勇気がなく、その道を諦め、大企業に入った。その会社ではプログラミングとマーケティングを担当し、大きな実績を残した。よい報酬を得て、これ以上ないような成功を手にした。
ある日、ある本のすすめで、自分の「理想的な仕事の一日」を書いてみることにした。それは、その時、自分が過ごしている仕事の一日とは似ても似つかないものだった。
そのとき、自分はやはり「書く」仕事をするべきだと閃いたが、すぐには仕事を辞めることができなかった。安全な仕事、安定した収入を失うのが恐ろしく、その後、2年にわたって、その日のために貯金をし、休みの日を残しておいた。
そして、有名なライフコーチ、Tony Robbins氏のセミナーに参加した。そこで、火渡りをした。足の裏が焦げている!と感じながら、自分の人生の優先順位を入れ替えた。「安全」をリストのトップから外し「勇気」をそこにおいたのである。
翌週、仕事を辞めた。
フルタイムで書く仕事を始めた。1年目の収入はわずかなものだったが、やめなかった。そして、3年かからないうちに、以前の収入を超えるようになった。
いまでは、自分の書いたもので、多くの人達が「勇気づけられた」「成功した」と言ってくださる。それが自分にとって、もっとも嬉しいことだ。
ライターになるまえに、20年の時を要した。しかし、別の道にいた20年、ビジネスに捧げた20年があったからこそ、今、自分の書くものが、ほかの多くの人の助けになることができるのだ。
自分の好きな仕事をしたいと思っている人への私のアドバイスは、こうだ。
自分を信じて、勇気をもって飛び込め、諦めるな。
人生は1回きり。なりたい自分になれ。
だが、あなたが、やむなく何かほかのことをしている時間を、無駄な時間と思うのはやめなさい。すべてのことは、なりたいあなたになるための、必要な部分なのだから。
ほんとうに、勇気のいただける話だ。
彼のこの話を胸に刻みたいと思う。
僕も「書く」ことがやはり「calling」なのかと思うまでに、30年もの間、別の道を歩いていた。
このブログが契機となって、どうやら、もうすぐ本を出していただけるようだ。その本がもし、多くの人の助けになれば、また、次のもの、いま暖めている長編小説を書き上げて世に問うことも可能になるかもしれない。
ただし、僕の場合は、ビジネスの現場で、みんなとワイワイやることも、楽しくて仕方がない。たまたまかかわりができた、日本のテキスタイルとの付き合いも、やはり楽しい。
僕にはたったひとつの書くという「calling」だけでなく、複数の「calling」が宿っているように思えてならない。
さて、あなたの「calling」は?
いつの日にか、これを読んでくださっているあなたと、お互いの「calling」について語り合い、飲み明かすことができたら、最高だなと思っている。
photo by kate mccarthy