訪日外国人2000万人への課題
1月23日 13時35分
このところ、町なかを歩いていると、外国人旅行者の姿をよく見かけます。
それもそのはず。去年・平成26年の1年間に日本を訪れた外国人旅行者は1340万人余りに達し、過去最高となったのです。
外国人の旺盛な観光需要を取り込むことは、人口減少が進み、国内市場が縮小する日本の経済成長にとって欠かせません。
「観光立国」の実現に向けた現状と課題について、経済部の寺田麻美記者、京都放送局の三崎由香記者、名古屋放送局の松崎浩子記者が解説します。
『観光立国』に一歩近づく
日本政府観光局の発表によると、去年1年間に日本を訪れた外国人旅行者の数は、推計で1341万3600人。
これまでで最も多かった、一昨年・平成25年の1036万3900人を約304万9700人、率にして29.4%上回り、過去最高となりました。
このところの円安に加え、東南アジアからのビザの発給要件が緩和されたことや、去年10月から消費税の免税対象品目が拡大されたこと、さらに、羽田空港の国際線が大幅に増便されたことなどが背景にあります。
国や地域別に見ると、▽1位が台湾で前年より28%増えて282万9800人。▽2位が韓国で12%増えて275万5300人、▽3位の中国は240万9200人で、83%の増加は最も高い伸び率でした。
このほか、経済成長を背景にフィリピンやベトナムなど東南アジアからの旅行者も急激に増えています。
消費額も過去最高
これに伴い、外国人旅行者の消費総額も過去最高となりました。
その額、2兆305億円。
前年と比べて43%増えて、初めて2兆円の大台に乗りました。
これは、消費税免税の対象品目が拡大され、外国人の購買意欲が高まったことが大きく影響しています。
消費の内訳では、買い物代が7142億円で、これまで1位だった宿泊費を上回り、全体の35%を占めました。
国や地域別に見ると、中国が最も多い5583億円で前年の倍増となり、全体の4分の1を超える額を占めました。
中国からの旅行者の旺盛な買い物需要が消費総額を大きく押し上げる形となりました。
コスプレ気分?レンタル着物が人気
外国人観光客が急増している「千年の都」京都では、日本文化に気軽に触れることができるレンタルの着物店が人気を集めています。
京都市東山区の清水寺の参道に面したレンタルの着物店は、多いときで1日に200人の利用があり、そのうち約7割が外国人観光客です。
店がオープンした8年前から外国人の間で口コミで人気が広がり、最近は中国や台湾からの観光客が特に増えているということです。
1回のレンタルで着物を午前中から夕方まで1日借りて出歩くことができ、料金は着付けも含めて1人3000円から5000円となっています。
取材した日も中国や台湾の若い女性やカップルがひっきりなしに訪れ、華やかな着物を選んで写真を撮ったり、草履を履いて参道を散策したりしていました。
レンタル着物店の岡本奈津喜店長は、「外国人の方の利用は年々増えてます。毎年のように利用してくれるリピーターも出てきました。日本でのいい思い出を作ってもらえるように頑張っています」と話していました。
名古屋観光は身近な“あの場所”へ
外国人旅行者は名古屋市でも多く見かけるようになりました。
観光地としての知名度は東京や京都に比べて低いものの、この2つのエリアを結ぶ“ゴールデンルート”の中間地点で、しかも、伊勢神宮や古い町並みで知られる高山市の玄関口になっているため、立ち寄る人が増えているのです。
多くの外国人が訪れるのが市民が日常で使う場所です。
例えば、ドラッグストアです。インターネットであらかじめ日本の商品を調べて、お目当ての化粧品や薬を求めて来る人が多く、一度に数万円分を購入する人も珍しくありません。
食べ物では、回転寿司です。
名古屋市中心部にある店には、去年の夏ごろから外国人の客が急に増え始め、多い日には100人が来店します。
私が取材した土曜日の午後2時ごろには、カウンターの半分を外国人の客が占めていました。
自分の目で見て食べるものを選べるのが人気で、ニュージーランドの女子高校生は、「寿司がベルトコンベアーで回るのはおもしろい」と話していました。
中国のサラリーマンの男性は「日本では生の魚を安全に食べることができる」と喜んで、皿を積み重ねていました。
店員や板前は、英語や中国語だけでなく、タイ語やドイツ語などさまざまな国のことばで接客します。
また、なま物に慣れていないことに配慮して、火を通したりあぶったりしたネタを多く流すなど工夫を重ねています。
観光地だけでなく、暮らしに身近な場所でも、外国人を出迎えるさまざまな工夫をすることが当たり前になりそうです。
『観光立国』に向け課題も
東京オリンピック・パラリンピックが開かれる5年後の2020年に日本を訪れる外国人旅行者を2000万人に増やす目標が、現実味を帯びてきた印象を受けます。
しかし、受け入れ態勢には多くの課題があります。
外国人旅行者の訪問先は、東京、大阪、京都などを巡る、いわゆる「ゴールデンルート」と呼ばれる都市圏に集中。
急増したため、時期によってホテルの予約が困難になったり、貸し切りバスが不足したりする事態が起きています。
このため、外国人旅行者を地方に呼び込むことが大きな課題です。
観光庁は、複数の都道府県をまたぐ新たな観光ルートを提案し、地方の観光資源を売り込もうとしています。
また、外国人にとって旅行しやすい環境を整えることも重要です。
スマートフォンなどを使って観光情報を入手するには、無料で使える公衆無線LANの環境が不十分だという声が多いため、観光庁は、公衆無線LANを主要な空港と新幹線の停車駅で利用できるようにするとしています。
このほか、交通機関や観光施設の案内板に複数の言語を表示することや、外国人を観光案内する国家資格の通訳案内士を増やすことなども課題となっています。