NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構 副理事長 伊賀公一
 
人が暮らす空間には多くの色があります。例えば、印刷物や、機器類、地図や道案内などでは、色を使うことでより早くより正確に情報を伝えます。今では色がついてないものを探すことが難しいほどです。そして目立つように、分かりやすいようにという目的で色を使うこともあります。色を決める人は、商品を使う人がどんな色の見え方をしているか知っていなければなりません。そして多くの人が自分と人の色の見え方は変わらないと思っています。
きょうは、人間の色の感じ方がそれぞれ違っていることと、そのことが知られていないために起こっている様々な問題について考えてみたいと思います。

今から150年ほど前、汽車の信号や軍隊の手旗信号などでは色の違いによる情報伝達が使われました。いろいろな色の組み合わせが検討されたようですが、鉄道会社や軍隊では赤と緑が同じ色に見える人を探し出して採用しない方法を選択しました。これが色覚検査の始まりです。スウェーデンの列車会社では職員の約166名中13人が該当したようです。
そして90年ほど前、日本でも陸軍・国鉄を頭にして色覚検査が始まりました。学校における一斉検査も翌年から始まり廃止されるまで80年間継続されました。日本のように学校で色覚の一斉検査をしている国はまれだったと言われています。
 
ここでいう色覚は遺伝的なものです。よく知られているのはかつて小学校で一斉検査に使われていた石原式仮性同色検査表です。
 
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この検査表で検査するとヨーロッパの白人男性では約12人に1人、北欧やフランスでは10人に1人、日本では男性の約20人に1人が赤と緑が同じ色に見えることがわかります。
このような人たちをかつては「色盲・色弱」「色覚異常」などと呼びました。現在は眼科や医学の世界ではこのような人たちを「色覚異常者」と呼び、行政などでは「色覚障害者」と呼んでいます。本人たちやご家族などに聞きますと、いずれの言葉にもあまり良い印象を持たれていないようです。ヒトの色覚型は人類の多様性の一つですから、ぜひとも差別感のない表現に変更してゆくことを期待します。
 私どもではそれぞれの色覚型の略称として、このような人たちを「P型色覚」「D型色覚」そして「正常色覚」を「C型色覚」と呼ぶことにしています。また、先天性後天性の色の配慮が必要な人たちを「色の弱者=色弱者」と呼ぶことを提唱しています。
 
 以前の学校検査はプライバシーへの配慮も低く同級生の前で検査表の数字を読み上げるというもので、ひらがなや数字が全く読めない、あるいは同級生と違うものが見えることが心的外傷になった人も多かったようです。そのためもあってか、日本では気軽に自分の色覚について他人に話せないような風潮が強いと思います。
色覚は男の子には母親から遺伝します。そういうことから、子どもの色覚のことをたいへん気にされる母親も多く、ご相談に来られたり、電話を受けたりします。こういうことも解決して行かなければならないことの一つです。
 
 以前は色覚によって進めない進路がたくさんありました。理科系大学、教員、銀行員、パイロット、バスの運転手、船のキャプテン、警察官、自衛隊、デザイナー、医師などに進むことができない時代がありました。現在それらの多くは改善されました。自動車免許はもう何十年も前から取ることができます。バスの運転手の制限もなくなりました。学校での一斉検査をやめて12年になり、成人した人たちの間には自分が少数派の色覚だという意識を持ってない人も増えました。
 いまもパイロットには色覚制限がありますが、アメリカではパイロットになることはできます。なぜ日本ではパイロットになれないのか。交通信号機の色の見分けと違うのか、何の色が見分けられないのか、ではその色を変えることはできないのでしょうか。そういう検討も必要ではないでしょうか。
 
ここで、色覚についての問題点を考えてみたいと思います。
まず、色弱者は、一般の人が配色による利便性を享受していることに気づいていないということです。一方で、色を決めるデザイナー側には色弱者が少なく、どう見えているのかが理解できていません。つまりお互いに人の世界は判らない、対策などないと思っている、より多くの人に見分けやすい色はない。白黒にしか見えない人もいるのだから色による判別は全くできないなどという誤解がまかり通っていると言えるでしょう。
では、どのように解決すればよいのでしょうか。まず、色の見え方が人によって違うことを広く知ってもらう、赤と緑が同じように見えるとされる人が20人に1人居ることを知ってもらう、どんなふうに分かりにくいのか知る方法を作る、といったことがあげられます。
情報伝達に色を使うことは、多くの人にとって遠くからでも分かりやすく、早く情報の分類やグルーピングができます。また重要な情報を目立たせることもできます。ところが人によって見分けやすい色は違います。それぞれにとって最も見分けやすい色は、必ずしも他の人にとって見分けやすい色とは限らないのです。

 視覚には全く視力のない方や弱視の方がありますが、ここでいうP型D型色覚の人は色の見え方感じ方が異なるだけで視力は一般と変わりません。見えない人である「全盲」、見えづらい人「弱視、またはロービジョン」の人たちの不便さは、次第に理解されつつあり、表示を点字や音声にしたり、字の大きさを大きくしたりと、社会に存在するモノが変わってきています。
しかし、色弱者の人たちが、社会で生活するうえで不便なことは、明らかにされてきませんでした。そのため、社会は色弱者に関して、関心を持たなかった、もしくは持てなかったという時代が続いてきました。
 
このような状況を改善するために、当事者の人たちを中心とした集まりをつくりました。
それが、NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構です。機構では、学識経験者も交えて、まずは、自分たちがどんな見え方をしているかを多くの人に知ってもらうために、体験用の色覚シミュレーターや模擬眼鏡などの開発に協力しました。
 
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さらに、製品や書籍などを開発する企業の人たちに、どのような色の組み合わせにすれば、色弱者の人たちにもそうでない人にも共有して使用できるかを伝えはじめました。
識別しやすくなった製品、表示、書籍などには、CUDのマークをつけ、色弱者の人も含めてみんなにとって使いやすいものだと判別できるようにしました。現在では、コピー機、テレビ、教科書、病院や公共施設のサイン、ATM、医療機器類、企業の報告書、教材、玩具など多くの物にCUDマークがついています。
 
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私たちは、人の色覚には多様性があり、少数派であることが異常でも何でもなく、恥じる必要がないこと、また多くの人に分かりやすい色使いの社会ができることを望んでいます。