社説:農協改革 農業再生の目的を貫け

毎日新聞 2015年01月23日 02時30分

 農協改革を巡る与党の議論が本格化してきた。全国農業協同組合中央会(JA全中)の地域農協に対する統制力を弱める安倍政権の改革案に、農林族議員らが強く反発する構図になっている。

 4月に統一地方選を控え、農協の集票力に対する配慮もうかがえる。しかし、肝心なのは国内農業の再生につなげることだ。政府・与党は目先の政治的思惑にとらわれて改革本来の目的を見失ってはならない。

 政府は、農協法に基づくJA全中の地域農協への指導・監査権を全廃し、経団連などと同じ任意組織に移行させることを目指している。一方、JA全中は指導・監査権を存続させる自己改革案をまとめ、真っ向から対立している。農協側は昨年末の総選挙で、多くの与党候補に対して政府案に反対する政策協定書を示し、囲い込みも図った。

 今週始まった自民党の議論では地域の生活や選挙への影響を心配し政府案に反対する意見が噴出した。公明党でも農協に配慮した意見が相次いだ。先の佐賀県知事選で与党推薦候補が、農協の政治団体が支援した候補に敗れた影響も大きいようだ。

 安倍晋三首相は農協改革を成長戦略の柱である「岩盤規制」改革の本丸に位置づけている。JA全中については「脇役に徹していただきたい」と述べ、改革実現への強い意欲を示している。しかし、その足元が揺らいでいる格好だ。

 政府がJA全中の統制力を弱めたいのは、法的権限に基づく画一的な経営指導が、地域の特性に応じた農業の展開を阻んでいるという認識があるからだ。JA全中は指導・監査権に基づいて年間約80億円の賦課金を集め、グループの方針を政策に反映させるための活動などに使ってきた。しかし、その方針が農業保護に偏り、農業の体力強化につながらなかったことは否定できまい。

 地域農協が農産物販売などで独自色を出そうとするのを妨げる指導もあるという。付加価値や生産性を高めた農業経営者が農協離れを起こしているのも、画一的な指導の限界を示しているといえる。JA全中の権限見直しは不可避だろう。

 もっとも、目指すべきは農協の弱体化ではない。国内農業を再生し、競争力を高めるために役立つ組織に改めることである。与党や農協は政治的な思惑や組織防衛の論理にとらわれず、議論を深めてもらいたい。

 政府は統一地方選前に農協改革を盛り込んだ農協法改正案を決め、通常国会で成立させる意向だ。「岩盤規制」に穴を開けるには、国民の後押しが欠かせない。そのためには政府が、農業強化につなげる道筋を分かりやすく説明する必要がある。

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