厚生労働省の審議会がまとめた公的年金制度の見直しに関する報告書は給付抑制の仕組み強化が柱で、高齢者に痛みを強いるものだ。高齢者の貧困が拡大する中、低所得者対策を急ぐべきだ。
報告書の目玉は給付を抑制する「マクロ経済スライド」の強化だ。年金額は物価や賃金の変動率に応じて、毎年改定されるが、同制度はその上昇分から少子高齢化を考慮した分(約1%)を差し引く仕組み。二〇〇四年改革で導入されたが、物価が下がるデフレ下では発動されないため、これまで実施されたことはない。
この仕組みをデフレ下でも実施できるようにするというのだ。物価が1%下がったら年金は2%減額する計算になる。
報告書は「将来世代の給付水準を確保する」という観点から、見直しの必要性を強調している。
だが、これは低年金の高齢者にとっては非常に厳しい。例えば、非正規労働者や自営業者らが加入している国民年金は基礎年金のみで、現在、四十年間保険料を払った満額でも月六万四千四百円。平均だと同五万五千円で、同四万円未満が五百万人余もいる。審議会でも「基礎年金を急激に下げるのは慎重であるべきだ」と危惧する意見が出ていた。
低年金対策の一環として検討されていたパートなど非正規労働者の厚生年金への加入条件緩和は、「さらに進める必要があることに異論はない」としながらも「企業負担も考慮すべきだ」と両論併記にとどめた。国民年金から厚生年金に移れば、収入が少ない人にとって保険料負担は減り、将来の年金額は増えるメリットがある。加入条件は一六年秋から一定緩和され、約二十五万人が新たに厚生年金の対象となることが決まっている。非正規労働者が全労働者に占める割合は38%に上る。制度改正を前倒しした上で、さらなる対象拡大を進めることが喫緊だ。
併せて、高所得者の基礎年金の国庫負担部分である二分の一を減額することや、年金課税の強化も検討されていたが、「議論は分かれている」として先送りを示唆している。
しかし、再分配機能を強化するため早急に結論を出し、低所得の高齢者への年金上乗せなどの原資に充てるべきではないか。
政府は来週召集される予定の通常国会に関連法案の提出を目指す。老後の生活を支える年金制度のセーフティーネット機能は強化されなければならない。
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