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弔い2.0:ちゃんと悼むためのスタートアップ

「死者」がいる限り、「死」はビッグビジネスであり続ける。しかし、それは本当に満足な「死」を本人にも、遺された人にも与えているのだろうか。地縁・血縁・宗教にもとづく共同体が失われゆく時代、死をめぐるサーヴィスはいかなるものでありうるのか。デジタルテクノロジーはそこでどんな役割を果たせるのか。注目の葬儀スタートアップに話を訊いた。その他、注目の「デス・スタートアップ」9つを紹介。(『WIRED』VOL.14「死の特集」より全文転載)

 
 
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TEXT BY KEI WAKABAYASHI

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“He Was There All Along, II” by Derrick Tyson (CC:BY 2.0 Generic)

病院にせよ、介護施設にせよ、誰かが亡くなると、真っ先にやってくるのは葬儀屋だ。身内のなかでもとりわけ喪主となるべき人物は、そこから以後の段取りの細かい調整に明け暮れる。ゆっくりと故人と向き合う時間もない。流れ作業。誰かが、それをやらねばならないとはいえ「なんだかな」である。

そして続くお金の話。戒名ひとつ、松竹梅とオプションを出されても、故人のことを思えば「梅でいいか」とは、やっぱり言いづらい。見栄というよりも、そこは心情。故人を手厚く送ってあげたいというのは自然な想いだ。

「言ってみれば、誰かが亡くなったあとの一連のプロセスは、完全なブラックボックスなんです。一度、葬儀屋さんの仕入れの明細を見せていただいたことがあるんですが、見て驚きました。ここはデジタルテクノロジーで透明化し、効率化できる。そう思ってビジネスをはじめました」

語るのは葬儀スタートアップ、Amazing Lifeの篠原豊だ。スマホで葬儀、火葬のプロセスを一気にオンラインで発注できる明朗サーヴィス。その名も「シンプル葬」「シンプル火葬」。価格も火葬だけであれば、22万円。葬儀にかかる平均予算が200万円であることを考えれば、格段に安い。

仕組みは簡単だ。葬儀・火葬のメニューを細かく明朗化し、提携する葬儀屋さんや火葬場とのやりとりはすべてオンラインに集約。オペレーションコストを削減することで透明化と低価格を実現した。

「とはいえ価格が安い、ということに価値があるわけではないと思っています。実際、現在スマホを使ってうちに申し込んでこられるお客さんは、お金がないわけではないんです。むしろちゃんとお金を使いたい、と思ってるんですね。オプションとしての死化粧や遺体を長期保存できる、いわゆるエンバーミングという処理には、お金をかける方は多いんです。段取りや、予算のやりくりなどの時間を効率化することで『ちゃんと悲しむ』ことができる、ということがいちばん大事な価値なんです」

篠原自身数年前に両親を亡くした際、葬儀屋との段取りに明け暮れ、「ちゃんと悲しむ時間」を取れなかった後悔をいまももっている。その思いからビジネスを立ち上げたが、さらに大きなニーズがあることも見えてきた。

「シンプル葬やシンプル火葬をご希望されるお客さんの大半は、ご遺族の意向ではなく、むしろご本人なんですね。葬儀にお金をかけるくらいなら、余生を送るのに使ったほうがいい。そんな思いをもっている方はとても多いんです」



 
 
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