暴かれる金融無法地帯「トランスデジタル」の闇
老舗の「ハコ」企業が倒産。故高橋治則、黒木正博らグレー人種の勢ぞろいに、捜査当局は「しめた」とばかり…。
2008年11月号 DEEP
日本の証券市場が、事業実体のない「ハコ」と呼ばれる上場企業を道具に、無法な資金操作を繰り返すアウトローたちのクモの巣=ウェブ(Web)と化していることを、本誌は06年10月号(「『資本のハイエナ』相関図」)で報じた。
その後、このクモの巣に潜む鬼グモや毒グモたちは、検察・警察と証券取引等監視委員会が一体となった「掃討作戦」で排除されていった。今生きながらえているところも、手口はすっかり暴かれ、捜査当局とマスコミが常時監視しているから、もう割に合う商売ではない。
パーティーに小池百合子も
9月1日、そんな「ハコ」のひとつ――ジャスダック上場のシステム開発会社「トランスデジタル」が民事再生法の適用を申請して倒産した。直近の4年間で120億円以上も市場から直接調達しながら赤字を垂れ流し続けた会社だ。論評するに値しない企業なのだが、間際のドタバタは捜査当局の目を引いた。
倒産直前の8月7日、トランスデジタルは防衛省近くのホテルグランドヒル市ヶ谷で、同社が制作するスカイパーフェクTV!241chの新番組「ガンバレ自衛隊! 安全保障アワー」の制作発表会および披露パーティーを開催した。来賓は林芳正・防衛相(当時)、小池百合子・元防衛相、高市早苗・経済産業副大臣(同)ら防衛族が中心で、会場には400人が集まった。いったい、この政界人脈は誰が築いたのか。増資に政治家の思惑は働いたのか。
謎は尽きない。同社は7月11日、新株予約権(MSワラント)による50億円の資金調達を発表した。結局、調達できたのは28億3千万円だったが、それにしても手元資金が潤沢にありながら、8月末に1億円前後の小切手を2度も不渡りにしてしまったのはなぜなのか。
さらにMSワラントの譲渡を受けて権利行使、大株主となった連中のなかには「表裏」の世界に通じた、知る人ぞ知る大物が少なくなかった。公になった出資者名簿は壮観である。
歌舞伎町ビル火災事件のオーナーとして責任を追及されている瀬川重雄、短期の証券担保金融では右に出る者がない大物の永本壹桂、外車ディーラーから身を起こして金融の世界で成功した野呂周介(その後、株式に転換していないと名簿を訂正)……正体を見せることを嫌う彼らが、なぜ“カミングアウト”したのか。
こうした疑問を解消するには、トランスデジタルの歴史をさかのぼらなくてはならない。そこに「ハイエナ相関図」のルーツと言っていい人間模様が浮かびあがる。
トランスデジタルはコンピューター社会が到来する前の1969年、静岡県三島市で創業したベンチャー企業。システム開発や電算処理業務を請け負って躍進を遂げ、89年に株式公開した。
この先端技術企業がパソコン普及の波に乗り遅れて失速。その後、経営に深く関与したのがイ・アイ・イ・インターナショナルの総帥、高橋治則(82~83ページ参照)だった。2信組不正融資事件で東京地検特捜部に逮捕され、汚名をそそぐべく裁判闘争を続けていた高橋は、その豊富な人脈と茫洋とした人柄が「ハコ」を利用するマネーゲームの仕掛け人として最適と言えた。
05年7月、59歳の若さで高橋は急逝する。その時点で上場企業3社、国内外のゴルフ場、ホテル運営会社などを傘下に収め「復活」の足がかりをつかんでいた。だが、原資は怪しげな資本調達で得たもので、初期に資金を提供したのは間違いなく「日本エムアイシー」という社名だったころのトランスデジタルだ。
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