臓器提供を決断した両親の思い、訴えを、なぜ、社会に伝えようとしなかったのか。後味の悪い関係者の対応だった。命のリレーを理解し広めるためには、情報開示が欠かせないのではないか。
子どもからの臓器提供も認めた改正臓器移植法が施行されてから四年半。六歳未満の脳死判定、臓器提供は、今回がようやく三例目だった。
その女児は昨秋、重い心臓病が判明し、補助人工心臓を装着して心臓移植を受ける機会を待っていたが、今月に入り、人工心臓由来とみられる血栓が脳で血管を詰まらせ、入院していた大阪大病院で脳死となった。東海地方に住む両親は臓器提供を申し出、肝臓、肺などが各地で移植された。
関係機関のその後の対応に、紆余(うよ)曲折があった。
日本臓器移植ネットワークが記者会見で発表した両親のコメントは、翌日になって、一部削除されていたことが判明。さらに、女児の葬儀後、記者会見を予定していた両親に対し、大阪大病院が取材対応の自粛を要請した。
削除されたコメントは、補助人工心臓に関する部分だった。
両親が使用を希望していたドイツ製の小児用補助人工心臓は、日本では、まだ承認されておらず、やむなく大人用のものを調整して使っていた。削除部分には「国のほうに訴えかけましたが、なんの連絡もありませんでした」などと記されていた。
移植ネットは「両親、阪大病院と相談して治療の経過に関する部分は削除した」としているが、これでは、不都合な部分を隠していると疑われても仕方あるまい。
取材対応の自粛要請は、臓器提供側と移植患者側の情報が相互に伝わることがないよう、細心の注意を払うよう求めた移植法の運用指針に沿ったものだ。
一般に個人名が特定されると金銭問題につながりかねず、移植医療自体の不信を招く恐れがある、という考えに基づく原則である。
趣旨は理解できるが、個人情報秘匿を優先するあまり、ブラックボックスのような印象を与えてしまってはいなかったか。
両親のコメントには「移植や脳死に対して世間では何か隠されたイメージであることが、この医療が進まない一つの原因だと思います」とも記されている。
命のリレーが広く理解されることを願い、自分たちの思いを伝えたかった、という両親の思いを、しっかりと胸に刻まねば。
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